執筆:とまこまい総合法律事務所
竹田 美由紀 弁護士
65歳以上の高齢者は平成25年で日本の人口の4人に1人となり、20年後には3人に1人となると言われています。2000年に介護保険制度が施行され、高齢者の介護が社会的に注目されるようになってから、高齢者の虐待問題も注目されるようになりました。
平成18年に施行された「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」(高齢者虐待防止法)によると、「虐待」は、身体に対する暴力だけではなく、介護や世話の放棄や放任、侮辱や威圧的な態度などの心理的虐待、性的虐待、高齢者の生活に必要な費用を支払わないといった経済的虐待も含まれています。
虐待の要因としては、世話をする側の介護疲れ、病気や障害、経済的依存をはじめとしたさまざまな問題が複雑に絡んでいることが少なくありません。高齢者への虐待は、世話をしている家族によるものと思われるかもしれませんが、高齢者のいる施設内でも行われることがあります。
高齢者虐待防止法は、虐待を解消するために、区市町村が地域の関係者との連携・協力のもとで対応をすることを定めています。その際、弁護士は、法律の専門家として区市町村の権限行使に対して法的なアドバイスをする場合があるほか、虐待の解消のために必要な法的サポートをすることがあります(例えば、成年後見制度を利用して高齢者の財産を管理する、家族の経済的依存を解消するために生活保護申請のアドバイスや負債の整理をするなど)。
虐待されている高齢者は、認知症などにより判断能力が低下していたり、介護されているという負い目から、外部の助けを求めることが困難です。そのため、虐待が深刻になる前に早期に発見する必要がありますが、それには地域の住民からの情報提供が不可欠です。虐待がある、虐待のおそれがあると通報・相談した人の秘密は法律で守られています。
虐待の背景には、希薄な人間関係や、高齢者やその家族の社会からの孤立などといった社会的な問題があることも指摘されており、あいさつや見守りといった日常生活のささいな関係作りが虐待の発見や防止につながる可能性があります。人は誰でも年をとるため、将来自分が介護したり、逆に介護される可能性も否定できません。高齢者虐待は誰にも起こりうる身近な問題として、日ごろから関心をもつことが大事ではないでしょうか。