周波数 | 三角山放送局 76.2MHz「トークinクローゼット」内コーナー |
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放送時間 | 毎週火曜日 AM 9:15~ |
札幌弁護士会広報委員会が昨年7月からお送りしている「札幌弁護士会の知恵袋」。
3月の月間テーマは「ADR(札幌弁護士会紛争解決センター)」です。
札幌弁護士会でADRが開設されてから昨年で10年の節目を迎えましたが、ADRって一体何?何の略?と思っている方も多いと思います。
そんな皆様に、5週にわたりADRはどのような制度なのかを分かり易くお伝えしていきます。最後まで聞いていただけたら、あなたはADR「通」になること間違いありません。
今週は、塚原成佳(つかはらまさよし)弁護士が、専門ADRのひとつ,金融ADRについて説明していきます。難しそうな金融商品に関するトラブルを、分かりやすくお伝えしますので、ぜひお聞きください。
放送日 | 2016年3月22日 |
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ゲスト | 塚原成佳弁護士 |
今週の放送 キーワード |
金融ADR、金融庁の主導、金融商品の複雑化、法律相談前置なし、申立手数料無料、出頭義務、説明義務、資料提出義務、特別調停案受諾義務、旭川・函館・釧路・帯広・北見・網走 |
— はい、今週も「札幌弁護士会の知恵袋」の時間がやって参りました。
札幌弁護士会の法律相談によせられる皆様の質問に、弁護士がズバリ答えます。
今回も引き続き、テーマとしてADRを取り上げていきますが、今回は専門ADRの一つである金融ADRについて取り上げることになります。
今回は、新しいゲストをお呼びしています。紹介します。
札幌弁護士会に所属の塚原成佳(ツカハラ マサヨシ)さんです。
塚原:北は北海道から南は沖縄まで,全国1億2000万人の皆様,お久しぶりです。弁護士の塚原です。
— サツベン放送局の時代から,変わらぬ登場の仕方ですね。もう一度言いますが,全国放送じゃありませんよ。
塚原:そうでしたね。今日は何を話せばいいんでしたっけ。車の話しでしたっけ。
第1 金融ADRについて
— それもサツベン放送局(120回)で語って頂いたので結構です。今日はADRシリーズの一つである金融ADRについてご紹介をお願いします。
塚原:そうでした。金融ADRは,金融商品が複雑化して金融取引に関するトラブルが多発していたことから,金融庁の主導により平成22年10月から導入された制度です。
— 国のリードにより作られた制度ということなんですね。
塚原:そうです。金融商品を扱う事業者は,紛争解決措置を講ずることが義務づけられました。ADRを実施している機関は札幌弁護士会以外にもあるのですが,金融事業者はどこかの機関と協定を締結しなければなりません。札幌弁護士会と協定を締結して頂いた金融機関で起こった金融トラブルは,札幌弁護士会のADRで話し合うこととなります。
— 金融機関と言えば,道民は北洋銀行や北海道銀行などがイメージしやすいですが,これらの銀行で起こったトラブルは,札幌弁護士会ADRが使えるのですか。
塚原:残念ながら北洋銀行さんも道銀さんも当会と協定を締結していません。大きな金融機関だと,道内の信用金庫,信用組合,農協(JAバンク)は協定を締結しているので,ここで起こったトラブルはご利用頂けます。協定を締結している会社はあと9社ありますが,詳しくは札幌弁護士会HPに書いてありますので,ご覧下さい。
— 札幌弁護士会としては、北洋銀行さんと道銀さんにも協定を結んで欲しいですね(笑)。
塚原:そうですね。調停人は粒ぞろいなので,この場を借りて是非。と言いたいところですが,全国銀行協会で自前の紛争解決機関があり,銀行はそこを利用している様です。こんな特定の会社名を連呼しちゃって大丈夫ですかね(笑)。
— ダメじゃないですか(笑)。
塚原:しまった~。手遅れでした。
第2 金融ADRを利用できる場合について
— ところで、どんなトラブルでもADRが利用できるのですか?
塚原:基本的には金融取引に関するトラブルです。
国が金融ADRを作るきっかけになったのは,金融商品が複雑化して,商品の内容をよく理解しないで利用してトラブルになったことが多発したからです。
— 具体的にはどういうトラブルですか。
塚原:典型的なのは,利息が高い反面,元本割れ,すなわち100万円預けたのに気づいたら50万円になっていた,などとなってしまう可能性のある金融商品があります。
その危険性を分かって取引していれば問題ないのですが,よく理解せずに取引して,50万円になって初めて,「100万円より減るなんて知らなかった。」となればトラブルになりますからね。
— スワップとかオプションとか聞いたことありますけど。
塚原:よくご存じですね。そういう商品も入ります。今の商品は色々な要素を取り込んでいて,複雑過ぎて一言で説明できません。ちゃんとリスクを説明したのかという問題と,高齢の方の場合は,そもそもそんなお年寄りに理解できるのかという問題にもなります。そのようなトラブルが典型例です。
— 例えば、ATMで1万円おろしたつもりなのに1000円しか出てこなかったみたいなトラブルだと・・・
塚原:最近のATMはなかなかないと思いますが・・・。1000円出てきて通帳にも1000円と記載されれば,単なる押し間違いですよね。
本当に機械の故障であれば,銀行に言えばちゃんと対応してくれるはずなので,そういった事案で金融機関が9000円支払うことを拒否している事案だと,ちょっと話し合いでまとまりそうではないので,場合にもよりますが受けられないかもしれません。
— 例えばある金融機関に入ろうとしたら,床が濡れていて滑って転んで,怪我をしてしまったみたいなトラブルではどうでしょうか?
