執筆:吉崎 佑紀 弁護士
■知っていますか?夫婦財産契約
ニュースで、海外セレブが離婚するときに婚前契約(プレナップ)に従い数億ドルの支払をした!などという話を聞いたことがあるかもしれません。
日本では、だれかが結婚するときに婚前契約を結んだという話は、あまり聞きませんよね。
しかし、日本の民法の中には、婚前契約の一種である「夫婦財産契約」に関する条文が置かれているのです。
■民法上の夫婦財産の定め
これから夫婦になる人が、結婚(婚姻届の提出)前に夫婦財産契約を結んだときは、その契約に従って財産関係が定められます(民法755条)。夫婦財産契約では、結婚中にかかる婚姻費用の分担方法や、夫婦の財産の帰属方法等を定めることができます。
他方で、結婚前に夫婦財産契約を結ばなかった場合は、民法の条文に従って夫婦の財産関係が定められます。日本で夫婦財産契約が結ばれている例はめったに見られませんので、ほとんどの夫婦の財産関係は、民法に従っています。
民法が定める夫婦の財産の基本は、「夫婦別産制」です。つまり、結婚しても、自分の財産は自分のものということになります。
これを読んで、「あれ?夫婦の財産は共有なんじゃないの?離婚のときには財産を半分に分けるんでしょ?」と思う方もいらっしゃるかもしれません。
民法は、結婚前から持っていた財産と結婚中に自分の名前で得た財産は、その個人の財産(特有財産)だと定めています。他方、夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は、夫婦の共有の財産(共有財産)だと推定されます。結婚前からコツコツ貯めていた預貯金や、結婚後に相続した財産は、個人の財産(特有財産)になりますので、仮に離婚をすることになっても、分配する必要はありません。
「じゃあ、結婚後、自分が稼いで貯めたお金も、『自分の名前で得た財産』として、財産分与の対象にならないんだ!」…というわけではありません。形式的には一方の名前で得た財産でも、実質的には夫婦が協力して得た財産と考えられるからです。例えば夫が会社で働き、妻が専業主婦の場合、夫の給料は、妻の協力のもと得たものだと考えられています。そのため、結婚中に一方が稼いで貯めたお金も、2分の1ずつ分けられることが多いのです。
■円満な結婚生活のためにも、約束事はしっかりと
民法では、夫婦の間で結ばれた契約は、結婚期間中、一方的に取り消すことができるとされています(民法754条本文)。結婚中に結ばれた夫婦の契約は不安定なものになることから、夫婦財産契約は結婚の前に結ぶ必要があります。
結婚は、2人の個人が共同して家庭を運営していくという意味で、会社経営にたとえられることもあります。会社が規則を定めているように、結婚中の決まりごとも、結婚前に考えてみてはいかがでしょうか。
以上