執筆:大谷和広法律事務所
大谷 和広 弁護士
日常でよく使われる言葉が、法律では少しだけ違った意味で用いられることがあります。ひとつの例が、『社員』です。
たとえば皆さんが自己紹介で「わたしは〇☓会社の社員です」と述べた場合、その会社に勤めている、ということです。つまり日常用語では『社員』を“従業員”の意味で使っています。
これに対し、法律用語の『社員』は、“法人の構成員”のことです。
皆さんにもなじみのある“株式会社”を例にとります。株式会社の構成員を「株主」といいます。株主は、会社を設立するためにお金を出資し、会社の営業によって利益が出たら配当をもらえる地位にある人です。
有名企業が大きなビルで株主総会をした、という新聞記事をご覧になったと思います。この株主総会に招待される株主が、法律用語の『社員』です。
日常用語の『社員』は、法律では“労働者”といいます。会社と労働契約をし、会社のために働いて、給料をもらいます。サラリーマンなので、会社の経営には加わりません。
これに対し、法律用語の『社員』は、株主などの投資家です。会社の利益に見合った配当を得られる立場なので、会社の経営にも前向きな関心を持っています。もし会社の業績が右肩下がりで、利益が出なければ、投資家も損をします。そこで、その会社を見限り、株式を売却します。
かたやサラリーマン、かたや投資家。同じ『社員』という言葉でも、日常用語と法律用語で全く意味が違います。
『社員』について説明しました。ついでに『社長』も説明しましょう。
日常用語の『社長』は、その会社の最高責任者、トップを意味します。
いっぽう、法律用語には『社長』という言葉はありません。かわりに使われるのが「代表取締役」です。代表権を持つ、つまり会社の名前を使って外部と取引ができる取締役のことです。
株式会社の取締役は、株主総会で選任されます。株主から信頼されて経営面を任され、業績に応じた報酬をもらう立場です。これもしばしば新聞記事でみかけますが、もし会社の経営が悪化すれば、株主に対する責任をとらされ、取締役を解任されることもあります。
代表取締役は、会社の経営についてはもちろんリーダーです。しかし、株主との関係では、雇われマネージャーにすぎないところがあります。
かたや最高責任者、かたや雇われマネージャー。言葉の意味としては近いのですが、法律的な観点で説明されると、印象が違うものですね。
以上