例えば、タクシー会社や運送会社に勤めている運転手さんが業務中に交通事故を起こしてしまった場合、会社が支払った会社の車両の修理費や相手方の人的・物的損害などを、運転手さん本人が全額負担しなければならないのでしょうか。
答えは、NOです。
最高裁昭和51年7月8日判決は、「使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し右損害の賠償又は求償の請求をすることができるものと解すべきである。」とした上で、経費節減のため、対人賠償責任保険にのみ加人し、対物賠償責任保険及び車両保険には加入していなかった等の事実関係のもとにおいては、使用者がその直接被った損害及び被害者に対する損害賠償義務の履行により被った損害のうち被用者に対して賠償及び求償を請求しうる範囲は、信義則上右損害額の4分の1を限度とすべきものとしています。
勿論、4分の1というのは、当該事案限りの判断であり、負担すべき割合は、「諸般の事情」の内容により異なりますが、全額負担しなければならないのは、故意に事故を起こした場合などの極めて限定的なケースに限られると思います。
では、何か不祥事を起こして、懲戒解雇になった場合、解雇理由如何にかかわらず、退職金は一切支給されなくても仕方がないのでしょうか。
答えは、同じく、NOです。
最高裁判決は見当たりませんでしたが、一般的に、退職金は、賃金の後払い的性質と、功労報償的な性質とを併せて有していると言われており、双方の性質がどの程度の割合で含まれているかは、個々の退職金制度の仕組みにより異なるものの、賃金の後払い的性質が一切ない退職金制度というのは、従業員の場合にはまず考えられませんので、全額不支給が是認されるのは、業務上横領などで会社に多額の損害を与えた場合や、自ら競合会社を設立して他の従業員も引き抜いた場合などの極めて限定的なケースに限られると思います。
これらは、ほんの一例ですが、どんなトラブルでも、必ずしも「自分が悪いのだから仕方がない」とは限りませんので、まずは弁護士に相談してみるのが、何よりだと思います。