執筆:平尾 功二 弁護士
1 「和を以て貴しとなす」というように、日本人は争いごとをできるだけ避けると言われることがありますが、実際のところはどうでしょうか。
私のイメージとしては、結構、好戦的な方も多分におられるように思います。
逆に、弁護士というと、「すぐに訴訟する」というイメージをお持ちの方も多いかもしれません。
しかし、実際の業務では(おそらく大半の弁護士は)、裁判所における「訴訟」よりも、書面のやり取りや電話でする「交渉業務」がかなりの割合を占めているのではないでしょうか。
2 結局、「交渉」で話がつかない場合には、「訴訟」をせざるを得ないということになるのですが、それならなぜわざわざ「話し合い」から入るのでしょうか。
いろいろな事情があります。
訴訟になると時間と費用が必要となります。一概には言えませんが、交渉の弁護士費用は訴訟の弁護士費用(着手金)よりも低額で設定されていることが多いと思います。そして、何より、訴訟になると判決になるまでとても時間がかかるのです。1年以上かかることもよくあります。
それらもあって、とりあえず任意の交渉から始めて、相手方と協議をし、合意を目指すということになります。
もちろん、双方の主張が平行線で、訴訟をしないと話がつかないというケースもありますが…。
3 簡易裁判所で行われる民事調停を申し立てるということがあります。
なんだ、結局裁判所に訴えるんじゃないかと思われるかもしれませんが、民事調停は裁判所での話し合いとなります。
離婚調停、遺産分割調停といった手続を聞いたことがあるかもしれません。家事事件だけではなく、貸金返還請求などの一般的な民事事件も調停から始めることができます。家事事件の調停は家庭裁判所で行われますが、一般の民事事件の調停は簡易裁判所などで行われます。
イメージとしては、裁判官もしくは民事調停官が1名、調停委員2名が裁判所の調停室に待機し、申立人と相手方それぞれ別々に主張や意見を聞き、紛争を解決するための合意ができるかどうかを仲介することになります。
個別に話を聞かれるので、直接、顔を合わせたり、電話で話をしなくてもよいというメリットがあります。待機している部屋も別々で、調停終了後、鉢合わせしないように帰る時間を調整してくれたり、いろいろ配慮してくれます。
また話し合いの間に入るのは、中立の立場である民事調停官や調停委員ですので、公平な話し合いをすることができます。
手続としては訴訟よりも複雑ではなく、裁判所に書式や記載例も用意されているので、弁護士を立てずに本人で申し立てられる場合もあります。
弁護士も「訴訟」ではなく、あえて「調停」という紛争解決手段を選択することがあります。
例えば、「ご近所さん同士のトラブルだから、できれば話し合いにしたいな」とか、「これは訴訟で白黒つけるというよりも、より柔軟に当事者同士で取り決めをするのが適切な事案だな」とか、いろいろな事情があって、「訴訟」ではなく「民事調停」という紛争解決の方法をあえて選ぶことがあります。
4 話し合いの末、双方、合意に達することができる場合、「調停調書」という文書が裁判所で作成されます。もし、その合意が金〇〇万円をいついつ支払うというような内容であれば、それは判決と同じような効力を持ち、相手がそれを守らない場合には「調停調書」で差し押さえなどの強制執行をすることもできます。
もちろん、内容によっては紳士条項的なものに過ぎない合意もありますが、やはり裁判所で合意したということで、双方守ろうという気持ちになることが期待できます。
こうして、双方が話し合い、譲歩し、合意が成立したという過程こそが、紛争を根本的に解決することにつながるのではないかなと思います。
5 このように、民事調停という制度がありますので、頭の片隅にでもとどめておいていただいて、何かトラブルが発生した際にぜひ思い出してみてください。
また民事調停を起こされた場合も、怖がる必要はありません。
「裁判所で話をするのだな」と考えて、自分の考えや事情を調停委員に説明をするようにしてみてください。
思っているよりもうまく紛争が解決する、かもしれません。
以上