塚原:冬の北海道ではありがちなトラブルですが、本当に骨折などしてしまうと笑えませんね。ただ,たまたま金融機関だっただけで,デパートでも同じことは起こりえますよね。特に金融取引のトラブルじゃないですし。ですから,金融ADRというよりは,一般ADRをお勧めすることになります。
第3 金融ADRと一般ADRとの違いについて
— 金融ADRは,一般ADRとは制度が違うのですか。
塚原:かなり違います。調停人の弁護士が金融事件に精通していることはもちろんなのですが,金融庁の主導で作られた関係で,他にも特別な制度が沢山あります。まず,一般ADRにあった法律相談前置がなく,いきなり申立可能です。
— 法律相談前置という難しい言葉が出てきました。どのような意味ですか?
塚原:一般ADRは,まず弁護士の相談を受けてもらって,紹介状を弁護士に書いてもらわないと申立できません。金融ADRはこの紹介状が不要です。
— 申立の費用はどうですか。もしかしてタダとかにはならないですよね。
塚原:実は顧客側が申し立てたら,申立手数料はタダです。顧客を守るための制度なので,顧客が申し立てた場合の申立手数料(1万円に消費税)は,相手方金融機関が負担します。要するにタダで申し立てられます。
— トラブルが起こっても気軽に申し立てられそうですね。
塚原:できる限り金融ADRは使えるようにしようとは考えています。預金が数千万円なくなったという行員の横領事件も,基本的には受けますし,金銭以外に,単に説明が足りないことの謝罪を求めることや,返済計画の変更(リスケ)を求めることも対象となります。
— 一般ADRでは成立手数料というのがありましたが,それは顧客も負担しなければならないんですか。
塚原:成立手数料は顧客と金融機関で折半負担が原則です。タダになるのは申立手数料だけです。
— 他に特別な制度はありますか。
塚原:色々手厚いですよ。一般ADRは,相手方が話し合いに出席するかどうかは自由なので断ることも自由ですが,金融ADRには金融機関に出頭義務があり,申立があれば金融機関は正当理由がなければ絶対に話し合いに応じなければなりません。
— 正当理由とはどういう場合ですか。
塚原:既に同じ紛争が裁判で決着済みの場合などです。基本的には応じなければなりません。
— 金融機関に厳しいのですね。他にも金融機関には義務があるのですか。
塚原:はい。調停人から求められれば,説明することや資料を提出する義務もあります。
— でも,まさか和解するかどうかは金融機関の自由ですよね。
塚原:和解するかも自由ではありません。調停人が例えば,「金融機関は顧客に50万払うということで,このトラブルを終わらせませんか。」という和解案を出した場合は,金融機関は基本的にそれを受けなければならない義務があります(特別調停案受諾義務)。
— 金融機関が和解案を拒否できる場合はあるのですか。
塚原:金融機関がその50万円に納得できなければ,それから訴訟提起すれば,調停人の和解案を受けなくてもよいです。ただ,金融機関が裁判まで考えていないのであれば,和解を成立させなければならないのです。顧客を保護するために,できる限り紛争が早く解決するようにした制度なのです。
第4 札幌以外での金融ADRの利用について
— 顧客に取っては有り難い制度ですね。調停は札幌じゃないとできないのですか。
塚原:そこも抜かりありません。道内各弁護士会と協定を締結しているので,旭川・函館・釧路・帯広・北見・網走で開催できます。ここも一般ADRとは違う点です。
— 地方のお年寄りが,申し立てたいときは,近くの町で実施できるのですね。
塚原:そうです。
— 逆に,金融機関側から,「この人から言われているクレームを何とか話し合いで解決したい」と思って申し立てても良いのですか。
塚原:勿論です。金融機関が申し立てる場合は,申立手数料は金融機関負担です。実際に,金融機関からの申立も一定程度あります。
— そろそろ時間がなくなってしまいました。
札幌弁護士会の知恵袋は、札幌弁護士会のホームページで過去の放送分をテキストで見ることができます。また、音声でも聞くことができます。今日の放送で聞き漏らした部分があるという方はぜひチェックしてください。
進行は田島美穂(タシマミホ)でした。
制作・著作
<プロデューサー>
弁護士福田直之、弁護士北山祐記(札幌弁護士会)
杉澤洋輝(三角山放送局)
<脚本>
弁護士塚原成佳(札幌弁護士会)
<出演>
番組MC 田島美穂(三角山放送局)
ゲスト 弁護士塚原成佳(札幌弁護士会)
<監修>
弁護士上田絵里、弁護士山田敬純、弁護士佐藤敬治(札幌弁護士会)
<初回オンエア>
平成28年3月22日