執筆:とまこまい総合法律事務所
竹田 美由紀 弁護士
パソコンやタブレットが身近なツールとなり、特にスマートフォンが爆発的に普及するようになってからは、誰でも、いつでも、どこでもインターネットを利用することができるようになりました。操作一つでインターネットに接続することができ、すぐに欲しい情報を入手することができます。また、ブログを開設したり、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)などに登録することにより、誰でも投稿や情報の拡散をすることができ、不特定多数の人と交流することができるようになりました。中には匿名で掲示板に書き込めるサイトもあり、不特定多数の人に情報を発信したり、交流することもできます。
このように、インターネットはとても手軽で便利な存在になりましたが、それにより、インターネット上で名誉毀損やプライバシーが侵害されるといったトラブルも増えてきました。インターネットは不特定多数の人に情報を瞬時に伝えることができ、情報を見た人は更に不特定多数の人に情報を拡散することができるため、一度拡散されるとすべての情報を削除することはほぼ不可能です。その結果、情報発信者に悪意がなくても、名誉を毀損したり、プライバシーを侵害することがあるのです。
少し前のニュースですが、あおり運転の容疑者(Aさん)が相手の人(Bさん)を殴ったとされる事件で、Aさんと一緒にいた人(Cさん)が、AさんがBさんを殴る様子を携帯電話(ガラケー)で撮影し、その様子がテレビなどで流されると、「ガラケー女」として話題になりました。インターネット上でCさんを特定する人が現れ、名前やSNSのアカウント、写真などが不特定多数の人に拡散されました。しかし、実際には、その名前やアカウント、写真は事件と無関係な女性(Dさん)のものだったことが判明し、DさんはCさんと別人であるにもかかわらず、誤った情報(デマ)が拡散された結果、不特定多数の人から誹謗中傷を受けたのです。Dさんは、誤った情報(デマ)を流されたことにより名誉が毀損されたことを理由に、誤った情報(デマ)を投稿した人に対して慰謝料を求める訴訟を提起しました。また、不適切な言葉で情報を拡散した人に対しても、投稿者を特定できれば同様に訴訟を提起する方針とのことでした。
インターネット上に情報を投稿する人の中には、実名を出さずに実名以外の名前を呼び名としたり、匿名で発信する人もいますが、「発信者情報開示請求」という手続きにより、情報を発信した人の情報が開示されることがあります。その場合は、実名を使用していなくても、発信者を特定することができ、名誉毀損やプライバシーの侵害など違法行為があれば法的責任を負うことがあります。なお、名誉毀損について誤解している人が少なくないのですが、情報が真実であっても名誉毀損に当たる場合があります。
情報の投稿や拡散など発信行為は権利の一つ(表現の自由)ですが、他方で権利の行使には責任が伴います。誰でも、いつでも、どこでも利用できるツールということは、「不特定多数の人が、いつでも、どこでも見ている」ツールでもあります。これらのことを念頭に置きながら慎重に発信することが必要です。
以上