執筆:大谷和広法律事務所
大谷 和広 弁護士
公職選挙法が改正され、18歳から選挙で投票できるようになりました。しかし18歳の投票率は高くても、19歳で投票率が急落する傾向にあるのだそうです。そこで、未成年者に選挙権がないわけを憲法から考えてみましょう。
国民主権(憲法前文)はごぞんじですね。政治の主役は私たち国民です。したがって国や地域の重要な決定をする政治家も、国民が選挙によって選びます。このように、私たちの生活にさまざまな影響を及ぼす政治家を私たち自身で選ぶ(自己統治)ことに、憲法は大きな価値を見いだしています。
自己統治の価値をささえるのは「幸福追求権」(憲法13条後段)です。国民が幸せを求める権利は、政治の場面でも最大に尊重されます。ただ、幸せのありかたは人さまざまで、政治家が個人の幸せを勝手に決めていいわけではありません。そこで憲法は「個人として尊重される」ことが共通の幸福だと定めました(憲法13条前段)。つまり、国民はみな自立した個人で、自分のことは自分で決められる(自己決定)。そのかわり自分の決めたことには自分で従い、その結果は受け入れる(自己責任)。これが憲法の考える幸せのかたちです。
選挙権についても自己決定と自己責任は当てはまります。わたしたち大人は、政治家を自らの投票で選んだ場合、その政治家がした政治的決断を受け止める必要があります。いっぽう未成年者は、身体も精神もまだ成長過程にあります。自分の未熟な判断による責任を本人に課すべきではない。最終責任を負うべきはあくまで大人だけ。だから未成年者には投票権がないのです。
18歳に大人の選挙権を与えることは、18歳に大人の責任を課すこととセットです。たとえば皆さんの周囲の高校3年生を思い浮かべてください。この子らはしっかりしているから自分で責任をとれると感じれば、選挙権も与えてよい。いや責任はまだまだと感じるなら、選挙権は時期尚早なのでしょう。
ここからは私見ですが、19歳になってから選挙に行かなくなる理由は、巷で言われる“若者の政治離れ”とは限りません。投票の意味を自分なりに真剣に考え、今の自分を見つめ直し、大人の責任を果たせないから投票を辞退した人も少なくないはずです。結局、公職選挙法の改正が正しいかは、今の18歳が政治に関して大人の責任をどこまで担うべきか、ということなのでしょう。
と、ここまで書いたところで、外野から大人のヤジが聞こえてきました。
「いまの政治家も自分のしたことに責任とれない奴らばかりだよ!公職選挙法だってマスコミ受けを狙ってスタンドプレーで改正しただけでないのか?」
まあ、その政治家を選挙で選んだ私たち大人の責任がありますしね(苦笑)。選挙権を得た18歳の皆さんに大人の事情は言わないでおきましょう。
以上