執筆:ひだか総合法律事務所
原 英士 弁護士
毎年5月ころから10月ころにかけて、日高軽種馬農業協同組合の北海道市場で、馬のセリ市が開催されています。今年はコロナ禍の影響でセリ市が中止になったり延期されたりしましたが、先日、無事にセレクションセールとサマーセールが開催され、多数の購買がなされたとのことで、ホッとしている関係者も多いかと思います。
ところで、私は、地域柄、馬に関する法律問題の相談を受けることも多いのですが、馬の相談において悩ましいことは、民法上、馬は「物」(民法85条)として扱われるところ、馬が「生き物」=「生きている「物」」であるという特殊事情を常に念頭に置く必要があるということです。
例えば、馬の預託を受けている牧場は、馬主から預託料の支払いを受けるまで、「物」である預託馬の引渡しを拒むことができます。この権利を「留置権」といいます。しかし、牧場は、預託馬の引渡しを拒むことができるとしても、馬を引渡さない間、馬を飼育管理しなければならず、馬にエサを与えなければなりません。このような場合であっても、牧場は、馬の飼育管理をせず、馬主に無断で馬を売ることもできません。そうすると、牧場は、結局、未払預託料だけでなく、馬を引き渡すまでの間の飼育費用も回収できないかもしれないのに、馬にエサを与え、また、その馬の飼育管理のために馬房も使用し続けなければならないため、牧場としては、損失が大きくならないように、馬主に馬を先に引き渡すことの検討を余儀なくされてしまいます(なお、留置権に基づく競売手続きによって馬を換価することは、法律上可能ですが、その費用対効果や手間等を考えると、競売手続きで換価を実行することについては、二の足を踏むことが多いように思います。)。
そこで、このようなトラブルを防止するため、預託契約締結の際、「預託料不払いが発生した場合には、預託馬の代物弁済完結の意思表示を行い、預託馬の所有権を取得することができる」旨の条項を入れることが有益であると考えます。このような条項を入れておけば、預託料が未払いになった場合、牧場は、代物弁済完結の意思表示を行い、預託馬の所有権を取得して預託馬を売却することができ、多額の費用や手間をかけなくても、預託契約の解消及び預託馬の売却による未払預託料の回収可能性が大いに高まりますので、トラブル防止にも、トラブル発生後の解決にも資すると思います。
馬に関するトラブルについて疑問やお悩みがあるときは、すぐにご遠慮なくお近くの弁護士にご相談いただければと思います。
以上