執筆:笹井 涼介 弁護士
我々は、「申し訳ございませんが、弁護士会の規定上、お受けすることができません。」などと言って相談予約を断ることがあります。
相談希望者の中には理由を尋ねられる方もいらっしゃいます。ですがそれに対しても、「申し訳ございません。これ以上は申し上げられません。」と言うしかないのです。
これ、何が起こっているかというと、弁護士が守るべき2つの決まりの中で、弁護士自身が板挟みになっている状態です。
A弁護士が既にXさんから依頼を受けていたとします。この場合、A弁護士はXさんの秘密を守る義務があります。「守秘義務」だとか「秘密保持義務」というものです。この義務がある以上、Xさんの承諾なく、A弁護士がXさんの情報を第三者に漏らすことはできません。
他方、仮に別の相談者Yさんから、Xさんを訴えたいなどの相談が来られても困ってしまいます。A弁護士はあくまでXさんの味方ですので、自分のお客さんを訴えたい別の方の味方にはなれないのです。このようにA弁護士はXさんから依頼を受けているという理由で、新たに引き受けられない状況もあるのです。これを「利益相反」といいます。
そして「利益相反」に当たりそうな場合、A弁護士は、Yさんからの相談を受けることはできない以上、断るか、せいぜい他の弁護士を紹介する程度のことしかできません。
しかしながら、A弁護士はXさんの秘密も守らなければならない「守秘義務」もあることは変わりありません。ですので、Yさんからの相談を断る際、間違っても「ごめんなさい。あなたが訴えたいXさんからは、私はすでに依頼を受けているので、あなたのご相談はお受けできません。」と言うこともできないのです。
このように、「守秘義務」と「利益相反」という2つの決まりの板挟みになった結果、なんとも歯切れの悪い断り方になってしまうのです。
弁護士が多い地域ではこのような可能性はかなり低いといえます。しかしながら、弁護士が少ない地域では、しばしば起きてしまうのです。結果として、最初に相談に来た方(Xさん)は地元のA弁護士に頼めても、後から相談に来た方(Yさん)は、遠方の別の弁護士に頼まなければならなくなるのです。
要領の得ない微妙な断り方をされてしまった相談希望の方々、弁護士も依頼者のためにこのような義務を負っているが故のことですので、何卒ご容赦ください。
さらにいうと、今日、弁護士が数多いるのも事実です。もし相性が悪いと思うようであれば、弁護士を変えてみるのも一つの選択だと思います。一度委任契約締結をしたからといって必ずしもそれにこだわることなく、現代ではメールやZoomなどで遠方の弁護士とも容易に話すことができますので、ご自身にとってよりよい弁護士を見つけてみてはいかがでしょうか。依頼者も弁護士も、お互い嫌だ嫌だと思いながら続けるよりも、この先生に頼んでよかった、この依頼者のためにより一層頑張れる、という関係を築いていったほうがより良いかと思います。依頼者も弁護士も、所詮人の子ですので、結局根底にある感情は同じなのです。
以上