執筆:岡田法律事務所
岡 聖子 弁護士
「任意後見」という制度を聞いたことがあるでしょうか。
今は心身ともに元気で,何でも自分で決められるけど,将来認知症になって,自分で契約を結んだり,財産管理をできなくなったりしたらどうしよう……と不安を感じている方。
そのような方が,判断能力のあるうちに,信頼できる人に対して将来判断能力が不十分になった際の援助を頼み,契約を結んでおく制度。それが「任意後見制度」です。
この制度を利用するには,判断能力が十分なうちに,援助者(任意後見人といいます)になってくれる人との間で,任意後見契約を締結し,公正証書を作成する必要があります。
このような手続をとっておくと,いざ認知症の症状などがみられるようになって,誰かに契約や財産管理の代行を頼まなければならなくなったとき,家庭裁判所への申立てによって任意後見を開始させ,あらかじめ頼んでいた任意後見人から,取決め通りの援助を受けることができるようになるのです。
なお,任意後見が開始されるにあたって,裁判所からは,「任意後見監督人」が選任されます。任意後見人は,任意後見監督人から,適切に後見事務を行っているかを,都度チェックされることになっています。
任意後見制度の利点は,本人の意思で,信頼できる人に援助を頼み,あらかじめ自分の要望を伝えておくことができる点です。任意後見開始後,任意後見人が本人の希望通りの援助をしてくれれば,本人は,元気なころに望んでいたとおりの生活を送ることが可能になるでしょう。
他方,任意後見制度では,本人自身が任意後見人を選び,契約を結ぶことが前提となっているので,自分で候補者や契約内容をよく吟味しないと,不適切な任意後見契約を結んでしまう危険もあります。
正しく使えば素晴らしい,老後の備えの任意後見制度。法律の専門家に相談するなどして事前によく検討したうえで,賢く活用していただけたらと思います。
以上