周波数 | 三角山放送局 76.2MHz「トークinクローゼット」内コーナー |
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放送時間 | 毎週火曜日 AM 9:15~ |
札幌弁護士会広報委員会が昨年7月からお送りしている「札幌弁護士会の知恵袋」。
3月の月間テーマは「ADR(札幌弁護士会紛争解決センター)」です。
札幌弁護士会でADRが開設されてから昨年で10年の節目を迎えましたが、ADRって一体何?何の略?と思っている方も多いと思います。
そんな皆様に、5週にわたりADRはどのような制度なのかを分かり易くお伝えしていきます。最後まで聞いていただけたら、あなたはADR「通」になること間違いありません。
今週は、仲田亮弁護士が、ADRの中でも、「医療ADR」という医療問題に特化したADRの手続きについて、事例を紹介しつつ、他の制度と比較しながら、メリット等について、わかりやすく説明していきます。バンドやらバスケットボールの話題も出てきますので、ぜひお聞きください。
放送日 | 2016年3月15日 |
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ゲスト | 仲田亮弁護士 |
今週の放送 キーワード |
ジャスティス、ADR、裁判、調停、柔軟な解決、調停人、早期解決、調停人2人、患者側申立、医療機関側申立 |
— はい、今週も「札幌弁護士会の知恵袋」の時間がやって参りました。
札幌弁護士会の法律相談によせられる皆様の質問に、弁護士がズバリ答えます。
毎週火曜日の午前9時15分から15分間、役立つ情報を月替わりのテーマで放送します。
3月は5週連続で、ADRについて取り上げていきます。今回は、その3回目で、ゲストは、札幌弁護士会に所属の仲田亮(なかだりょう)さんです。
仲田:どうぞ、よろしくお願いします。
第1 弁護士仲田亮とジャスティス
— 早速ですが、自己紹介をお願いします。
仲田:はい、私は札幌弁護士会の紛争解決センター運営委員会(これを「ADR委員会」と言うのですが)という委員会の委員を務めておりまして、特に今回御紹介させていただく「医療ADR」を主として担当しておりますので、今回出演させていただきました。
— 仲田さんは、ADRに関する活動以外には、何かされているのですか。
仲田:はい。いろいろ活動はさせていただいています。最近では、業務から少し離れたところではありますが、ジャスティスというバンドに参加させてもらって、好き勝手にキーボードを弾いています。
— ジャスティス!?「正義」ですか!?
仲田:そうです!我々にぴったりでしょう!
— は、はぁ。。
そ、そのバンドのメンバーは全員弁護士なんですか?
仲田:そうです。1ヵ月に1度くらい集まって、課題曲をこなすということをやっています。
— 外部のライブ等もあるのでしょうか?
仲田:いえ、今のところは、内輪向けのものばかりです。ただ、リーダーを筆頭に、かなり音楽が好きで、かつ野望を持ったメンバーが多いので、いずれ外界進出を狙っているのではないかと思います。
第2 医療ADRの特色
— 是非今度はそのバンド紹介でご出演いただきたいですね。
では、本題に入っていきたいと思います。
今月は、特に「医療ADR」についてのお話ということですが、これまで伺ってきた一般のADRと何が異なるのでしょうか?
仲田:はい。まず、最も異なるのが、「医療ADR」という名前の通り、医療問題に特化したADRという点です。ADRという手続き自体、双方の話し合いによる解決を目指すという手続きなのですが、医療ADRはその「医療問題バージョン」であり、一般的には、「病院VS患者」という図式になります。
— 医療問題であれば、何でも対象になるのでしょうか?
