周波数 | 三角山放送局 76.2MHz「トークinクローゼット」内コーナー |
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放送時間 | 毎週火曜日 AM 9:15~ |
札幌弁護士会広報委員会が今年7月からお送りしている「札幌弁護士会の知恵袋」。
労働問題の2週目のテーマは,「解雇(クビ)について」です。
ゲストは、今,札幌弁護士会の委員会活動で、「最も忙しい男(最も使われている男)」、桑島良彰氏です。人に使われることの酸いも甘いも知り尽くした同氏が、解雇の種類、その有効性などについて、わかりやすく解説します。
「この好景気の中でまさかうちの会社が・・」、「まさか自分がクビなんて・・」と考えておられるリスナーの皆様!
備えあれば憂いなしですから、まさかの瞬間に備えておきましょう!
放送日 | 2015年8月11日 |
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ゲスト | 桑島良彰 弁護士 |
今週の放送 キーワード |
解雇(クビ),権利の濫用,解雇の理由証明書,解雇予告手当,雇用保険の仮給付制度,仮払仮処分,労働審判,リストラ,整理解雇,雇止 |
— はい,今週も「札幌弁護士会の知恵袋」の時間がやって参りました。
札幌弁護士会の法律相談に寄せられる皆様の質問に,弁護士がズバリ答えます。
今回は,先週に引き続き,労働問題についてお話いただく予定です。労働問題の第2回目の今回は,解雇についてお話いただきたいと思います。
今回のゲストは前回に引き続き,札幌弁護士会に所属の桑島良彰(クワシマヨシアキ)さんです。
桑島:よろしくお願いします。
— では,早速,今週のテーマに行ってみましょうか?
桑島:行きましょう!
第1 解雇への対処の基本
— では,本日の質問です。
「先日,10年間務めてきた会社で,社長から突然「今日でお前は首だ!」と言われて解雇されました。
私は,これまでまじめに働いてきていて,特に遅刻したりすることもありませんでした。でも,その日は子供が熱を出した関係でバタバタして,5分だけ遅刻してしまったんです。それをみた社長が突然怒ってしまって,こんなことになったみたいなんです。
5分の遅刻を1回しただけで首っていうのはあんまりだと思うんです。私は,このまま首にならなきゃいけないんでしょうか。」
あらら・・・。ちょっと遅刻しただけで首っていうのはずいぶん厳しいですね。この場合,やっぱり首になっちゃうんでしょうか。
桑島:質問者さんの場合,社長のいうクビ,すなわち解雇処分は無効となる可能性が極めて高いです。解雇が無効になれば,職場に復帰した上で,解雇されてから復帰するまでの間のお給料を会社からもらうことができます。
— あ,やっぱりこの程度じゃクビにはならないんですね。よかったー。でも,そうするとどんなことがあるとクビになっちゃうんでしょうか。
第2 解雇されるかどうかの基準
桑島:労働者を解雇することについては,労働契約法などにおいて規制が定められています。難しい言葉でいえば,解雇は,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合には,その権利を濫用したものとして無効とする,とされているんです。
— えーっと,正直どういう場合なのかよくわかりません・・・。
桑島:まぁ,わかりにくいですよね。先ほどの言葉は法律の言葉をそのまま言ってみました。噛み砕くと,他の人が後から見て,クビになっても仕方ないよね,と思えるだけの事情が無い限りは,クビにすることはできない,という内容ですね。
— そういうことなんですね。その,解雇されても仕方ない事情って具体的にはどんなことなんでしょうか。
桑島:大抵の会社では「就業規則」というものが定められています。その中の「解雇」について定めた記載が解雇される事情となります。
まぁ,遅刻をひたすら続けていて,注意をしても全然改善しないとか,会社をさぼってずっとパチンコに行っていたことがバレちゃいましたとか,無断欠勤が多くあったなどが,具体的な理由となることが多いです。
実際に,我々が相談を受ける事案では,うちの会社でやっていくだけの能力がなかった,とか,こんなミスを続けていたなどと言われることが多いですね。
— そうなんですか。具体的に,どのぐらいの状況だと,この人はクビ!っていわれちゃうんでしょう?
桑島:正直,職場の状態や,その人のやってしまったことの影響の大きさなどによって千差万別なので,これといった基準があるわけではないんです。
法律家の間で有名な例では,ラジオ局のアナウンサーが2週間の間に2回寝坊して,番組に穴を空けた事案があります。
この事案で,最高裁は,アナウンサーを起こす担当の人がさぼっていたのにあまり厳しい処分をされていないことや,実際に穴が空いた時間が短いこと,会社の側の用意に不十分な点があったことなどを理由にして,解雇できない,と判断しています。
これと比較して,自分に解雇されるほど悪いところがあったかを確認していただければ良いかと思います。
いや,ラジオ番組でいうのが適切な事案ではないかもしれませんが。
第3 解雇予告手当とは?
