周波数 | 三角山放送局 76.2MHz「トークinクローゼット」内コーナー |
---|---|
放送時間 | 毎週火曜日 AM 9:15~ |
札幌弁護士会広報委員会が今年7月からお送りしている「札幌弁護士会の知恵袋」。
労働問題の3週目のテーマは,「パワハラ・セクハラについて」です。
ゲストは,札幌弁護士会の知恵袋の出演回数が(現時点で日本記録となる)3回目の桑島良彰氏。
しかし、仕事人間の桑島氏は出演3回目にして、(ラジオ収録で)プライベートの雑談のネタが切れてしまい、戸惑ってしまいます。
MCからの雑談の「振り」を振り切って本題に進む桑島氏。
もちろん、セクハラ・パワハラについて語り出せば、仕事人間の面目躍如、言葉が次々と紡ぎ出されます。
上司にいじめられている,会社でずっと嫌なことを言われていてどうにかしたい!と考えておられるリスナーの皆様!
セクハラ・パワハラはきちんと対処することが大事です。放送を聞いて,どのように対処すればよいかを学んでいきましょう!
放送日 | 2015年8月18日 |
---|---|
ゲスト | 桑島良彰 弁護士 |
今週の放送 キーワード |
パワハラ,セクハラ,男女雇用機会均等法,損害賠償請求,環境改善のために必要な措置,いじめ,住所の秘匿,訴訟記録の閲覧制限 |
— はい、今週も「札幌弁護士会の知恵袋」の時間がやって参りました。
札幌弁護士会の法律相談によせられる皆様の質問に、弁護士がズバリ答えます。
今回は,先週に引き続き,労働問題についてお話いただく予定です。労働問題の第3回目の今回は,パワハラ・セクハラについてお話いただきたいと思います。
今回のゲストは前回に引き続き,札幌弁護士会に所属の桑島良彰(クワシマヨシアキ)さんです。
桑島:よろしくお願いします。
— では、早速,今週のテーマに行ってみましょうか?
桑島:行きましょう!
第1 パワハラについて
— では,本日の質問です。
「先日,会社で仕事の進め方の違いから,上司とけんかをしてしまいました。そしたら,喧嘩した翌日から,今日からお前の席を移動する,といわれたんです。動いた先の席は,みんなが集まってるところからだいぶ離れたところに一人だけで座る席でした。その上,上司が私に,特にきっかけもなく,お前は使えないやつだ,などと頻繁に言うようになってしまいました。
職場から孤立させられている状況で,いろんな暴言を言われていて,かなりつらい状況です。上司を訴えたりできないでしょうか」
ううむ,かなり厳しい状況ですね。この場合,訴えたりできないんですか?
桑島:質問者さんの場合,上司の行動はパワーハラスメントにあたり,違法な行為だと考えられます。ですので,上司及び会社に対して損害賠償請求を行う,あるいは,会社に環境の改善措置を実施するように求めることができると考えられます。
— やっぱり上司の方の行動は,最近良く聞くようになってきた,パワハラなんですね。
よくわかっていないんですが,パワハラってなんなんでしょうか?
桑島:パワーハラスメントというのは,上司が職務上の地位や権限を濫用して,部下の人格を損ねるような行動をすること,とされています。
質問者さんの例にあったように,業務上の命令として孤立させるなどのいじめにあたる行為を行ったり,特段の理由もないのに人を貶めるようなことを言ったりといった行為は,まさに人格を損ねるような行為にあたります。
その他にも,長期間の自宅待機を命令する,過大なノルマを押し付ける,遠隔地に配転するなど,様々なタイプのパワハラがあります。
— いろいろあるんですね。でも,上司が部下を怒ったりすることはよくあると思うんです。怒ったら全部パワハラってわけじゃないですよね?
桑島:それはその通りです。業務を行う上で部下がミスをして,これを叱責するのは会社においては当然ことです。それ自体が当然にパワハラとなるわけではありません。
パワハラになるかどうかは,上司の行動に,業務上の必要性が認められるか,上司の真の目的はなんなのか,部下が被る不利益の程度はどの程度なのかなどを総合的に考慮して,違法かどうかが判断されています。
— そうすると,これをやったらパワハラになる,という基準があるわけではないんでしょうか。
桑島:はい,パワハラにあたるかどうかについて,一律なわかりやすい基準はありません。
さすがに,社会人同士の関係で,暴力を振るったら違法となるでしょうが、叱られる程度の場合には,叱責に理由があるか,やりすぎになっていないかなどによってパワハラにあたるかを考えることになりますね。
— 同じように叱る場合でもパワハラになる場合とならない場合があるということですか?
桑島:その通りです。たとえば,書類を作成した際に1文字だけ誤字があったとします。これについてもミスはミスですので,有る程度叱られても文句はいえません。ただ,この程度のミスで,大声でえんえんと1時間以上叱られるとなってくれば,やりすぎですよね。1回これがあっただけでは損害賠償はできないかもしれませんが,些細なミスを理由としたやりすぎの叱責が続けば,パワハラとして対処が必要になってくると思います。
一方で,会社の契約でとんでもないミスをして何千万と会社に損害を与えてしまったというときに,社長室に呼ばれて厳しく1時間叱られたとなると,なかなかやりすぎとは言いづらくなってきます。ですので,自分がやってしまったこと,業務上の必要性などによって,同じように叱られた場合でも,違法かどうかが変わってくることになります。
自分の状況がパワハラにあたるかどうかは,早めに弁護士に相談してもらったほうがいいと思います。
第2 セクハラについて
— ハラスメントといえば,パワハラの他にセクハラもありますよね。
桑島:そうですね。どちらかといえば,セクハラすなわちセクシュアルハラスメントのほうが皆さんにとっては身近かもしれません。
— セクハラのほうは,上司に身体を触られたとか,性的なことでからかわれたとかがセクハラってことになるんでしょうか。
桑島:実は,セクハラについては法的に二つの段階があるんです。
一つは,男女雇用機会均等法で定められているもので,もう一つが不法行為等における違法となる段階です。
— 二つはどのように違うんでしょうか?
