執筆:大山 洵 弁護士
「相手方がお金を支払ってくれない。」と、支払いを請求したい側の立場から、しばしば「相手方の財産の差押えをしたい!」とご相談を受けることがあります。「差押え」とは、簡単にいえば、「裁判所を通じて」相手方の預金や給料、不動産などの財産を強制的に押さえ、その中から(不動産であれば強制的に競売に掛ける等して)金銭の回収をするという手段になります。果たして、相手方が約束に反してお金を支払ってくれない、というだけで直ちに差押えの手続きを採ることはできるのでしょうか。
答えとしては、既に裁判所で法的手続を行って「判決」を得ている場合や「調停」が成立している場合、既に公証役場で「公正証書」を作成している場合などであれば可能である、というものになります。
要するに、そもそも相手方と書面を交わしていないような場合や、当事者だけで作った合意書や覚書が存在する場合だとしても、直ちに差押えに進むことはできないのです。法的手続を経たうえで裁判所に権利を認めてもらうか(「判決」、「裁判所を通じての和解」、「調停」の成立など)、相手方にも公証役場に来てもらい、一緒に「公正証書」を作成するなどしないと差押えに進むことはできません。
これは、「差押え」は相手方の財産から強制的に金銭を回収できてしまう強力な手段であるため、裁判所という国家機関にその前提となる権利の存在を確定してもらうことや、同じく国家機関である公証役場が関与する中で作成された文書を要求することで、慎重さを担保するためです。
ですので、相手方と金銭の支払いを巡ってトラブルになってしまった後、当事者同士で金額や支払方法について話がまとまりそうなのであれば、費用や労力は掛かりますが「公正証書」の形にしておくことをお勧めします。先ほども述べましたが、ただの紙に約束内容を買いて双方が署名押印しただけ(いわゆる合意書、覚書など)では、結局、その後相手方が支払条件や約束を守らなかった場合に差押えに進むためには、裁判手続を起こすか、もう一度相手方と話をして公正証書を作るなどする必要があり、余計に手間が掛かってしまうからです。
ちなみに、他にも差押えに進むための法的手続として「支払督促」や「即決和解」などといった制度もあるのですが、今回は割愛します。また、差押えとよく似た手続として「仮」差押えという手続があります。これは、基本的には、相手方に法的手続を起こす前に財産を移動させられてしまうのを封じることを目的とするもので、直接的に金銭を回収することを目的とする制度ではありません。
いずれにせよ、金銭トラブルを抱えてしまった場合、どのような順番でどういった方法の元に進めていけばよいのかについては簡単に答えが出ないことも多いです。そのため、まずは弁護士にご相談いただくことをお勧めします。
以上