執筆:大谷和広法律事務所
大谷 和広 弁護士
<Dさんのご質問>
私は70代の女性です。夫は10数年前に亡くなりました。長男(50代)は、障害者年金をもらって、施設に入所しています。次男(40代)は会社員です。私の預金は数千万円くらいあり、すべてを不憫な長男に譲りたいと思っています。遺言をどのように書いたらよいでしょうか。
<回答>
遺言は、「人生最後の意思表示」ともいいます。Dさんの今のお気持ちは大事なので、できるだけご家族の方にも分かってほしいですね。
ご自身で遺言を手書きされるのを「自筆証書遺言」といい、法律上もりっぱに有効です(民法968条)。でも、特定の方に財産を譲る目的で自筆証書遺言を作成される場合、気を使うべき事柄がいくつもあります。
たとえば、すべて手書きにしなければならず、パソコンで書いた遺言は無効です。日付や署名捺印を漏れても無効。書き間違いをした場合に、訂正方法を間違えても無効です。
遺言をどこに保管しておくか、決めなければなりません。見つけやすい場所なら、盗まれる不安がある。見つけにくい場所は、だれも発見してくれないかもしれない。適当な保管場所は、なかなか難しいですね。
遺言の内容にも、気になるところがあります。預金以外の財産は、本当にないのでしょうか。たとえば、いまお住まいのご自宅は、Dさんの名義ではありませんか。生命保険の受取人は指定しましたか。財産を漏れなくリストアップして、それぞれ、誰に渡すかを決めたほうがいいですね。
今回の遺言の内容だと、ご次男が、もらえる財産のないことを不満に思うかもしれません。「遺留分」(いりゅうぶん)といって、子などの法定相続人には、最低限の受け取り分が保証されています。遺留分に反する遺言は、無効となることもあります。ご次男が家庭裁判所に調停や訴訟を起こした場合、遺産の分け方を最初から決め直すことになりかねません。
自筆証書遺言には、さまざまな落とし穴があります。書き方で迷ったら、まず弁護士に相談してくださいね。また、遺言の内容が決まったら、自筆証書遺言よりは、公証人役場で公正証書遺言(民法969条)にした方が、安心ですよ。(このコラムは架空の話です。実際の人物や団体とは関係ありません。)