周波数 | 三角山放送局 76.2MHz「トークinクローゼット」内コーナー |
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放送時間 | 毎週火曜日 AM 9:15~ |
札幌弁護士会広報委員会の新企画「札幌弁護士会の知恵袋」。
第3回テーマは「交通事故」の中から「人身事故」を取り上げます。
ゲストは、悪徳・番組プロデューサーK氏から襟首掴まれて収録スタジオまで引っ張ってこられた広田拓郎氏。しかし、放送席に座った途端、今まで皆さんにお伝えしたかったことがあふれ出てきた様子で、交通事故発生直後からすべきこと、知っておくべきことを熱く語ります。これを笑顔で受け止める、三角山放送局の田島美穂さん、その笑顔は音声だけでも分かります。
とりあえず、これを知っておけば、もしものときにも落ち着いて行動できるはず!
自動車のドライバーのみならず、全ての方に聴いていただきたいお話です。
放送日 | 2015年7月21日 |
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ゲスト | 広田拓郎 弁護士 |
今週の放送 キーワード |
人身事故、追突事故、交通事故後の対処法、交通事故証明書、実況見分調書、弁護士費用特約【LAC】、人身傷害保険、搭乗者傷害保険、任意保険・自賠責保険、雇用トラブル相談センター、後遺症、整骨院、マッサージ、むち打ち・頚椎捻挫、治療費・通院交通費・休業損害・慰謝料、症状固定 |
— はい、今週も「札幌弁護士会の知恵袋」の時間がやって参りました。
札幌弁護士会の法律相談によせられる皆様の質問に、弁護士がズバリ答えます。
今回も引き続き、テーマとして交通事故を取り上げていきますが、今回から2週連続で、人身事故について取り上げることになります。
今回は、新しいゲストをお呼びしています。紹介します。
札幌弁護士会に所属の広田拓郎(ヒロタ タクロウ)さんです。
広田:どうも、よろしくお願いします。
— 先週の北山さんとはお知り合いですか?
広田:はい、同期の仲間です。私達は、弁護士になる前に、司法修習という見習い期間があって、その間の同級生というイメージですね。同期の仲間は、弁護士になった後もつながりが強くて、相談者の方へその分野に強い同期の弁護士に事件を紹介し合ったり、一緒に飲みに行って騒いだりします(笑)。
— 広田さんの事務所では、分野でいうと、交通事故の案件も多いのですか。
広田:そうですね、交通事故は多いです。事務所には、もう一人、私よりも経験豊富な弁護士がいて、二人で、物損のみの案件から死亡・重度後遺障害の案件まで、幅広く対応しています。
札幌には、私よりもずっと長く、多く、難しい交通事故の案件を取り扱っている弁護士さんがたくさんいます。その中で、どうして今回お話するのが私なのか、という疑問と、若干の恥ずかしさもありますが(笑)、精一杯、皆さんのお役に立つお話をしたいと思います。
— なるほど!では、そんな広田さんからのお話ということで、今週のテーマに早速行っちゃいましょう!
広田:行きましょう!
第1 交通事故に遭ったらどうするか
— 本日の質問です。「昨日、大学の夏休みに旅行に行こうと車を運転して、赤信号待ちをしていたら、後ろから来た車にゴツンと追突されました。幸い、後ろから来た車も、そこまでスピードを出していなかったのですが、事故の衝撃で首や腰を痛めています。これから私は、一体どうすれば良いでしょうか?事件解決までの動き方、流れの様なものを教えて欲しいです。」というものです。
前回と同じく、追突されたというものですね。こういう話は、多いんですね。
広田:そうですね。この様な追突事案は、交通事故の事案の3割を占めるパターンだという統計もあるくらいで、当に「明日は我が身」なケースだと思います。
私なんか、赤信号待ちしているとき、後ろの車がちゃんと減速してきているか、バックミラーからバッチリ見過ぎなほど見てますからね(笑)。
— 運転席から後ろ振り返ってギンギンに見てないだけ、まだマシですね(笑)。
広田:さすがにそれは(笑)。
今回は、「事故後にどの様なことをすべきか。」というご質問ですが、もっと広く、いざ交通事故に遭ったらどうする、という実践的なお話をさせていただきたいと思います。
— なるほど、自分が事故に遭ってしまったら、と想像しながら聞いてみるとためになりますよ、という訳ですね。
広田:その通りです。
— では、早速、事故直後からいきましょうか…。
はい!後ろから来た車にぶつけられました!さあ、ここから何をすべきでしょう?やっぱり、相手に文句を言うことでしょうか(笑)。
第2 交通事故証明書の取得
広田:んー、まあ、それはほどほどにしていただいて(笑)。
事故に遭ったらまずすべき大事なこと、これは3つあります。一つ目は、まず、その場で警察へ連絡することと、相手の運転手の身元の確認です。特に、事故発生の際の警察への連絡は、法律上の義務ですし、交通事故証明書発行の前提となるため、すぐにしましょう。
— 交通事故証明書って何ですか?
