執筆:ひだか総合法律事務所
原 英士 弁護士
「遺言(いごん)」とは、遺言者の死亡とともに一定の効果を生じさせることを目的とする相手方のない単独行為をいいます。例えば、遺言者は、自分が亡くなった後、相続財産を特定の人に引き継いでほしい場合や、相続人に対する相続財産の分配方法を決めたい場合に、その意思をできる限り実現させるため、遺言を作成することになります。
ところで、遺言は、民法で定める方式に従わなければすることができません(民法960条)。代表的な方式は2つあり、ひとつは自筆証書遺言(同法968条)、もうひとつは公正証書遺言(同法969条)になります。自筆証書遺言は、文字通り自書で(自分の手で書いて)作成します。一方、公正証書遺言は、公証役場で公証人が遺言者の口述を筆記し、これを遺言者に読み聞かせ、または、閲覧させ、作成します。ところが、日高地方には公証役場がなく、最寄りの公証役場は苫小牧市あるいは帯広市にあるため、日高地方にお住まいの方が公正証書遺言を作成する場合、公証役場への長距離移動の分、労力がかかります。そこで、遺言作成の相談を受けるとき、自筆証書遺言の作成について時間を割いて説明することが比較的多くなります。
自筆証書遺言のメリットは、費用がかからず手軽に作成できることです。一方、デメリットは、方式の誤りによって遺言が無効になってしまうリスクがあることです。自筆証書遺言は、遺言者がその全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押す必要があり(同法968条1項)、この要件を欠くと遺言は無効になってしまいます。
このように自筆証書遺言は全文を自書する必要があるため、相続財産が多い場合、相続財産の目録を作成することはとても大変でした。そこで、民法が改正され、平成31年1月13日から、相続財産の全部または一部の目録については、一定の条件(その目録の毎葉(自書によらない記載が両面にある場合はその両面)に署名押印すること)をクリアすれば、自書しなくても、例えばパソコンで作成したり、通帳のコピーや不動産の登記事項証明書等を添付しても、自筆証書遺言の方式として認められるようになりました(同法968条2項)。これにより、例えば、複数の相続財産を複数の相続人に分配する等の内容の自筆証書遺言は、作成が格段に容易になりました。
遺言に関し、疑問やお悩みがあるときは、すぐに、ご遠慮なくお近くの弁護士にご相談いただければと思います。
以上