執筆:岡田法律事務所
岡 聖子 弁護士
近しい家族が突然亡くなった。お葬式をあげ,四十九日を終え,ようやく気持ちが落ち着いてきたころ,故人の遺品を整理していたら,故人名義の借金の請求書や契約書が出てきた。故人から生前,借金をしているなどという話は聞いたこともなかったので,まさに寝耳に水。自分は故人の相続人として,一体どのように対処したらいいのだろうか……。
このような事態に直面して悩まれる方は,少なからずいらっしゃいます。
亡くなった人(被相続人)の相続人となった方は,①預貯金や不動産などのプラスの財産も借金などのマイナスの財産も,すべてそのまま承継する「単純承認」,②プラスの財産がマイナスの財産を上回ったとき,その余りのみ承継する「限定承認」,③プラスの財産もマイナスの財産も一切承継しない「相続放棄」のいずれかを選ぶことができます。
冒頭に述べたケースでも,被相続人の財産状況を調べた結果,借金がプラスの財産と比較してあまりにも多額であれば,相続放棄等を検討する必要があるでしょう。
ここで注意しなければならないのは,相続放棄や限定承認をするためには,被相続人が亡くなり,自分が法律上相続人となった事実を知ったときから3か月以内に,家庭裁判所に対して申述する必要があるということです。この3か月という期間は,「熟慮期間」といいます。
相続するか放棄するかを決めるため,被相続人の財産状況について詳しく調べたいが,熟慮期間内に調査が終わりそうもない場合,あらかじめ家庭裁判所に熟慮期間伸長を申し立て,認めてもらわなければなりません。
なお,熟慮期間経過後になって,はじめて被相続人に借金があることを知ったという場合,相当な理由があれば相続放棄の申述が受理されることがありますので,あきらめずに弁護士等にご相談ください。
厳しい時間制限のある相続。一方で,大切な人を失ったご家族は,気持ちが動転し,何から手をつけたら良いのか分からない,という途方に暮れた心境に陥りがちです。ご不安がある場合には,おひとりで悩まず,まずは法律の専門家にご相談ください。