執筆:浦河ひまわり基金法律事務所
小荒谷 勝 弁護士
今年は、超大型連休がありますので、この機会に旅行の計画を立てている方も多いと思います。今回は、以下のような旅行先で生じ得る事例について考えてみます。
連休中に以前から楽しみにしていた硫黄泉が評判の温泉旅館へ車で出掛けました。旅館敷地内の専用駐車場に車を停め、駐車場で出迎えてくれた旅館の従業員に鍵を預けていました。しかし、旅館に入った後、後から来た別の宿泊客の車が自分の車に衝突してきたため、車の修理が必要となってしまいました。相手方が任意保険に入っていなかったこともあり、旅館に対して修理代を負担してもらえないかと持ちかけました。
しかし、旅館からは「駐車場内の事故等について当館は一切責任を負いません」と駐車場に表示してあることを理由に断られてしまいました。
この場合、旅館に言われたとおり、修理代を負担してもらうことは難しいのでしょうか。
まず、旅館の専用駐車場に停めてある車の鍵を旅館が宿泊客から預かっている場合、旅館と宿泊客との間では、車を預かるという契約(寄託契約)が成立していると考えられます。この契約においては、旅館は不可抗力による場合を除き、駐車場内で起きた車の損傷などの損害を賠償する責任を負うことになります。この不可抗力とは、旅館の事業の外部から発生し、通常の注意を尽くしても発生を防止できない場合をいいます。
今回の事案では、旅館との間で寄託契約が成立していると考えられます。そこで、今回の衝突事故が不可抗力によるものか検討することになります。
本件が、衝突してきた車の運転手の運転技能の不足から起きた事故であった場合には、旅館が通常の注意を尽くしても防ぎようがなかったといえます。この場合には、不可抗力によるものであるとして、旅館に対し、損害の賠償を求めることはできません。
ただし、以下のような事情があれば結論が異なる可能性があります。例えば、「旅館従業員の誘導ミスが原因で事故が起きた」「照明が不十分であったために視界不良が原因で事故が起きた」などの事情があれば不可抗力であったとは認められず、旅館に対して、損害の賠償を請求することは可能となります。
なお、「駐車場内の事故等について当館は一切責任を負いません」との表示が駐車場にあったとしても、法律上当然に旅館が一切責任を負わなくなるものではありません。
以上