執筆:原 英士 弁護士
先日、「政府が、民事裁判手続きの完全なオンライン化を内容とした民事司法制度改革の最終案をまとめ、2022年の民事訴訟法改正を目指す」という内容の新聞記事を目にしました。この改正が実現すると、概要、以下の3つのことが可能になるとされています。
1つ目は、「裁判書類のオンライン提出」になります。現行の民事訴訟は、原告が、用紙を使って作成した訴状を裁判所に郵送または持参して提出しています。また、当事者双方は、準備書面などの書類を主に郵送やFAXで裁判所や相手方に提出しています。
2つ目は、「インターネットによるウェブ会議での審理」になります。現行の民事訴訟でもウェブ会議は実施され始めていますが、現時点、全ての裁判所で実施されているわけではなく、遠隔地からの裁判期日への参加は、まだ「電話会議」が主流だと思います。また、現行の民事裁判の証人尋問手続きにおいて、「ビデオリンク方式」という方法で証人を法廷に呼ばず尋問を行うこともありますが、この方法はあくまで例外であり、証人が法廷に出頭して証人尋問を実施する方法が原則になっていると思います。
3つ目は、「訴訟記録を電子データとして管理し、インターネット経由で閲覧やダウンロードすること」になります。現行の民事訴訟における訴訟記録は、概ね書面(紙媒体)で保存されているので、その閲覧・謄写をする場合、裁判所に出向く必要があります。
以上の改正案について、私個人の意見として、裁判書類のオンライン提出や訴訟記録の電子データ化は、セキュリティの問題がクリアされれば極めて有益だと思います。また、ウェブ会議での審理は、日高地方にお住まいの方々が、遠距離にある裁判所に行かなくても裁判官や相手当事者の顔を見て審理を進めることができる等、有益な側面があると思います。一方、証人尋問のオンライン化の拡充については、証人の顔色、息づかい等に対応して反対尋問すべきことを瞬時に考えることが難しくなるのではないか、また、裁判官の心証形成にも影響があるのではないかと思っています。
昨今のコロナ禍によって、リモート環境が飛躍的に発達し、民事訴訟のオンライン化は、時代の流れに沿ったものとして有益な側面も多いと思います。一方、その運用によっては、真実発見や司法への信頼という民事訴訟の本質を後退させてしまうおそれもあると思います。そこで、弁護士としては、民事訴訟のオンライン化のメリット・デメリットの見極めが大事になると考えています。
民事裁判のオンライン化その他民事裁判について疑問やお悩みがあるときは、すぐにご遠慮なくお近くの弁護士にご相談いただければと思います。
以上