仲田:一言で「医療問題」といってもたくさんあります。例えば、手術でミスがあったとか、入院中に担当医の先生から心ないことを言われた、あるいは、自分のカルテを見せてくれない、説明の場をもってくれない、などバリエーションは様々です。その中でも、やはり「話し合いに適した事案」でなければいけません。
— 「話し合いに適した事案」とは具体的にどういったものなのでしょうか。
仲田:一概に表現するのは難しいのですが、双方で歩み寄りの可能性がある事案、ということになると思います。一番わかりやすいのが、病院側が、手術ミスについては認めているけれども、その賠償額の具体的な金額について、折り合いがついていないという場合です。このような場合、あとは「金額の問題」ともいえるため、ADRの話し合いの手続きが馴染むと思います。また、訴訟等の厳格な手続きにするには、少し「証拠が弱い」という事案も医療ADRを使うメリットがあると思います。
— 逆に、医療ADRに馴染まない事案というのはあるのでしょうか。
仲田:はい、あります。
例えば、患者さん側が病院側にミスがあったと考えているにもかかわらず、医療機関側は全くミスがなかったと主張しているような事案の場合、双方の言っていることが真逆で、歩み寄りの余地はないと考えざるを得ませんので、「話し合いに適した事案」とはいえないことになります。あとは、医療ミスとは無関係に亡くなったり後遺障害が残った等、因果関係が争われている事案も、ADRには適さない場合が多いと思います。
— そういった紛争は、どのような手続きで解決することになるのでしょうか。
仲田:医療ミスの有無や因果関係が争いになるような事案は、基本的に訴訟で争っていただくことになると思います。裁判所の調停という手続きもありますが、調停も話し合いベースの手続きなので、争いが激しいと、なかなか解決は困難だと思います。
第3 医療ADR手続きの概要
— 訴訟や調停との差は後で伺いますね。
医療ADRの申し立ては、患者さん側からしかできないのでしょうか。
仲田:いいえ。そんなことはありません。
患者さん側からの申し立てが圧倒的に多いのが現状ですが、医療機関側からも申し立てることができます。被害感情が激しく、患者さんが病院側の話を聞いてくれないとか、患者さんの言い分や言い方が少し極端で、第三者に間に入ってもらいたい場合などは、病院側にも医療ADRを利用するメリットは大きいと思います。
— 「医療ADR」は、手続きに関与する弁護士さんについても、一般のADRとは違うと聞いたのですが、そうなのですか?
仲田:はい、そうです。医療ADRは、医療問題のための手続きなので、医療問題を多数扱ったことがある、医療問題のエキスパートが2名、中立な立場で、調停人として関与します。患者さん側で代理人になることが多い弁護士1名と、病院側で代理人になることが多い弁護士1名の合計2名ですので、それでバランスをとっているということになります。
— それぞれの調停人がそれぞれ患者さんと病院側の立場で手続きに関わるのですか?
仲田:いいえ。あくまで、「扱う事件が多い」というだけであって、調停人として関与する以上は、中立の立場で事件に関与してもらいます。例えば、スポーツで、審判が、片方のチームに肩入れいていたら嫌ですし、試合自体が成り立ちませんよね。調停人は、あくまで中立の立場を貫いてもらっていますし、そうあるべきです。
第4 医療ADR手続きの特色
— 先程、「訴訟」「調停」という言葉も出てきましたが、医療ADRとはどう違うのでしょうか。
仲田:まず、「訴訟」ですが、訴訟は最終的には、白黒はっきりさせる手続きですので、医療ミスがあったかどうかという点や、因果関係があったかという点については証拠に基づいて明確に判断が下されます。他方で、例えば、患者さんが担当医に謝罪して欲しいとか、再発防止策を提案して欲しいなどといった、「アフターケア」の部分ついて、判決が触れるということはありません。このあたりは、医療ADRにおける大きなメリットの一つと言えると思いますね。勿論、訴訟でも「和解手続」という形で、話し合いの手続きはあるのですが、ADRほど柔軟ではないと思います。
— 調停との比較ではどうでしょうか。
仲田:調停はADRと似ている手続きなのですが、事件が立て込んでいる場合には、意外と時間がかかるということもあると思います。この点、医療ADRでは、原則として3回の期日で解決しようということになっていますので、解決までの期間が比較的短くなることが多いと思います。1ヵ月に1回のペースで期日が入るとすれば、3ヵ月での解決を目指していることになりますから。
— 3回って結構少ないような気がするのですが・・・。
仲田:勿論、3回というのはあくまで目標ですので、「4回目で解決が可能そうなのに、3回目の期日だから打ち切り」なんてことはしません。ただし、3回程度の期日で解決するように、調停人は頑張っているということです。
— なるほど。
そうすると、訴訟や調停よりも医療ADRは全ての面で優れていることになりますね。
仲田:必ずしもそうとは言い切れません。特に訴訟との関係では、訴訟でしか解決にならない、つまり白黒はっきりつけるべき事案というのが存在するのも事実です。そのような事案は、ADRが逆に適切ではないこともあると思います。そのあたりは、争点や証拠関係なども見た上で、どの手続きにするのか、決めていただく必要があると思います。
第5 具体的事例:マイケル君とレブロン病院
— 医療ADRの事案について、具体的に紹介してもらうことはできますか?
仲田:実際の事例は難しいので、あくまで、例えばということになりますが・・・。
例えばこんなのはどうでしょうか?マイケル君がレブロン病院で手術を受けた際のトラブルです。
— おぉ!今回は横文字ですか!何か意味があるのですか?
