弁護士の使命や職務については、弁護士法に定められています。
「弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする」(弁護士法1条1項)、「弁護士は、前項の使命に基き、誠実にその職務を行い、社会秩序の維持及び法律制度の改善に努力しなければならない」(同条2項)、 「弁護士は、当事者・・・の依頼・・・によつて、訴訟事件・・・その他一般の法律事務を行うことを職務とする」(同3条)などです。
弁護士法3条の規定は一般の方もイメージしやすいと思います。事件の依頼を受け、代理人として裁判などを担当する、まさに典型的な弁護士の仕事です。
しかし、弁護士法1条2項に、ちょっと違うイメージの規定があります。後半の「社会秩序の維持及び法律制度の改善に努力しなければならない」という部分です。
弁護士の仕事は、当事者の方から事件の依頼を受け、その職務を誠実に行うことが基本ですが、それだけでは「社会秩序の維持及び法律制度の改善」までは果たせません。特に「法律制度の改善」については、事件を離れて研究や提言などを行わなければならないこともあります。
事件ばかりでなくこうした「法律制度の改善」も果たしていかなければ、将来の依頼者の方の権利利益を守れなくなってしまうこともありうるので、これも弁護士の大事な仕事になります。
こうした「社会秩序の維持及び法律制度の改善」については、個々の弁護士が個別に取り組むよりも、弁護士会という単位で取り組むことの方が一般的です。各地の弁護士会では「委員会」を設置して、人権問題や消費者問題など、様々な社会的問題について検討・研究したり、弁護士会としての社会に対する提言を作成したりしているのです。
さて、一弁護士としては、気持ちの問題として、目の前にいる依頼者の方々の権利利益を第一に擁護していきたいと考えるものです。
ですが、他方で、弁護士法で義務とされている「社会秩序の維持及び法律制度の改善」にも取り組み、世の中の制度自体をよりよくしていかなければ、結果として依頼者の方の権利利益も守れなくなるかもしれないとも考えます。
当然のことですが、時間には限りがあります。私という存在はこの世に一人しか存在しません。しかし、あれも大事、これも大事ということになれば、二者択一というわけにもいきません。かといってそのままでは仕事が進まないので、一時的にはやむを得ず優先順位をつけることもあります。ですが、そうなると今度は「今この仕事を最優先にしていてよいのだろうか」と、自問自答の繰り返しです。最終的には「目の前の事件対応が第一なのは間違いないが、法律制度改善の取り組みも今やらないでよいのだろうか」という悩みに行き着いてしまうのです。
とはいえ、悩んだからといって正解が出てくるわけもありませんので、そんなこんなで悩みながら、依頼された事件の対応に取り組みつつ、弁護士会の委員会活動も行う毎日です。
なお、弁護士会の委員会活動への参加は、原則として無償であり、直接的には全く収入になりません。
だからといって娯楽的な趣味として取り組んでいるわけではなく、あくまでも依頼者の方を含めたみなさんの「基本的人権の擁護」と「社会正義の実現」のための活動であるということを、もっと多くの方に知っていただきたいと思っています。