執筆:岡田法律事務所(苫小牧市)
岡 聖子 弁護士
本日は,証拠を残しておくことの大切さについてお話しします。
お金の貸し借りや売買した物に関するトラブル,労働問題など,法的な紛争が起こった場合,当事者同士の話し合いで問題が解決しなければ,最終的には民事裁判で争うことになります。
民事裁判には,誰かに何かを請求する場合,請求者の方で,その根拠となる事実を主張しなければならない,という決まりごとがあります。
たとえば,他人に金を貸した貸主が,借主に対して,「金を貸したので返してほしい」という裁判を起こすとします。この場合貸主は,貸金返還請求の根拠となる事実,つまり「借主との間で金を貸すという合意をしたこと」,「実際借主にお金を渡したこと」,「返済期限を合意したこと」,「その返済期限が過ぎたこと」を主張する必要があります。
これらの主張について借主が特に争わなければ,金の貸し借りの事実は,裁判上「あったこと」として取り扱われます。
しかし,もし借主が,「金を受け取ったことなどない」とか「金は受け取ったが,借りてはいない。もらったものだ」などといって主張を否定すれば,貸主は,争いのある事実を,証明する必要が出てきます。
ここで登場するのが,「証拠」です。
例えば契約書や借用証書があれば,一般的に,上に書いた事実を全て立証することができます。
しかし,このような契約書がなく,単に口約束で貸したにすぎない場合,立証は大変です。どうしても証拠のない部分は,当事者本人や関係者の証言で立証することになりますが,書類等の客観的証拠に比べ,確実性が低いと見られがちです。
請求者が証明すべき事実を立証できなければ,請求者の請求は認められず,裁判に勝つことはできません。
このように,証拠をきちんと残しておく,ということは,法律上の問題を有利に解決するために,とても大切なことなのです。
もちろん普段,常に裁判を意識し,あらゆる証拠を集めながら日常生活を送る,ということはあまり現実的ではないのかもしれません。
しかし,少なくとも金の貸し借りをしたときや,高額な物を購入したときに契約書を作成したり,多額のお金を払ったときに領収書を保管したりするなど,重要な契約やトラブルになりやすい法律行為に関して,習慣的に証拠を残しておくことは,将来の紛争の備えとして,とても意味のあることだといえるでしょう。