執筆:ひだか総合法律事務所
原 英士 弁護士
平成30年に改正された相続法(民法)の大部分の規定が、令和元年7月1日、施行されました。そのうち、今回、取り上げる規定は「遺産分割前の預貯金の払戻し制度」(民法909条の2)になります。
かつて預貯金は、遺産分割の対象ではなく、相続開始(被相続人死亡)の時点で、各共同相続人(複数の相続人がいる場合のそれら相続人)の法定相続分に従って当然に分割されるものでした。例えば、親の相続人が子どもら2名のみで「120万円」の親名義の普通預金がある場合、その預金は、親が亡くなった時点で、子どもらの法定相続分2分の1に従って「60万円」ずつ分割され、子どもらは、それぞれ単独で60万円の預金を払い戻すことができました。
しかし、平成28年12月19日、最高裁判所は、判例を変更し、預金債権が遺産分割の対象になると判断し、預金債権は、各共同相続人の法定相続分に従って当然に分割されないことになりました。その結果、各共同相続人は、遺産である預金を葬儀代や相続人の生活資金等に充てる必要がある場合でも、共同相続人間で遺産分割協議が整わない限り、預金を払い戻すことができなくなりました。
そこで、このような不都合を解消するため、民法909条の2が制定され、各共同相続人は、相続開始時点の預貯金債権額の3分の1に法定相続分を乗じた額(ただし、法務省令により150万円が限度)について、預貯金を単独で払い戻すことができるようになりました。前述の具体例の場合、子どもらは、120万円の3分の1に法定相続分2分の1を乗じた「20万円」を、それぞれ単独で払い戻すことができるようになりました。なお、この規定は、令和元年7月1日の施行日以前に亡くなった被相続人の預金債権にも適用があります。
令和元年7月1日に施行された改正相続法(民法)には、その他にも、夫婦間における居住用不動産の贈与等に関する優遇措置(民法903条4項)、遺留分制度の見直し(民法1042条以下)、特別の寄与制度(民法1050条)等、重要な改正がなされているものがあります。また、令和2年4月1日には、配偶者居住権の規定(民法1028条以下)が施行され、さらに、同年7月10日には、法務局での自筆証書遺言の保管制度が施行されるなど、相続に関する重要な規定や制度の施行が続きます。相続や遺言に関し、疑問やお悩みがあるときは、すぐに、ご遠慮なくお近くの弁護士にご相談いただければと思います。
以上