執筆:大谷 和広 弁護士
とある兄弟の話です。数年前に父が亡くなり、今度は母が亡くなりました。一緒に住んでいた長男は、葬儀の準備にてんやわんや。札幌で勤めている三男も駆けつけ、なんとか終えました。
しかし、本当に大変なのは葬儀でなく、その後に待ちうけることでした。
長男は、住んでいる家の固定資産税を払おうとしました。納付書をすみずみまで読み、ふと、あることに気づきました。家の所有者が、まだ、数年前に亡くなった父のままになっているのです!
長男は、家の名義の問題を、役場の税金係に説明しました。家庭の事情を知る職員は「弁護士に相談しなさい」といいます。なぜ弁護士なのでしょうか?
亡くなった方の家の名義を変えるのは、「遺産相続」という法律の問題です。今回のケースでは、父母が亡くなったので、子3名が相続します。そして遺産は相続人の「共有」なので、家は長男・次男・三男が3分の1ずつ所有します。
でも、家は長男が住んでいます。従って、弟たちから家の3分の1の権利を譲ってもらわなければならないのです。具体的には、「家を長男の名義にします」という書類(遺産分割協議書といいます)に、次男・三男のサインをもらうことになります。
次男は、父に反発して家を出ました。最近は盆や正月も帰りません。後継ぎの長男に複雑な気持ちがあるはずです。その長男からいきなり、難しい書類にサインしろと言われて、次男はすなおに応じられるでしょうか。
兄弟でも、感情のもつれから、遺産をめぐって交渉しなければならないことがあります。だから、交渉のプロである弁護士が必要となるのです。
長男は弁護士に依頼しました。弁護士がていねいな手紙を送っても、結局、次男は首をたてに振りません。ついに家庭裁判所で遺産分割の調停をすることになりました。亡くなった父母も予期しなかったことでしょう。
もし、父と母が遺言を書いていれば、この兄弟は争わずにすんだはずです。たとえば、「わたしがいなくなったら、この家はどうなるのか」。そんな風に思ったら、迷わず、近くの弁護士に相談してくださいね。きっとよい知恵を授けてくれます。
いま小さな疑問を解決することが、きっとあとで、大切な人たちを助けることになるのです。