執筆:磯部 真士 弁護士
犯罪が起きたとき、真相の解明、真犯人の検挙のためには「初動捜査」が重要です。事件直後は現場に生々しい犯罪の痕跡が残され、関係者の記憶も新鮮な状態です。それらを速やかに証拠化することが要点になるのです。
一方、ある人が犯人と疑われた場合、その人が真犯人ではないときはもちろん、犯人であると認めていても、弁護活動を速やかに開始すべきです。「初動捜査」と同様に「初動弁護」も重要なのです。
新聞には毎日のように誰かが逮捕された記事が載ります。その記事を読むと、その被疑者が当然に処罰されるだろうと思うかもしれません。しかし、実は捜査を受けても、起訴されて処罰されるのは一部にとどまります。
被疑者を起訴して裁判にかけるか、それとも不起訴とするかは検察官が決めます。捜査の結果、必要な証拠がそろわないことがありますし、十分な証拠があっても情状を考慮して不起訴(起訴猶予)にすることもあります。令和3年の統計データでは、被疑者のうち正式に起訴された割合は約10%で、これに略式起訴(罰金刑)を加えても30%余りでした。つまり、60%以上は不起訴で終わっています。検察官は起訴することにかなり慎重なのです。一方、検察官が起訴した場合、有罪率99.9%であることはよく知られています。
そのため、刑事弁護の立場からすると、起訴された後の裁判を待つのではなく、起訴される前に不起訴を獲得することが最大の目標になります。被疑者がえん罪を訴えている場合には、厳しい取調べから守るために捜査機関と対峙したり、黙秘を指示したりしますし、犯行を認めている場合には、示談交渉をしたり、家族などと連携して再犯防止のための環境整備をしたりして情状の証拠を集めます。
速やかに弁護人を手配して一刻も早く弁護活動を開始すればするほど、不起訴の可能性が高まると言えるでしょう。「初動弁護」こそが重要です。
心当たりの弁護士がいない場合には当番弁護士制度を利用してください。逮捕された人が警察などを通じて弁護士を呼ぶことができますし、家族や知人が電話(011-272-1010)で、札幌弁護士会が運営する「刑事弁護センター」に派遣を依頼することもできます。
以上