広田:簡単にいうと、交通事故が起きたことの公式記録です。交通事故は、これがないと始まらないと言っていいほど重要なものです。弁護士会に相談に来ていただくときも、持参をお願いしています。
— 事故を起こした方から、「警察には言わないでくれ。」とか頼まれて困るという様なこともあるみたいですね。確かに、運送屋さんのおじさんに、「あと1点しかないから、頼むよぉ。家族の生活がかかってるんだよぉ。」と言われると、困っちゃうかも(笑)
広田:まあ、そうなんですけどね(笑)。ですが、自分のためですので、そこは心を鬼にして(笑)、断って下さい。
ついでに言いますと、警察に連絡をした後、更に、人身事故の取扱いにしてもらわなければ、警察でも詳しい事故の状況を記録できません。この記録のことを実況見分調書といいます。前回の北山先生のお話でも出て来ましたね。実況見分調書がないと、仮に後で裁判になって、お互いに過失の争いになると、大変に苦労することになります。
と、いうことで、ケガをした場合は、遠慮なく人身事故の取扱いにする様に警察の方に言って下さい(笑)。こういう話をすれば、皆さんが一層、安全運転してくれるとも期待しています(笑)。
第3 自動車保険の確認
— はい(笑)。では、事故に遭ったらすべきこと、二つ目はどうでしょうか?
広田:はい、二つ目は自動車保険の確認です。ここでいう自動車保険も、相手の方と自分の方、両方の確認が必要です。
通常であれば、車を運転している相手も、任意保険に加入しているはずなので、その保険会社と連絡を取って、病院に行くことを伝えて下さい。
それから、御自身や御家族で加入している保険の内容をよく確認して、今回の事故で使えるものがないか調べて下さい。重要なものとして、損害賠償の交渉や裁判を弁護士に依頼する際の費用を保険から支払ってもらえる弁護士費用特約や、今回のケースではありませんが、自分にも過失がある場合に、その分の支払まで受けられる人身傷害保険、相手からの賠償金と二重に受け取ることが出来る搭乗者傷害保険などがあります。
— なるほど、自分や家族の保険の内容も確認する必要があるんですね。
相手が任意保険に加入していない場合はどうなるんでしょうか?
広田:そんな人でも、車に運転している以上、自賠責保険には加入しているはずですので、相手の自賠責保険から支払ってもらうことになります。自分の治療費などを相手に支払ってもらって、その相手が支払った分だけ自賠責保険に請求する方法と、自分で直接、相手の自賠責保険に請求する方法があります。
ただ、どちらにしろ、自賠責保険には支払の限度額がありますので、それを越えた分は、まさに相手の財布から支払ってもらうことになります。
第4 治療の継続
— はい、で、気になる最後の3つ目はどうでしょう?
広田:はい、ズバリ、「ちゃんと治療に行きましょう。」ということです(笑)。
— そりゃそうでしょ、広田さん(笑)。
広田:ですよね(笑)。でも、私、色々な相談を受けてつくづく思うんですね。
まず、真面目な日本人のみなさんの中には、プライベートで起きた事故のケガで仕事を休んだり、治療のために仕事を休むことに気が引ける方も多くいらっしゃいます。「いやいや、自分の事故で職場に迷惑を掛けられませんよ。」と。それとか「事故でクビが痛いなんて理由で休んだら、こっちのクビまで危ない。」とか、ほんとシャレで済まないですよね、すみません(笑)。
あ、蛇足ながら、職場でのトラブルにお悩みの方のために、札幌弁護士会では雇用トラブル相談センターというものも設置していますので、是非ご利用下さい(笑)。
— で、話を戻していただいて(笑)。
広田:すみません(笑)。それで、私がお話したいのは、ここで頑張って仕事して通院しなかったら、その後も何もいいことはないということです。
本来受けるべき治療を受けられなかった上、本来もらえたはずの休業分の補償ももらえない、ということになります。本来受けるべき治療を受けられないと、後遺症が残りかねませんが、損害賠償の対象となる後遺症とは認められない可能性も、また高くなる。
事故賠償の局面では、頑張り屋さんは、損をする(笑)。この様な相談者の方、意外に多いです。
— なるほど、それはいいことを聞きました(笑)。何事も頑張りすぎは禁物ということですね。
広田:そういうことです。みなさん、職場の事情もあると思いますが、ご自分の身体を大事にして下さい。
— そういえば、治療と言っても、病院で受ける治療も、整骨院とかで受ける治療もありますよね?