桑島:男女雇用機会均等法では,「本人の意思に反する性的な言動」がセクハラにあたるとしています。そして,この定義上でセクハラに当たる場合には,会社に環境改善のために必要な措置を取るように求めることができます。
実際に求められる措置としては,会社でセクハラに関する規定を制定すること,会社がセクハラ被害者の相談に応じるための体制作りをすること,セクハラが発生してしまった時の対応体制の整備,セクハラを受けた労働者を不利益に取り扱うことの禁止などがあります。
簡単にいうと、セクハラをやめてください!ということを会社に言って,セクハラがやむように会社が対処するように求められるということですね。
— もうひとつの段階はどんなものなんですか?
桑島:もうひとつは,みなさんがニュースなどでも良く聞く,損害賠償請求が認められるだけのセクハラというものになります。
こちらは,男女雇用機会均等法におけるセクハラと違って,本人の意思に反するだけではなく,社会通念上のハラスメント,いじめ等に当たる必要があります。
— どの程度ひどいと認められるんですか?
桑島:実は,こちらもパワハラと同じで一律な基準というものはないんです。社会通念上セクシュアルハラスメントとして違法性が認められる場合,ということになりましょうか。
セクハラと認められた場合も,支払いを命じられる金額もそんなに高額ではなかったりします。ただ,セクハラが続いた結果として精神的に追い詰められ,会社を辞めざるを得なくなった,などという場合には,金額が上がることもありますね。
第3 パワハラ・セクハラへの対応策
— なるほど。ところで,パワハラやセクハラにはどうのように対処していけばいいんでしょうか。
桑島:セクハラもパワハラも,会社内におけるいじめ,人格権侵害であることは共通しています。したがって,対処法もほぼ共通です。
まずは,証拠を確保することが大事です。セクハラにせよ,パワハラにせよ,密室で行われることが多く,上司がなにをしたかをきちんと立証するのが簡単ではありません。
セクハラやパワハラをされた際の録音や,何かをされた結果を写真に残しておくなど,証拠を作っておくことが大事になります。
— このあたり,残業代請求のときと似ていますね。
桑島:そうですね。残業代の労働時間の証明する際と同じように考えていただければと思います。
それはそれとして,次なる対処方法として,セクハラやパワハラの実体を公表して,会社や上司に辞めるように申し入れることが有効な手段となります。
— え,正面からいっちゃうんですか。
桑島:ええ,セクハラにせよパワハラにせよ,おかしいことをしているから違法になるんです。会社という組織の中で,おかしいことをやったんだと明確にされると,これ以上やったらまずいかも,という感覚が働いてセクハラがパワハラがおさまることが少なくないと言われています。
— そうなんだ,公表ってどうすればいいんでしょう?
桑島:一つは,上司のさらに上司に訴えることでしょうか。会社にたいして弁護士名で内容証明郵便を送るなども有効な手段となります。
— そうなんですね~。じゃあ,セクハラやパワハラを受けたら一人で悩んじゃうのが一番よくないんでしょうか。
桑島:そうなります。一人で抱え込んでしまうと,上司も自分がやっていることを振り返るタイミングがありませんので,セクハラやパワハラが続いてしまいかねません。
— そのほか,気を付けることとってありますでしょうか。
桑島:実は,セクハラやパワハラは,2次被害が起こりやすい類型でもあります。
公表したりした時に,職場の同僚が職を失いたくないために会社に迎合してしまい,ハラスメントを受けているご本人がトラブルメーカーのように取り扱われてしまったりということもありえるところです。
早めに,自分の味方になってくる信頼できる人に相談しておくことが重要です。
セクハラだと,訴訟において何をされたかを公開するのに抵抗感がある方もいるとは思いますが,住所の秘匿や訴訟記録の閲覧制限など,だれにでも記録を見られてしまう状況は防ぐことができますので,弁護士に相談していただければと思います。
— へぇ,いろいろな方法があるんですね。
桑島:はい,いろいろあるんです。セクハラやパワハラに関するお話は,以上で大体一通りとなります。実際に,セクハラやパワハラに当たるか,あたるとして,請求する際の秘匿等に関する具体的な方法については,ぜひ,弁護士にご相談いただければと思います。
— なるほど,わかりました。私もなにかがあった時は相談することにします!
さて,本日の札幌弁護士会の知恵袋は以上になります。
札幌弁護士会の知恵袋は、札幌弁護士会のホームページで過去の放送分をテキストで見ることができます。また、音声でも聞くことができます。今日の放送で聞き漏らした部分があるという方はぜひチェックしてください。
進行は田島美穂(タシマ ミホ)でした。
制作・著作
<プロデューサー>
弁護士福田直之、弁護士北山祐記(札幌弁護士会)
杉澤洋輝(三角山放送局)
<脚本>
弁護士桑島良彰(札幌弁護士会)
<出演>
番組MC 田島美穂(三角山放送局)
ゲスト 弁護士桑島良彰(札幌弁護士会)
<監修>
弁護士上田絵里、弁護士山田敬純、弁護士佐藤敬治(札幌弁護士会)
<初回オンエア>
平成27年8月18日