執筆:大谷和広法律事務所
大谷 和広 弁護士
裁判では、似ているけどまったく意味が全く違う言葉があります。代表例が、「被告人(ひこくにん)」と「被告(ひこく)」です。被告人は刑事訴訟、被告は民事訴訟で使います。
「刑事訴訟(けいじそしょう)」は、犯罪をした人に対する刑罰を決める手続です。刑事訴訟で刑罰を受ける人を被告人といいます。
「民事訴訟(みんじそしょう)」とは、お金の貸し借りやアパートの立ち退きなど、市民間の法的トラブルを解決する裁判のことです。民事訴訟を起こした当事者を原告、起こされた当事者を被告といいます。
「被告」と「被告人」は、世間でも、しばしば混同して使われます。たとえば、テレビのニュースでよく「☓☓被告はやつれた面持ちで法廷に出頭し、裁判官の問いかけに『間違いありません』と答えました・・・」などと言っていますね。これは刑事訴訟のことなので、正確には「被告人」です。
刑事訴訟について、もう少し説明しましょう。たとえば、コンビニで万引きをするのは、窃盗罪です。刑法には、窃盗をした人には10年以下の懲役か50万円以下の罰金を科す、と書いてあります。しかし、無実なのに処罰されることがあってはならないので、その人が本当に万引きをしたのか、キチンと証拠を調べて判断する必要があります。また、同じ万引きでも、初めてしたのなら罰金刑、何度も繰り返しした場合は懲役刑、というように、適切な刑罰は事情によって異なります。このように、被告人が有罪か、その刑罰をどうするかを裁判官が決める手続が、刑事訴訟です。
これに対して、民事訴訟は、対等な当事者間の法的トラブルを解決するための手続です。たとえば、お金を貸したけど借主の行方が分からず、保証人である知人にお金を返すよう求めた、という民事訴訟を考えてみましょう。この場合、お金を返せという民事訴訟を起こした貸主が「原告」、民事訴訟を起こされた借主の保証人が「被告」になります。
裁判官は、借用証書などの証拠を調べ、原告の言い分を認めれば、「被告は原告に金△万円を返せ」という判決をします。
一方、借用証書を調べたら、保証人欄の署名が被告本人の筆跡とは異なる、と分かったとしましょう。この場合、保証人が支払義務を負うべきではありません。従って裁判官は「原告の請求を棄却する」という判決をします。
言いかえると、「被告」は民事訴訟で防御しなければならない側という意味です。防御に成功したら、民事訴訟で勝つこともあります。「被告人」と混同されるのも、少々気の毒な気がします。
以上