~シーン1 札幌市内某法律事務所~
(朝,誰もいない法律事務所に女性事務員が出勤して来る。掃除を始めようと思ったところ,床に寝ていた人物の足につまずいて転びそうになる。)
事務員A(山村紅葉風の女優)「きゃっ!(驚いて机の下を覗き込む。)んもう!華子先生,また徹夜ですか~?」
弁護士札弁華子(沢口靖子風の女優)「(寝ぼけながら)ああ~,再審請求の書面起案してたら徹夜しちゃって・・・」
事務員A「全く,嫁入り前の女性が。そんなところで寝てたら風邪ひきますよぉ。」
・・・
典型的2時間ドラマのオープニングである。何を隠そう,私は2時間ドラマの大ファンだ。2時間ドラマの中の弁護士(「2ドラ弁」と呼ぼう。)は,正義感に人一倍溢れ,行動的で,危険を厭わない。命を狙われても動じない。彼らは不死身だ。スケジュールも費用も報酬も度外視である。2時間ドラマの愉しみは,そんな現実離れした2ドラ弁にツッコミを入れることだ。
たとえば,2ドラ弁は,オープニング間もないころ,かなりの確率で死体を発見する。いくら刑事事件を扱っていても,現実の弁護士(「リアル弁」と呼ぼう。)は死体を発見することなどまずない。本物の死体だって満足に見たことがない。2ドラ弁は,犯人を探したり,事件の真相を突き止めたり,犯罪捜査を自ら行う。ときには,「私,ちょっと大阪まで行ってみるわ!」と,山村紅葉風の女性事務員の静止を振り払って思いつきで事務所を飛び出して遠方に出かけてしまう。しかも,いかにも観光ホテル風の宿泊施設に滞在し,そこで偶然にも第二の殺人が発生する。そして,顔なじみの刑事から「またあんたかい!捜査は警察に任せなさい。」と怒られる。
おいおい,2ドラ弁よ,その旅費や滞在費用は誰が負担するのだい?突然遠方まで出張に行って何日も滞在できるほどあなたの予定はガラガラなのかい?リアル弁は,通常,民事刑事に関わらず,同時進行で何件もの事件を抱えており,裁判所に行く予定が入っていたり,依頼者との打ち合わせが入っているなど,終日予定が何もない日は珍しいくらいだ。だから2ドラ弁のように思いつきで出張に行くことなどできやしない。
リアル弁の日常は,2ドラ弁のような華やかさはなく,死体も発見しないし,真犯人を見つけることもない。現場に赴いて目撃者を探し出すこともほとんどないし,重要な目撃証人に「あなた,本当に○○さんを見たんですか?本当のことを言ってください!あなたの証言で○○さんが殺人犯になってしまうんですよ!」と詰め寄ることもしない。そんなことをすれば,たちまち検察官から苦情が入るのは確実だろう。下手をすれば,刑事裁判の重要な証人を威迫したと疑われかねない。刑事裁判の法廷で,殺人を自白している被告人の証言台の周りを意味もなく歩き回り,「あなたは犯人ではない。」とも言わないし,ましてや,傍聴席にいる真犯人を指差したりもしない。
こんなに現実離れした2ドラ弁に心惹かれるのはなぜか。
きっと,2時間ドラマは現代の「時代劇」なのだ。時代劇のように勧善懲悪,悪い人が無罪放免になることはなく,最後には悪い人は必ず捕まるのが痛快なのだ。現代の世の中も勧善懲悪を求めているのだろう。そして,リアル弁の私たちも世の中のそういう要求に応えなければならない。
2012/09/15
【隔週一言】弁護士札弁華子の事件簿~北斗星から消えた謎の女・札幌上野ミステリールート~