— 番組に穴が・・・。それでもクビにはなってないんですね!
ところで,私,「解雇予告手当」っていう言葉を聞いたことがあります。これって,解雇する時に払われるお金なんですよね?これが払われたら,解雇する理由あり!となるんでしょうか。
桑島:いえ,そうではありません。解雇予告手当は,30日前に解雇を予告しない場合には,労働者が解雇を受け入れた場合でも払わなければならないものです。解雇の理由に納得がいかないのであれば,解雇予告手当を支払ってきたとしても,解雇自体を争うことはできますよ。
第4 解雇への対処法
— へぇ,そうなんですね。お金を払えばいいってもんじゃないんですね。
ちょっと話は変わりますが,クビになったのに納得がいかない場合,まず何をしておけばいいんでしょうか。
桑島:まずは,クビになった理由を知る必要があります。解雇された場合には,労働者は,会社に,「解雇の理由証明書」をもらうことができることになっています。最初は,これを会社にもらっておいてください。
次に,会社に続けて勤めたいのであれば,早めに自分はやめたくない,会社に居続けて働き続けるつもりがあるんだ,ということを会社に伝えておく必要があります。
あとは,すぐにでも法律家に相談,というのが大事かと思います。
— 理由証明書なんてものをもらえるんですね~。初めて聞きました。
それはそれとして,やっぱり法律相談はしたほうがいいんでしょうか。
桑島:ええ,結局,解雇が有効かの判断を,法律に基づいて判断をする必要があります。
そうすると,どうしてもご自身での判断は難しいことが多いです。やはり,早めに弁護士にご相談されることをお勧めします。
— でも,解雇予告手当もらったとしても,お給料もらえなくなったら生活できなくなっちゃいますよね。相談してる暇もなく別のところで働き始めないとだめじゃないでしょうか。
桑島:そうですね。解雇されると労働者がとっても苦しくなってしまうからこそ,解雇は簡単にできないよ,という法律になっているんです。
仮に解雇されてしまった場合でも,しばらくの生活を維持するためにお金をもらえる制度もあります。これの使い方を知るためにも,早めに相談されることをお勧めします。
— え,お金をもらえる方法があるんですか?
桑島:はい,常に全ての方が使えるわけではありませんが,雇用保険の仮給付制度,というものがあります。通常の給付ではなく,ちょっと特別な手続きになります。解雇を争っていることを申告した上で,ハローワークでお金をもらうことになりますね。
— そんな制度があるんですね。雇用保険って解雇について争っている場合にはもらえないものだと思っていました。
桑島:その他にも,前回もお話した労働審判手続きや,給与の仮払い仮処分手続きをした場合には,割と早めに結論がでて,再度給料がもらえる状況になる可能性もあります。
早めに相談して,手続きを早めに進めていくことが肝心です。
第5 リストラの時はどうすればいい?
— なるほど,ところで,リストラの場合も,やっぱり解雇ですよね。その時も,遅刻と同じように考えるんですか?なんとなく違う気もするんですけど・・・。
桑島:リストラというのは,別名で「整理解雇」と呼ばれています。根本のところは普通の解雇と一緒ですので,ちゃんと解雇する理由があるか,で有効性が判断されることになります。
ただ,リストラの場合,会社の状況が悪いことが前提ですから,ちょっと特別な要素で解雇する理由を判断することになっています。
— 特別な要素ってなんでしょうか。
桑島:整理解雇の際に検討される要素は,
会社の存続にとって,整理解雇が必要であること(つぶれそうであること)。
会社が,労働者を出来る限りクビにしないように配置替えなどの努力をしたこと
クビにする人の選び方は,公平で合理的なものであること
会社が,解雇にあたってきちんと労働者に説明を果たす等,手続きがなされていること
の4つになります。リストラしないと潰れちゃう会社が,できる限り努力しつつ必要な限度でやるのであれば,解雇もしょうがない,ということですね。
— そうすると,会社が潰れちゃう場合や,事業所が閉鎖される場合にはしょうがないってことなんですね。
桑島:会社がつぶれた場合には,ほとんどの場合仕方がありません。
事業所が閉鎖されるだけなら,他の地域の事業所に移って仕事を続ける枠があれば,クビにならないこともあります。クビが仕方ないかどうかは,会社の状況次第です。
事業所閉鎖というだけであきらめないで欲しいですね。
第6 有期雇用の時の対処法は?
