周波数 | 三角山放送局 76.2MHz「トークinクローゼット」内コーナー |
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放送時間 | 毎週火曜日 AM 9:15~ |
札幌弁護士会広報委員会が今年7月からお送りしている「札幌弁護士会の知恵袋」。
労働問題の4週目,最後のテーマは,「労災について」です。
ゲストは,実は働いている時間を考えると労災の基準を超えていそうな、桑島良彰氏です。収録も4回目となってよくない慣れも出てきてしまった感のある同氏が、労災とはなんなのか,どのような場合に労災で保障がされるのかについて,わかりやすく解説します。
職場で怪我をしてしまった,通勤途中に交通事故にあってしまったなどに心当たりのある,あるいは,このようなことが心配なリスナーの皆様!
労災事故は誰にでも起こりえるものです。いざという時に備えて,いろいろなことを知っておきましょう!
放送日 | 2015年8月25日 |
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ゲスト | 桑島良彰 弁護士 |
今週の放送 キーワード |
労働災害、労災保険、労働基準監督署、業務災害、通勤災害、業務遂行性,業務起因性、通勤経路、治療費,休業補償,障害補償給付、精神疾患、厚生労働省の認定基準、過労死、長時間労働、過労死防止法 |
— はい、今週も「札幌弁護士会の知恵袋」の時間がやって参りました。
札幌弁護士会の法律相談によせられる皆様の質問に、弁護士がズバリ答えます。
今回は,先週に引き続き,労働問題についてお話いただく予定です。労働問題の4週目の今日は,労災についてお話いただきたいと思います。
今回のゲストは前回に引き続き,札幌弁護士会に所属の桑島良彰(クワシマヨシアキ)さんです。
桑島:よろしくお願いします。
— では、早速,今週のテーマに行ってみましょうか?
桑島:行きましょう!
第1 労災とは
— では,本日の質問です。
「私は,機械をつかって製品を作る会社で働いています。先日,会社で仕事をしていたところ,機械にまきこまれて足を怪我をしてしまい,1か月入院することになってしまいました。働いている間の怪我なら,労災になると聞いたことがあります。私は労災としてお金がもらえたりするのでしょうか」
ううん,入院まですると大怪我ですね。この場合どうなるんでしょうか?
桑島:質問者さんの場合,今回の怪我は労働災害にあたると考えられますので,労災保険から給付が受けられると考えられます。会社に話をした上で,労働基準監督署で労災の給付を受けるための手続きをなされるべきでしょう。
— 労災ってよく聞くんですけど,どんなものなんでしょうか。
桑島:労災とは,正確には労働災害を略したものです。労働災害とは,労働者が業務中に負傷したり,病気になったりすることを言います。
日本では,労災保険制度が導入されていて,労働者が労災にあった時には,様々な保険給付を受けることができます。
第2 労災と認められるための条件
— なるほど,仕事中になにかあったら,労災だってことなんでしょうか。
桑島:いえ,労災保険給付を受けるための条件は,もう少し限定されています。
労災には,主に仕事によって発生する業務災害と,通勤中に発生する通勤災害があります。このうち,業務災害については,①業務遂行性と,②業務起因性がある場合に,労災保険の給付が受けられることになっています。
— また,難しい言葉が出て来ましたね。業務遂行性と業務起因性ってなんでしょうか。
桑島:業務遂行性というのは,労働者が労働契約に基づいて使用者の支配下にある状態で発生したものであることをいいます。簡単にいうと,まさに仕事をしている間に発生したということですね。
次に,業務起因性とは,業務と病気・怪我との間に客観的な因果関係があることをいいます。つまり,仕事をしていたから,病気やけがになった,ということが認められなければなりません。
— なるほど,なにか面白い具体例などありますか?
桑島:ちょっと特殊な例ではありますが・・・会社の工場で休憩時間中にハンドボールを使ったゲームをしていたときに,転んで足首をねんざした人が労災と認められたことがあります。ただ,この人の場合,ハンドボールに参加していたのは,会社が指定した体育リーダーが,健康促進のためできるだけ参加するように,と指導して,ハンドボールのゲームをしていたという事情がありました。
— なんとなく,休憩中に遊んでいて捻挫していたようにも聞こえるんですけど,労災が認められたんですね。
桑島:そうなります。ごく単純に会社で休憩している間に,個人的な用事をこなしていて怪我をした場合には,労災は認められません。ただ,この件では,会社の意向を受けた体育リーダーさんが参加するように,と言っていたことから,ハンドボールのゲームに参加することも業務の一種だと認められて,業務遂行性が認められた,ということになるかと思います。
— なるほど,いつでも認められるわけではないってことですね。
桑島:はい。次に,さきほどお話した通勤災害についてお話したいと思います。通勤災害とは,読んで字のごとく,通勤により被った負傷,疾病等のことになります。
ただ,ここでいう通勤というのは結構狭かったりするので,気を付けていただきたいと思います。
— 会社に来る間は全部通勤なんじゃないんですか?
