執筆:原 英士 弁護士
日高地方は馬産地ですので、法律相談を受けていても、何かの形で馬の話が頻繁に出てきます。そこで、今回は馬と法律の話をしたいと思います。
みなさんは、民法上、馬がどのように扱われているか、ご存じでしょうか。馬をこよなく愛する日高地方のみなさんにとってはとんでもない話ですが、実は、馬は「物」(民法85条)として扱われます。
物ですから、例えば、馬主から預託料の支払いを受けるまで、物である繁殖牝馬等の引渡しを拒んだり(これを「留置権」(民法295条1項)といいます。)、また、預託料不払いが発生したときに備え、預託を受けている繁殖牝馬等を売却できるよう、預託契約締結の際に、代物弁済予約契約を締結することができます。
刑法上も、他人の馬を故意に怪我させた場合、「器物」損壊等罪(刑法261条)により、法定刑として、3年以下の懲役または30万円以下の罰金若しくは科料に処すると規定されており、ここでも馬は「物」として扱われています。
このように、民法や刑法は、馬を「物」として扱っていますが、他方で、民法上、馬を動物扱いする規定もあります。民法718条は、動物の占有者等の責任として、以下のとおり規定しています。
「1 動物の占有者は、その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその管理をしたときは、この限りでない。2 占有者に代わって動物を管理する者も、前項の責任を負う。」
要するに、飼育馬が誰かに怪我を負わせた等の場合、馬の所有者ではなく、馬を飼育している者や管理者が、その責任を負うことになっていますので、(私のような、馬の飼育の難しさを十分に理解していない者が言うのはおこがましいのですが、)馬の飼育者は、馬が他人に危害を加えないよう、十分に心がける必要があります。
万一、預託料の支払いがなかったり、飼育馬が人に怪我をさせた等、「馬に関するトラブル」がございましたら、お近くの弁護士にご相談いただければと思います。