周波数 | 三角山放送局 76.2MHz「トークinクローゼット」内コーナー |
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放送時間 | 毎週火曜日 AM 9:15~ |
札幌弁護士会の知恵袋」、引き続き離婚問題シリーズです。
シリーズ第4回目の今回は、前回に引き続いて離婚に伴うお金のお話。
ゲストに伊藤絢子さんをお招きして、養育費・婚姻費用をテーマにお届けします。
別れたいという思いが先走って、あるいは話し合うことすら難しくて、曖昧なままになることも少なくないお金のお話。でも重要なのです。
養育費・婚姻費用とは? 養育費や婚姻費用はどう計算するの? 計算の根拠となる資料は? 養育費や婚姻 費用はいつからいつまでもらえる? 今日も話題は尽きません。
放送日 | 2015年9月22日 |
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ゲスト | 伊藤絢子 弁護士 |
今週の放送 キーワード |
養育費、婚姻費用、生活保持義務、家庭裁判所、調停、審判、養育費算定表、履行勧告、強制執行 |
— 今日も始まりました「札幌弁護士会の知恵袋」。
札幌弁護士会の法律相談に寄せられる皆様の質問に、今日も弁護士がズバリお答えします。今月は「離婚」をテーマにお送りしていますが、今日は第4回目です。
今日のゲストは伊藤絢子(いとうあやこ)さんです。よろしくお願いします。
伊藤:こんにちは。伊藤絢子です。今日もよろしくお願いします。
— さて、前回は段林君子さんから、財産分与と年金分割についてとても分かりやすく説明していただきました。
離婚するときのお金のお話、大事ですよね。今日も引き続き離婚とお金をめぐるお話ですね。
伊藤:はい。
今回は、養育費と婚姻費用のお話をしたいと思います。
第1 養育費とは
— では早速いきましょう。まずは養育費から。
養育費は第2回のお子さんの問題ともかかわりますね。
そもそも養育費とは何でしょう。
伊藤:養育費とは、未成熟子の養育に関する費用です。親権者となった親は親権者とならなかった親に対して養育費の支払を求めることができるのです。
養育費の負担義務は、生活保持義務と考えられています。
— 生活保持義務ですか。難しい言葉ですね。
伊藤:生活保持義務といいますのは、自分の生活を保つのと同じ程度の生活を被扶養者にもさせる義務といわれています。よくいわれる説明なのですが、例えばここにパンが1枚あったら、それも分けるというレベルの義務とされています。
— 自分の生活を保持するとの同じ程度の生活をさせる義務、ということですね。
伊藤:養育費は、お子さんの将来設計に関わることです。夫婦が離婚せざるを得ないとしても、お子さんにとってはどちらも親であることは変わりませんから、できれば夫婦間で、養育費の金額や支払方法、何歳まで支払うかを十分に話し合いたいですね。
しかし、現実にはなかなか協議がまとまりにくいのも事実です。
第2 養育費の請求方法及び金額について
— 話合いがまとまらない場合にはどうしたらいいのでしょう。
伊藤:協議ではまとまらない場合には、家庭裁判所に調停を申し立てることができます。調停でも解決しない場合には、裁判所が審判によって定めます。
離婚調停や離婚訴訟の中で、離婚後の養育費を請求に含めることも多いです。
— 養育費の金額は、具体的にはどのように計算するのですか。
伊藤:非常におおまかな説明をすると、子が義務者と同居していると仮定すれば子のために費消されていたはずの生活費がいくらかを計算し、これを義務者と権利者の収入の割合で按分し、義務者が支払うべき養育費の額を算出します。
— 分かったような、分からないような。計算式があるのですか?
