執筆:大谷和広法律事務所
大谷 和広 弁護士
<Eさんのご質問>
私は70代主婦です。夫が認知症となり、老人ホームに入所しました。夫は賃貸用アパートを所有しているので、夫に代わり、誰かが管理をする必要があります。しかし、最近では、何か月も家賃を支払わずに居座り続ける賃借人もおり、私の手に負えません。どうしたらよいでしょう。
<回答>
Eさんもご高齢で、賃貸用アパートの管理は確かに気苦労の多いことです。そこで、ご主人に「専門家後見人」をつけることを提案します。
ご主人は認知症なので、物事をきちんと理解し、周囲の人に伝えることができません。法律用語で「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く」者といいます。こうした方の財産をきちんと管理するために、成年後見人が、ご主人に代わって財産管理を行うことができるのです。
成年後見人を選ぶのは、家庭裁判所です。近しいご家族の方がなる場合を「親族後見人」、法律や福祉の専門職(弁護士・社会福祉士など)が選ばれる場合を「専門家後見人」といいます。なお、最近よく耳にする「市民後見人」は、専門資格のない一般市民が一定の研修を経て後見人になる場合です。
ご主人の場合、賃借人に滞納中の家賃を請求する、部屋からの立ち退きを迫る、といった交渉の必要があります。そこで、こうした交渉に慣れている弁護士を、専門家後見人に選んでもらうべきでしょう。家庭裁判所が経験豊富な人に依頼するので、弁護士の知り合いがいなくても大丈夫です。
成年後見人は、状況に応じた最善の方法で、財産を管理する義務があります。したがって、ご主人の成年後見人に選ばれた弁護士は、賃借人がこのまま家賃を払わない場合、必要に応じて「アパートから立ち退け」という民事訴訟も進めてくれます。
専門家後見人への報酬は、ご主人の財産の中から支払います。家庭裁判所が常識的な範囲で金額を決めます。「弁護士だから高いのでは」と心配しなくてもよいのです。
専門家後見人を選ぶためには、四親等内のご家族が、お近くの家庭裁判所に、成年後見の申立てをする必要があります。ご主人の場合、配偶者であるEさんが申立てをすべきでしょう。手続のしかたは、家庭裁判所で教えてくれます。また、ご主人が入所中の老人ホーム、地域包括支援センターには社会福祉士がいるので、その方に教わるのもよいかもしれません。家庭裁判所への申し立ての費用は、原則として2~3万円です。申し立てまでの準備期間は、スムーズに進められれば2~3か月です。