執筆:福田 友洋 弁護士
「重度心臓病の子供が海外で心臓手術を受ける」という報道を見かけます。患者の姿をテレビで見ると胸が締め付けられますよね。また、「豚の心臓を人に移植した」や「海外での臓器移植を仲介して逮捕された」という報道も見かけます。これらの報道に共通するのは、臓器移植のための臓器が不足しているという背景事情があることです。
日本臓器移植ネットワークによれば、日本国内で臓器移植を希望している患者は1万5000人を超えるのに対して、実際に移植を受けられた患者は、1年間に約400人です。約2~3%の患者しか臓器移植を受けられていません。
未だ十分な対応ではありませんが、このような実情があることから、臓器移植法が改正されました(平成22年7月施行)。脳死の患者から臓器移植をする場合、改正前は、ドナーカード等で本人の意思が明確になっていなければならなかったのですが、改正後は、本人の意思が不明確でも、家族の承諾によって臓器の提供ができるようになりました。日本国内で脳死の患者から臓器移植が行われたのは838件ですが、家族の承諾のみによって590件の臓器移植が行われています。
ご自身が脳死の状態となった場合、「臓器を提供したい」と考えているのであれば、マイナンバーカード等の意思表示欄へ記載するなどの方法によって、臓器提供の意思表示をしておくことをお勧めします。最終的には家族の承諾がなければ、臓器の提供ができませんので、家族に承諾してもらうためにも、自分の意思を明確にしておくことが重要です。
逆に、臓器提供は義務ではありません。「臓器を提供したくない」と考えているのであれば、臓器を提供しない旨の意思表示をしておくことをお勧めします。先ほど指摘したとおり、本人の意思が不明確な場合、家族の承諾によって臓器が提供されることもありますので、臓器を提供しない旨の意思表示をしておくことが重要となります。
将来、山中教授が発見したiPS細胞から移植用の臓器をつくることが可能になると言われています。脳死の患者からの臓器移植が不要になる時代が来るかもしれませんが、研究にはもう少し時間を要しそうです。それまでの間、ドナーもレシピエントも納得する形で、安全に臓器移植が行われることを祈っています。