執筆:髙橋 智美 弁護士
民法の「嫡出推定」の規定を見直す改正民法が成立しました。2024年の夏までに施行されます。嫡出推定の見直しは、1898年(明治31年)の民法施行以来、初のことです。
嫡出子とは、法律上の婚姻関係にある男女から生まれた子のことです。一定の期間に生まれた子は、法律上の夫婦の子と推定されるのが嫡出推定です。
具体的には、民法772条の規定で、①婚姻の成立の日から200日経過後に生まれた子、②婚姻の解消の日から300日以内に生まれた子、が夫の子と推定されます。
その背景には、扶養義務を負う父親を早く確定するのが子供のためであるという考えがあると言われます。特に、DNA鑑定がない時代には、生物学上の父親の特定が困難だったという事情はあるでしょう。
しかし、様々な事情により、①②の期間の子であっても、実際には夫の子ではないというケースがあります。例えば、妻が夫のDVから逃げて別居し、長期間、離婚に応じてもらえず、新しいパートナーとの間で子供を授かるというようなケースがあります。また、離婚後に授かった別の男性との子が、②の期間に早産で生まれてくる、というケースもあるかもしれません。
このような場合、子供の出生届を出すと、戸籍上、嫡出推定が及ぶ夫の子となってしまうので、出生届を出せずに無戸籍状態になっている子がいるという大きな問題がありました。無戸籍状態だと、諸手続の際や、行政サービス等を受ける上で支障・不便がありますし、就学すら困難だった時代もありました。
今回の改正では、嫡出推定の例外として、女性が出産時点で再婚している場合は、現夫の子とされることになりました。しかし、再婚していない場合については今まで通りであるため、全ての無戸籍問題が解消されることにはなりません。
ただし、嫡出推定を覆すための、「嫡出否認の訴え」(民法775条)を起こせる人が、これまでは父親だけだったのが、その権利が母親・子どもにも拡大されたことは前進です。
また、嫡出否認の訴えの申立期間が、法改正前は、出生を知ってから1年以内だったのが、原則3年以内ということで、申立できる期間も長くなります。改正法の施行後1年間は、施行前の出生についても、嫡出否認の訴えの対象となります。
このような期間の制限がありますので、もし、無戸籍問題や、嫡出推定の関係でお悩みの方は、今回の法改正を契機に、お早めに弁護士への相談をおすすめします。
以上