執筆:竹田 美由紀 弁護士
「年金担保貸付」という制度を知っていますか?
年金を受け取る権利を担保に入れて融資を受ける制度で、借りたお金を受け取っている年金から返すのが特徴です。「年金の前借り」と言った方がイメージを持ちやすいかもしれません。
年金担保貸付を利用して融資を受けると、受け取る年金額が返済分だけ減ることになります。年金は、高齢者、障がい者、遺族などの生活の安定をはかることを目的としているため、年金担保貸付により、年金を唯一の収入としている高齢者らの生活が困窮する危険性が指摘されていました。
生活が困窮するような貸付はなされるべきではありませんが、一般の金融機関を窓口としていることや、借り入れ時の審査が形式的なこともあり、現実には、年金担保貸付により生活が困窮し、生活保護に至る人が絶えません。
借金が増えて生活に困窮した場合、自己破産手続を行って免責決定を受けると、通常は借金を支払わなくてすみますが、年金担保貸付を利用した場合は、自己破産手続を行って免責決定を受けても、年金からの返済は継続されます。これは、貸し付けた福祉医療機構には破産手続とは無関係に年金から回収できる特別な権利が認められているからです。
このように、年金担保貸付制度は、以前から問題視されており、多くの自治体関係者が廃止の検討や見直しを要請していたほか、弁護士で組織される日本弁護士連合会も廃止を求めていました。平成22年には年金担保貸付制度の廃止方針が出て、閣議決定されましたが、代替制度の拡充が進んでいないこともあって、依然として新規の年金担保貸付が行なわれています。
代替制度として拡充が検討されている生活福祉資金貸付制度は、低利で小口の融資制度であり、連帯保証人がなくても融資を受けられるようになるなど、借り入れ時の要件が緩和されましたが、窓口である社会福祉協議会の人的整備が十分になされていないなどの課題が残されています。
最後の手段として年金担保を頼る人も多く、高齢者をはじめとする年金生活者の生活の安定のため、早期に代替制度の拡充が求められています。