執筆:大谷和広法律事務所
大谷 和広 弁護士
夏ですね。居酒屋で仕事帰りの一杯がおいしい時期になりました。でも、お酒を飲んだら、一つだけ気を付けてほしいことがあります。自動車は、絶対に運転しないでください。
仮に飲酒運転で死亡事故を起こせば、多くの場合、刑務所に行くことになります。以前は、刑法の業務上過失致死傷罪で処罰されていました。刑法では、ミスや不注意(過失)によって起こした事故は寛大に処罰するという考え方があり、刑罰は最大でも懲役5年でした。
しかし、飲酒運転の場合、「お酒を飲んで運転する」という行動は、自分の意思でしていることです。お酒を飲んで注意力が散漫になっている状態で、「走る凶器」といわれる自動車を操作するのがいかに危ないか、容易にわかります。わざとやった(故意)に等しい危ない行動で深刻な死亡事故を起こしても、5年で刑務所を出所できるのは、市民の感覚でも、少し軽すぎるという気はします。
それで刑法が改正され、一般の自動車事故の場合、最大で懲役7年になりました(旧自動車運転過失致死傷罪)。また、お酒などの影響で「正常な運転が困難な状態」で自動車を運転し、死亡事故を起こすと、最大で懲役20年という重い罪になりました(危険運転致死傷罪)。
「正常な運転が困難な状態」とは、泥酔して『運転だけは絶対にヤバいよ!』と明らかに分かることをいいます。しかし、犯罪が成立する要件が厳しいために、証拠が完璧にそろわないと有罪になりません。たとえば、現場から逃げてアルコール検査を免れたために、証拠がなくて、刑事裁判では重い罪を免れる(逃げ得)、といったことも起こったのです。
このため、平成26年5月、「自動車運転死傷行為処罰法」という新しい法律がつくられました。従来の刑法の規定は「過失運転致死傷罪」と名称を変えて新法に移りました。「危険運転致死傷罪」も、正常な運転が「困難」な場合に加え、正常な運転に「支障が生じるおそれがある状態」でも最大で懲役15年の罪に問えるという規定ができました。「支障が生じるおそれ」は『運転はけっこうヤバいかもね?』という程度でよく、証拠が完全にそろっていなくても有罪となる可能性があります。また、「逃げ得」を防ぐため、飲酒等の発覚を免れるために逃走すると、最大で懲役12年になります(発覚免脱罪)。
近年、飲酒運転による痛ましい交通事故がいくつも報道され、加害者は厳しい論調で断罪されています。また、飲酒運転が見つかって、運転者がせっかく築き上げた社会的地位や職業を失った、という記事も目立ちます。「飲んだら乗るな」。古い標語ですが、改めて肝に銘じましょう。