桑島:いえ,通勤災害における通勤は,労働者が就業に際して,住居と就業の場所との間を合理的な経路及び方法により往復することで,業務の性質を有するものを除くものとされています。
噛み砕いて言うと,家と会社を往復するにあたって,寄り道しない通常の経路を往復する場合で,出張等で家の近くを通る場合を除くものだけが通勤と認められているんです。
会社に届け出ている通常の通勤経路と違う方法を取ったりしていると,通っちゃいけない経路だから通勤災害にあたりません,と言われてしまう可能性があります。また,寄り道は,日常生活に必要な短いものでない限り,寄り道を始めた時点で通勤が終わり,となってしまいます。
第3 労災であると認められた場合
— 以外と厳しいんですね。ところで,労災にあたると認められると,どんなことになるんでしょうか。
桑島:法律上,国から一定のお金がもらえることになっています。
具体的には,病院に通った時の治療費や,会社を休まざるを得なかった場合の休業補償,一生モノの障害が残ってしまった場合の障害補償給付などがあります。
残念ながら労災事故で亡くなられてしまった場合には,葬祭料なども支給されたりまします。
第4 労災の種類
— 結構いろいろ出るんですね。まじめに働いていれば,仕事が原因で怪我をしても不安になる必要がなさそうです。
そういえば,労災ってどんなものが多いんでしょうか。
桑島:昔からよくあるのは,質問者さんのように怪我をしてしまうパターンですね。それに加えて,最近は精神疾患といううつ病に罹患された方の労災申請などが増えてきているようです。
— うつ病!たしかに良く聞くようになりました。ただのうつ病だけでなく,新型うつとかテレビなんかでもいろいろ放送されていますね。
桑島:そうですね。うつ病になるのは,仕事がうまくいかないということもあるのでしょうが,前回お話したパワハラやセクハラが理由でうつ病になる方が増加している状況にあります。
うつ病については,労災における認定基準を厚生労働省が定めています。仕事上つらいことがあってうつ病になってしまった,という方は労災が認められる可能性がありますので,あきらめずに弁護士にご相談いただければと思いますね。
— そのほかになにかありますか?
桑島:しばらく前からでしょうが,長時間労働が問題になっています。そして,これを原因とする脳や心臓疾患などもよくある労災ですね。脳や心臓になにかあると,過労死という形で亡くなられてしまう方も少なくありません。
— 過労死・・・。それも良く聞く話ですよね。
桑島:最近は過労死防止法なども制定されています。まずは,過労死する前にきちんと休むことが大事ですが,万が一,過労死という状況になってしまったら,ご遺族の方はきちんと弁護士に相談して,補償を受け取れるようにしていただきたいと思います。
第5 労災と認めてもらう方法
— 労災ってただ申請すればいいんでしょうか。
桑島:先ほど述べた,業務起因性,つまり業務によって怪我や病気になったことは,証拠をしっかり集めて,労働基準監督署で決定してもらう必要があります。
過労死の場合などは,長すぎる労働や,異常な出来事があって著しい負荷がかかったことなどを証明しなければなりません。
この過程で,これまでお話してきた分野と同様に証拠が必要になってきます。
必要な証拠としては,長時間労働していたことの証拠や,セクハラやパワハラの具体的内容が必要となりますので,残業代請求や,セクハラ・パワハラの回の証拠とほぼ同じとなります。
— やっぱり証拠は大事なんですね。
桑島:ええ,特に,第三者に認めてもらうためには,いつでも証拠が大事になってきます。
— 労災の関係で裁判をすることはないんでしょうか?
桑島:もちろんあります。労災は,当初は労働基準監督署に申請をして,認めてもらうという手続きなんですが,労働基準監督署が労災と認めてくれないことがあります。その場合,最終的には労働基準監督署の決定がおかしい!といって訴訟を起こすことになります。
また,労災保険で給付がされるのは,あくまで休業補償などの損害だけです。休業補償についても,給料の全額が保証されるわけではありません。いわゆる怪我をしたことに関する慰謝料も給付されない状況にあります。
これらの発生した損害分のうち,足りない部分については,会社に対して損害賠償請求を行うことになります。これも,最終的には訴訟で請求することになりますね。
— あ,結構訴訟にもなるんですね。そろそろ最後ですが,訴訟までするとどのぐらい時間がかかるものなんでしょうか。
桑島:実は,労災の関係はかなり複雑なことが多いので,とても長い時間がかかります。最初に労働基準監督署に申請してから,裁判で認められるまでに5年以上かかることもあるんです。とっても長くかかるので,時間に関しては覚悟が必要な請求です。
— 5年は長いですね!でも,皆さんあきらめられないですよね~。
さて,本日の札幌弁護士会の知恵袋は以上になります。
札幌弁護士会の知恵袋は、札幌弁護士会のホームページで過去の放送分をテキストで見ることができます。また、音声でも聞くことができます。今日の放送で聞き漏らした部分があるという方はぜひチェックしてください。
進行は田島美穂(タシマ ミホ)でした。
制作・著作
<プロデューサー>
弁護士福田直之、弁護士北山祐記(札幌弁護士会)
杉澤洋輝(三角山放送局)
<脚本>
弁護士桑島良彰(札幌弁護士会)
<出演>
番組MC 田島美穂(三角山放送局)
ゲスト 弁護士桑島良彰(札幌弁護士会)
<監修>
弁護士上田絵里、弁護士山田敬純、弁護士佐藤敬治(札幌弁護士会)
<初回オンエア>
平成27年8月25日