執筆:松永法律事務所
松永 聡志 弁護士
「時効」は法律の専門家でない方でも一度は耳にしたことがある言葉だと思います。民事上の時効には、一定期間が経過すると権利を主張することができなくなる消滅時効と一定期間ある物を占有(事実上支配すること)することでその物に対する権利を取得できる取得時効がありますが、民法の一部改正により令和2年4月1日から施行される法律では消滅時効に関するルールがこれまでと変わることになります。
今回は改正される消滅時効関係のルールのうち、時効期間の見直しの点について紹介したいと思います。
お酒好きの方であれば(あまり好ましいこととは言えませんが・・・)「飲み屋のツケは1年で時効」ということを聞いたことがあるかもしれません。
消滅時効の期間について、これまでの法律では、まず権利者が権利を行使できる時から10年間行使をしなければ権利が消滅するという原則的なルールがあり、例外的に取引の内容等に応じた個別の時効期間が設けられる形になっていました。
上記の「飲み屋のツケ」も、これまでの法律では例外的な時効期間のケースとして規定され、料理店や飲食店などの飲食料に関する債権として、店側の権利者が1年間権利を行使しないときは消滅するとされていました。また、飲食料のケースのほかにも、例えば、工事の設計に関する債権は3年、小売商人が売却した商品の代価に関する債権は2年というように取引別の例外的なルールが細かく定められていたため、権利者はその権利の時効期間が何年であるかということに注意を払う必要がありました。
しかし、改正後のルールでは、こうした取引別の時効期間に関する規定は削除され、また、これまで原則10年だった時効期間も長すぎるのではないかという指摘もあったことから、新たな原則として「債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき」か「権利を行使することができる時から10年間行使しないとき」のいずれか早い時期に消滅時効が完成するという統一的な規定が設けられることになりました。
一部の例外はありますが、これによって権利の時効期間をある程度一律に考えることができるようになります。
なお、こうした改正後の時効のルールは、一部の権利を除き、原則として改正民法が施行された日以降に発生した権利について適用されることになります。
時効については今回紹介した以外の点についても改正がなされています。また、本年は時効に限らず、これまでの民法の多くの規定が変わる年でもあるので、お困りの場合にはお気軽に弁護士にご相談ください。
以上