広田:そうですね、確かに、整骨院でマッサージを受けると痛みが和らぐとか、効果があるのだと思いますが、厳密には、治療というと、病院のお医者さんによる診察を前提とするものです。整骨院での費用をそのまま相手の保険会社が支払ってくれないこともあります。
ですので、まずは必ず病院に行って、整骨院に通院することについてお医者さんと相談して、その後、相手の保険会社にも連絡して下さい。事故後に整骨院にだけ通院することは、避けるべきだと思います。
— あと、よく、「むち打ちは、3か月くらいで保険会社から治療費の支払を打ち切られる。」と聞いたりします。これって、お医者さんでもない保険会社が、ケガをしている人の治療期間を決めて、治療費の支払を止めちゃうってことですよね?なんかちょっと納得いかないような…。
広田:うーん、保険会社が、ケガをされた方の治療期間を勝手に決めている訳ではないんですね。そもそも、事故を起こした方、つまり加害者のことなんですが、その損害賠償義務としては、事故でケガをさせてしまったことから、通常、一般的に発生すると考えられる金額の範囲しか、基本的には賠償する義務がないとされているんです。これを受けて、現在の交通事故賠償では、治療費、通院交通費、休業による減収への補償、慰謝料など賠償されるべき損害が、もう大体決まっている。そして、本人の自覚症状が主となる、むち打ちによる首のケガの場合、診断名としては「頚椎捻挫」とされることが多いですが、一般的には、3か月から6か月程度で治癒したり、あるいは症状が固定すると言われています。
このことから、相手の保険会社は、もちろん担当のお医者さんに対して、「まだ治療は必要そうですか?」と質問状を送って確認したりもしますが、とりあえず、そのくらいの期間、つまり3か月から6か月くらいの治療費しか支払わない取扱いがほとんどです。そして、それを越えて、まだ治療費がかかったのであれば、後から請求して下さい、後から決めましょう、ということになります。
実際は、後から請求しても支払ってくれず、裁判になることがほとんどですけどね。
— そうなんですね、確かに、痛ければ、ずっと支払ってくれるかというと、そうでもないかな、という気もしますし、なかなか難しいものですね。
ここまでの話で、治療を受けていくことは分かったのですが、いざ、相手と事故の損害の賠償について話合いを進めるタイミングは、いつと考えておけば良いですか?
広田:そうですね、一番多いのは、治療が終了したときです。幸いにも、痛みが残らずに治りましたというパターンですね。治療が終了した時点で、治療期間が確定しますから、その間の治療費や通院のために出したバス代などの交通費、症状や治療のために仕事を休んだことによる減収額、これを休業損害というんですが、これらの総額が確定するので、損害賠償の請求が出来る、ということになります。
ただ、休業損害については、治療期間中も、相手の保険会社から支払われることが通常です。なんと言っても、御自身や御家族の生活の糧ですからね。
第5 後遺症について
— では、逆に、不幸にも痛みが残ってしまって、ずっと治療しているけどなかなか良くならない様な場合は、どうすれば良いですか?
広田:はい、確かに痛みの症状が残ってしまう場合、つまり後遺症が残る場合もあります。例えば、今回の追突による頚椎捻挫、首の痛みでいうと、事故直後から段々と痛みが軽くなってきたのに、何か月かしたあるときから、症状が軽くなっていかなくなる場合があります。こともあろうに、日によっては、痛みが増したりする。曇りとか雨とかの天気によって痛かったり、痛くなかったり、という状態もある。
この様に、症状が軽くなっていかず、一進一退の様な状態が続くようであれば、お医者さんと相談した上で、賠償上の治療期間を終了させることもあります。これを、症状固定といいます。先程も出て来た言葉ですね。
もちろん、あくまで事故の賠償額を算定する上での治療期間が終了したということですから、お医者さんもOKというのであれば、前からの治療をそのまま継続していけます。これは、賠償の問題ではなく、お医者さんとの間で決めること、ということになります。
— 「症状固定」、何とも怖い響きですね。もう、ずっと痛みが残って治らないということですか?
広田:基本的には、その様な想定の上に立った言葉です。ただ、むち打ちの頚椎捻挫などからくる痛みであれば、その後、何年かかけて、症状が和らいだり、気にならなくなったりすることはあるようです。もちろん、必ずではなく、後遺症に悩んでおられる被害者の方もたくさんいらっしゃいますが。
— ということで、さあ、これから損害賠償の交渉に入るぞ!というところで、本日の札幌弁護士会の知恵袋、終了のお時間が来てしまいましたー(笑)。
広田:まだまだお話したいことがありましたが、時間が過ぎるのは早いですねー(笑)。
— そうですね(笑)。
札幌弁護士会の知恵袋は、札幌弁護士会のホームページで過去の放送分をテキストで見ることができます。また、音声でも聞くことができます。今日の放送で聞き漏らした部分があるという方はぜひチェックしてください。
進行は田島美穂(タシマ ミホ)でした。
制作・著作
<プロデューサー>
弁護士福田直之、弁護士北山祐記(札幌弁護士会)
杉澤洋輝(三角山放送局)
<脚本>
弁護士広田拓郎(札幌弁護士会)
<出演>
番組MC 田島美穂(三角山放送局)
ゲスト 弁護士広田拓郎(札幌弁護士会)
<監修>
弁護士上田絵里、弁護士山田敬純、弁護士佐藤敬治(札幌弁護士会)
<初回オンエア>
平成27年7月21日