執筆:黒坂 頌胤 弁護士
1 スマートフォン(スマホ)が急速に普及し、今や誰もが気軽にSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)にコメントや写真・動画等を投稿できる時代です。また、YouTube、Twitter、Instagram、Facebook、TikTokなど、SNSの種類、バリエーションも豊富になり、ユーザーの情報発信の選択肢も拡大しています。SNSは、不特定多数の第三者に対して、容易かつ即時に情報を発信できる非常に魅力的なツールです。
その一方で、SNSへの投稿は、一度拡散すると完全に消去することが事実上不可能であり、当該投稿により誰かを傷つけた場合には、その被害者は一生被害を受け続けるという、いわゆるデジタルタトゥーの問題が生じます。また、SNSへの安易な投稿が、知らないうちに第三者の著作権を侵害していたことにより投稿者に重大な法的責任が課されるリスクがあります。
2 SNSへの投稿に潜む法的リスクの近時の具体例としては、2020年に女子プロレスラーだった木村花さんが某番組への出演をきっかけに、SNS上で誹謗中傷されたことを苦に、自ら命を絶った事例が挙げられます。
SNSへの投稿の多くは匿名で行われるため、誹謗中傷・悪口・侮辱発言等を投稿することへの心理的ハードルが低くなりがちであることに加え、先行する他人の同種発言に触発された他の投稿者により同種の投稿が続発し(いわゆる炎上)、被害が急速に増大するリスクがあります。
こうしたSNSへの侮辱的投稿による被害を抑止するために、今年の7月7日に施行された改正刑法では、侮辱罪の法定刑が引き上げられ、新たに1年以下の懲役刑・禁錮刑、30万円以下の罰金刑が加わりました。今後は、SNS上での誹謗中傷、侮辱発言といった悪質な投稿への対処が相当厳しくなることが予想されます。
上記以外にも、例えば、映画の映像を無断で10分程度にまとめ、投稿者がストーリーのほぼ全てに解説を加えた要約動画(いわゆるファスト映画)をYouTubeなどのSNSに投稿する行為は、著作権法上、許容される「引用」の範疇を超えるため、映画会社等の著作者の著作権を侵害する可能性が高いと考えられます。つい先日(11月17日)、東京地方裁判所は、ファスト映画を動画投稿サイトで無断公開した20代の男女二人に対し、大手映画会社などが損害賠償を求めた訴訟の判決で、合計5億円の賠償を命じたとの報道がありました。SNSへの安易な投稿により投稿者に重大な法的責任が課された一例といえます。
3 以上のとおり、気軽に投稿できるSNSには思わぬ法的リスクが潜んで います。SNSを利用する際には、うっかり誰かの権利を侵害しないよう十分気を付けましょう。
以上