— あ,ついでになんですけど,こんな質問もあったんです。
「私は,今の会社で1年契約を更新し続けて働いてきました。もう働き始めて20年になります。
最近,新しく若い女の子を入れるため,とかいって,社長からもう契約を更新しないっていわれてしまったんです。今辞めさせられてしまうと生活していけません。私はどうしたらいいんでしょうか。」
契約を更新しないっていわれただけで,クビって言われたわけではなさそうなんですけど,これってどうなんでしょうか。
桑島:質問者さんは雇止をされた,ということですね。雇止の際にも,一定の場合には解雇と同様に取り扱うこととされています。今回は,かなり長い間,同じところで働いていらっしゃったようですから,解雇と同様に取り扱われると思います。更新しない理由もまっとうなものとはいえないので,質問者さんは,今の会社で働き続けることが出来る可能性が高いです。
— え,解雇じゃないのに,解雇と同じように取り扱われるんですか?
桑島:はい,そういう風に法律で定められています。
何度も何度も更新して,更新が無い場合と同じような状況になった場合であるとか,会社が更新を続けてあげるよ,といって社員を募集して,更新を期待させた場合には,契約を更新しないことが,途中でクビにするのと同じと判断されることになっているんです。
— なるほど,たしかに,なんども更新していたらずっとそこで働き続けられると思いますし,突然クビにされるととっても困りますもんね。その場合は,普通の解雇とまったく同じ取扱なんですか?
桑島:いえ,普通の解雇に比べると,雇止の判断をする際のほうが若干解雇が認められやすいと言われています。ただ,これが気になるようなぎりぎりの事案ってあまりないですから気にしなくてもよいかもしれません。
— クビといってもいろいろあるんですね~。他になにか種類はないんでしょうか。
第7 懲戒解雇とは?
桑島:実は,もう一つ,懲戒解雇というカテゴリーがあります。これについては,普通の解雇ではなく,会社が懲罰として解雇するというものです。
ちょっと特殊で,普通の解雇をするより条件が厳しいものになります。今回はお話しませんが,理由なく懲戒解雇というのも良く聞く話です。これも頭の片隅に置いておいていただければと思います。
— あ,良く聞きますね。退職金が出ないやつですよね。
桑島:多くの会社では,そういう運用にしているところが多いかと思います。
こちらについても,懲戒解雇されてしまったら早めに弁護士にご相談ください。
さて,おおまか,解雇については,これで一通りお話したかなぁと思っています。
— お,そうなんですね。解雇にもいろいろありましたね~。でも,基本的にはそんな簡単に解雇されないようでよかったです。
第8 辞めさせてくれないときはどうすればいい?
桑島:実は,法律改正で,ささっと解雇できちゃうように変更しようという動きもあるんですが,これについては,今日は止めておきます。
あ,最後になんですけど,会社に辞めさせられる解雇ではなくて,労働者側が辞める場合のことをちょっとだけお話したいと思います。
— こっちから辞める場合ですか?
桑島:はい,実は最近人が足りない会社が「お前が辞めるなんてできるわけないだろう!」といって無理やり働かせるような事案が増えてきています。
でも,会社を辞めるのは労働者の自由なので,辞めさせないということはできません。
労働者は,辞める2週間前に会社にやめます!といえば,それだけで会社を辞めることができます。辞めさせてもらえないと悩む必要はありませんよ~。
— こっちから辞める分には,簡単なんですね。つらい職場で辞められないとなるとほんときついですもんね・・・。そんな状態になってしまっている方がいらっしゃったら,ぜひ参考にしてください。
さて,本日の札幌弁護士会の知恵袋は以上になります。
札幌弁護士会の知恵袋は,札幌弁護士会のホームページで過去の放送分をテキストで見ることができます。また,音声でも聞くことができます。今日の放送で聞き漏らした部分があるという方はぜひチェックしてください。
進行は田島美穂(タシマ ミホ)でした。
制作・著作
<プロデューサー>
弁護士福田直之、弁護士北山祐記(札幌弁護士会)
杉澤洋輝(三角山放送局)
<脚本>
弁護士桑島良彰(札幌弁護士会)
<出演>
番組MC 田島美穂(三角山放送局)
ゲスト 弁護士桑島良彰(札幌弁護士会)
<監修>
弁護士上田絵里、弁護士山田敬純、弁護士佐藤敬治(札幌弁護士会)
<初回オンエア>
平成27年8月11日