伊藤:具体的に計算しようとすると複雑です。
現在の実務では、より簡易で迅速に算定ができるように、義務者・権利者の収入、子の数、年齢に応じて大まかな養育費の額を算定する算定表が利用されることが多くなっています。
— 相手方の収入が分からない場合はどうしたらいいのでしょう。
伊藤:通常であれば、給与所得者なら源泉徴収票、自営業者の場合には確定申告書、収入がない場合には非課税証明書といった資料をもとに算出します。
家庭裁判所の手続では、裁判所から収入資料を提出するよう働きかけがなされますが、相手方がどうしても収入資料を提出しないなどの理由で収入が明らかではない場合には、賃金センサスによる平均賃金から推計した額を収入額とする例もあります。
— 養育費はいつからいつまで請求できるのですか。
伊藤:養育費の始期については様々な考え方がありますが、実務では、離婚と同時に決めるときは離婚時から、離婚の後に養育費の調停や審判の申立をするときには、申立てのときからとされています。
養育費の終期は、成人に達するまでという扱いが原則的ですが、大学や専門学校など高等教育を受けている場合や、子に心身の障害があるような場合には、扶養義務者の資力や学歴などの家庭環境、障害の内容等の事情を考慮して終期が定められることもあります。
第3 養育費と面会交流の関係について
— ところで、例えば、面会交流をさせてくれなければ養育費を支払わないという主張はできるのでしょうか。
伊藤:養育費や面会交流についてトラブルが激化してしまい、面会交流をさせなければ養育費を払わないという主張がされることがあります。
しかし、養育費の分担義務と面会交流は連動するものではなく、仮に面会交流が実現しないような事情があったとしても養育費の支払義務が免除されるものではありません。
— 養育費と面会交流は別に考えなければいけないのですね。
さて、ここまで養育費のお話を聞いてきました。次に、婚姻費用とは何ですか。
第4 婚姻費用とは
伊藤:夫婦は結婚すると共同生活を営むわけですが、婚姻生活を維持するための費用が「婚姻費用」です。婚姻費用の分担義務の内容も、生活保持義務、つまり一枚のパンを分け合う程度の義務とされています。
より具体的には衣食住の費用や子どもの教育費、医療費、交際費などです。
— 婚姻費用はどのような場合に問題になるのですか。
伊藤:夫婦が円満な場合はよいのですが、夫婦が別居したような場合、別居した妻(又は夫)は、生活資金がなくて生活できないということが生じます。このような場合に、生活資金の支払を請求できるか、請求できるとしてどのくらいの請求ができるか、という問題が発生するのです。
夫婦間で協議がまとまらなければ、婚姻費用分担調停あるいは婚姻費用分担審判によることになります。
— 養育費と婚姻費用はどのような関係なのですか。
伊藤:夫婦が婚姻している間は、未成熟子の監護に関する費用も婚姻費用に含まれます。これに対して夫婦が離婚した後は、子の監護に関する費用は養育費として請求することになります。
— 婚姻費用はいつからいつまで請求できるのですか。
伊藤:実務では、申立時点から、離婚又は別居の解消までとされています。
— 婚姻費用はどのように算定しますか。
伊藤:夫婦の資産や収入等に応じて、婚姻生活や社会生活を維持するために必要な費用を個別に判断するのは大変ですから、実務では、ここでも簡易迅速な算定のために義務者・権利者の収入、子の数、年齢に応じた算定表が利用されることが多くなっています。
第5 養育費や婚姻費用の金額の変更について
— 養育費も婚姻費用も、その算定に当たっては双方の経済状況が大きく影響しますよね。
ところで、養育費や婚姻費用を調停なり審判なりで定めた後に、どちらかの、あるいは両方の経済状況が変わった場合にはどうなるのですか。
伊藤:養育費や婚姻費用は、支払期間が長くなることもありますから、権利者及び義務者の経済状況が変化した場合には、経済状況の変化が反映されないと不公平を生じることがあります。
そのため、増額や減額を認める必要がある程度に事情が変更した場合には、養育費や婚姻費用の分担額を変更することができます。事情変更の例としては、経済状況の変化や、義務者が再婚して再婚相手との間に子が誕生した場合などが考えられます。
— 具体的には、どのような手続きで養育費や婚姻費用の変更が認められるのですか。
伊藤:話し合いがまとまらなければ改めて調停又は審判の申立をする必要があります。
第6 支払われないときの対応について
— 養育費や婚姻費用が調停や審判で決まったのに、相手方が支払ってくれない場合にはどうしたらよいでしょうか。
伊藤:面会交流の場面でもご紹介した、「履行勧告」という仕組みがあります。権利者は家庭裁判所に対して、義務を履行するよう勧告することを申し出ることができるのです。
履行勧告は、書面によらずに口頭や電話でも申し出ることができ、費用もかかりません。
このほかに、差し押さえることができる財産が明らかな場合は、強制執行の申立をすることもできます。例えば、勤務先が明らかであれば、給与を差し押さえることもあります。
— 今日は養育費や婚姻費用のお話をお伺いしましたが、養育費や婚姻費用を考えるときのポイントはどこにあるのでしょう。
伊藤:養育費も、婚姻費用も、それなりに長い期間に渡る問題である場合が多いのです。ですから、決めるときは少し大変でも、きちんと定めておかないと後々損をしてしまうことになりかねません。
特にお子さんのことを考えると、お子さんの養育にかかる費用についてはしっかりと手当てをしておきたいですね。
— なるほど。
もう顔も見たくない、話し合いなんかできるはずない、という思いだけで、お金の話を避けていてはいけないのですね。
さて、次回は離婚最終回。段林君子さんをお迎えして慰謝料のお話をお伺いします。
伊藤さんは今回で最終回ですね。ありがとうございました。
伊藤:こちらこそありがとうございました。
— 札幌弁護士会の知恵袋は、札幌弁護士会のホームページで過去の放送分をテキストで見ることができます。また、音声でも聞くことができます。今日の放送で聞き漏らした部分があるという方はぜひチェックしてください。
進行は田島美穂(タシマ ミホ)でした。
制作・著作
<プロデューサー>
弁護士福田直之、弁護士北山祐記(札幌弁護士会)
杉澤洋輝(三角山放送局)
<脚本>
弁護士伊藤絢子、弁護士段林君子(札幌弁護士会)
<出演>
番組MC 田島美穂(三角山放送局)
ゲスト 弁護士伊藤絢子(札幌弁護士会)
<監修>
弁護士上田絵里、弁護士山田敬純、弁護士佐藤敬治(札幌弁護士会)
<初回オンエア>
平成27年9月22日