印鑑は,その所有者の意思確認としての重要なツールとなりますから,みなさん大切に保管されていることと思います。しかし,万が一印鑑が盗用されてしまい,書面に印鑑を押印されてしまうと,自分が確認した書面でないにも関わらず,多くは,印鑑所有者が書面の内容を確認・承諾しているものとされてしまいます。その理由は,印鑑は本人が大切に保管しており,本人の意思に反して印鑑が押印されることはほぼないという理解があるからです。しかし,実際に問題になることが多いのが,身内による無断の印鑑利用のケースです。
例えば,自分の配偶者が,自分名義の借金を作り,借用書に自分の印鑑が押されている場合,自分の子どもが,自分の印鑑を用いて勝手に子どもの連帯保証人にしていた場合,親が死んで遺産相続になったときに,遺言書が出てきた,自分の親がこのような遺言書を作成するはずがないが,遺言書には親の印鑑が押してあるという場合等々が挙げられます。
ここで,印鑑一つ押されているからといって諦めなければならないのかといえば,そうでもありません。
先ほど挙げた例で,自分の配偶者が勝手に自分名義の借金を作ってきた場合であれば,借金の額が高額であったり,別居中であったり,借金をする理由が全くなかったりなど,事情によっては,自分の意思に基づかない押印がされたことを立証できれば,責任を免れることができることがあります。自分の子どもが,自分を勝手に連帯保証人にした場合であっても,子どもが容易に印鑑を盗用できたことや,貸主の本人の意思確認が不十分であった等の事情があれば,責任を免れることができます。遺言書の偽造の場合も,いくら偽造者が本人の筆跡を真似ていても,思わぬところで地が出てしまっている箇所があり,遺言書は偽造者本人が作成し,印鑑は盗用したものであると立証できたケースもあります。
自分で解決方法を調べても見つからなかったという場合でも,実は突破口があったということもあります。ですので,このような場合は,一度専門家に相談してみることをおすすめします。
このように印鑑は厳重な管理が必要な面はありますが,かといって家族内でこれを厳格にしていると,生活が上手くいかないことも出てきます。ある程度の印鑑の管理に加えて,家族は大丈夫であるという信頼も大事であることはいうまでもありません。