仲田:私は昔バスケ部だったので、今回はバスケでいきます。
— お願いします。
仲田:はい。マイケル君が手術を受けることになり、レブロン病院のレブロン医師が執刀することになりました。でも、前日に深酒をしすぎたレブロン医師は、手術中に術具の一つをマイケル君の体内に残してきてしまいました。術後に気付いたレブロン医師。慌てて、マイケル君に説明をし、再手術を実施した結果、無事に術具は回収でき、大事には至らなかったという事案だとしましょう。
— レブロン医師も大概ですね。何をそんなに飲み過ぎたのでしょうか。
仲田:日本酒かワインですかね。。ってそんなことはいいんですが。
— 失礼。それで?
仲田:はい。
レブロン医師から報告を受けたマイケル君はもうカンカンです。「俺の体に金属を
残してくるとは何事だ!1億円払ってもらわないと気が済まないぞ!」
— それはいくらなんでも法外ですね。
仲田:そうですね。でも、他方で、レブロン医師の方も、「結果として術具は無事に回収できたし、何もなかったんだから、払えても1万円くらいだよ」と言っていたらどうでしょうか?
— 二日酔いで術具を忘れて開き直るなんて、医師の風上にもおけないですね。
仲田:そうですね。術具を体内に忘れるなんてことは、言い逃れようのないミスですし、結果として大事に至らなかったとはいえ、命に関わる危険も発生し得るわけですから、1万円は安すぎると思います。
— そういった場合に、金額を詰めるべく、医療ADRを利用するわけですね。
他に1on1で決めるという選択肢もありますかね?
仲田:1対1でどちらが上手いか、そして強いか決めることですね。
マイケル君とレブロン君の1on1には、個人的にかなり興味がありますが、マイケル君の傷口が開きかねないので、そこは控えていただきたいですね。
— 確かに、危険ですね。。。
医療ADRでは金額のみを詰めることになるのでしょうか。
仲田:基本的には、当事者が何を望んでいるかということを出発点にして、妥協点を探ってもらうことになりますが、例えばマイケル君がレブロン医師に直接謝って欲しいと思っているとか、再発防止策を提案して実行して欲しいと考えているとか、そういった細かい希望もあるのであれば、それを提案してもらった上で、対応可能なのかということで具体的に詰めていくことになりますね。勘違いしていだきたくないのは、医療ADRの場は、医師のミスを糾弾するとか、みんなで寄ってたかって病院側を責めるということを目的にしているわけではないということです。病院側が医療ミスを認めていても、2人の調停人はあくまで冷静に、中立な立場から、事案に応じた妥当な解決策を探っていくことになります。
— なるほど。そうすると、病院側も、参加しやすそうな手続きですね。
ちなみに、この件の再発防止策というと、「手術の前日には深酒をしない」とか「ワインや日本酒は極力飲まない」といった内容になりますか。
仲田:事実上はそういったことも大事なのかもしれませんが、調停調書にそういったことは記載しないとは思います。レブロン医師が守れるとも思えませんし。それよりも、手術中に、複数の目でチェックするとか、そういった実践的な内容の防止策が提案されることが多いのではないかと思います。
第6 弁護士仲田亮からのメッセージ
— なるほど。そろそろ最後になりますが、何かメッセージがあれば、視聴者に伝えて下さい。
仲田:はい。医療ADRは、双方の言い分に耳を傾けながら、妥当な解決ポイントを探っていくという非常に柔軟性に富んだ手続きです。病院・患者間で交渉をしているが、最後の落としどころが見つからない、第三者の専門家の意見も聞きたい、等、利用していただく場面はもっと増えていいと思っています。患者さん側のみならず、病院側も申し立て可能な手続きですので、是非ご活用いただけたら幸いです。
— さて,本日の札幌弁護士会の知恵袋は以上になります。
今回は、医療ADRについてお話をいただきましたが、次回は、塚原成佳(ツカハラマサヨシ)弁護士を迎えて、「金融ADR」についてご紹介したいと思います。
札幌弁護士会の知恵袋は、札幌弁護士会のホームページで過去の放送分をテキストで見ることができます。また、音声でも聞くことができます。今日の放送で聞き漏らした部分があるという方はぜひチェックしてください。
進行は田島美穂(タシマ ミホ)でした。
制作・著作
<プロデューサー>
弁護士福田直之、弁護士北山祐記(札幌弁護士会)
杉澤洋輝(三角山放送局)
<脚本>
弁護士仲田亮(札幌弁護士会)
<出演>
番組MC 田島美穂(三角山放送局)
ゲスト 弁護士仲田亮(札幌弁護士会)
<監修>
弁護士上田絵里、弁護士山田敬純、弁護士佐藤敬治(札幌弁護士会)
<初回オンエア>
平成28年3月15日