周波数 | 三角山放送局 76.2MHz「トークinクローゼット」内コーナー |
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放送時間 | 毎週火曜日 AM 9:15~ |
札幌弁護士会広報委員会が昨年7月からお送りしている「札幌弁護士会の知恵袋」。
9月の月間テーマは「子どもの権利を守るために弁護士ができること」です。
札幌弁護士会「子どもの権利委員会」の精鋭4名が4週にわたり支援活動を説明していきます。
そして,9月のトップバッターは,今年度5つの委員会に配属され(平均は,2~3つの委員会に配属されます。),多重会務で首が回らなくなり始めている横山尚幸弁護士です。
子どもの権利委員会が中心メンバーとなり運営している子どもシェルターについて,詳しく,そして,分かりやすく,横山尚幸弁護士がトークしていきます。
ぜひ,お聞きください。
放送日 | 2016年9月6日 |
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ゲスト | 横山尚幸弁護士 |
今週の放送 キーワード |
子ども,虐待,児童虐待,DV,シェルター,子どもシェルター,人権 |
— はい,今週も「札幌弁護士会の知恵袋」の時間がやって参りました。
今月は4週連続で,札幌弁護士会子どもの権利委員会の活動について取り上げたいと思います。
今回のゲストは,札幌弁護士会に所属の横山尚幸(よこやまなおゆき)さんです。
横山:よろしくお願いします。
第1 子どもの権利委員会の活動内容
— 早速ですが,子どもの権利委員会では,どのような活動を行っているのでしょうか?
横山:子どもの権利委員会では,名前のとおり,子どもに関する課題に取り組んでおります。具体的には,①少年事件(少年の刑事事件)に関する活動,②家庭における虐待等に関する活動,③学校でのいじめに関する活動,④未成年後見等家事事件に関する活動に取り組んでおります。
— 色々な活動をしているのですね。
さて,今回は,家庭での虐待等に関する活動を取り上げて頂けると伺っていますが,具体的には,どのような活動をご紹介頂けるのでしょうか?
第2 子どもシェルターとは
横山:今回ご紹介するのは,子どもシェルターに関する活動です。
突然ですが,子どもシェルターって聞いたことはありますか?
— 子どもシェルターですか?DVシェルターなら,聞いたことはありますが。
横山:簡単に説明すると,子どものシェルターとは,児童虐待等が原因となり家庭に安心して生活できる居場所がない子どもたちの緊急避難先です。
子どもシェルターに入所した子どもは,スタッフが常駐する家での衣食住の提供を受けながら,今後の生活について考えていくことになります。
— 虐待問題というと,児童相談所の役割だと思うのですが,なぜ,子どもシェルターが必要だったのでしょうか?
横山:確かに虐待等が問題となった場合,児童相談所が中心的な役割を果たします。
虐待等が理由となり,安心して生活できる居場所がない子どもは,「保護者のない児童又は保護者に監護させることが不適当であると認められる児童」として,児童福祉法上「要保護児童」と呼ばれます。通告を受けた児童相談所は,必要があると判断した場合には,短期の緊急分離として一時保護という手段を採ることができます。
しかし,法律上,この一時保護の対象となる「児童」は,18歳未満に限られるのです。
— そうなんですか?
横山:現在,児童福祉法の対象年齢引き上げの議論がなされているところですが,現行の児童福祉法が対象とする児童は,満18歳に満たない者と定められているのです。
— そうすると,18歳の誕生日を迎えた高校3年生の子どもや大学1年生の子どもが虐待を受けたとしても,児童相談所は保護できないということですね。
横山:そのとおりです。
そのため,18歳,19歳の虐待を受けた児童に対応できる機関の必要性が,福祉関係者や弁護士から唱えられ,その中で誕生したのが,子どもシェルターなのです。
全国初のシェルターは,東京にて弁護士が設立したものになります。
— 弁護士が子どもシェルターを設立したのですか?
横山:そうです。東京弁護士会には,子どもの人権と少年法に関する特別委員会という委員会があり,毎年,子どもの人権啓発のイベントとして,演劇を行っています。その演劇で,架空の施設として子どもシェルターを取上げたところ,子どもシェルターの必要性を感じていた多くの方から賛同の声が寄せられ,子どもシェルターの設立に至ったのです。
その後も,同じ思いを持つ弁護士が,全国各地で,子どもシェルターを設立し運営を行っております。
第3 北海道唯一の子どもシェルターレラピリカ
— 北海道にも子どもシェルターはあるのでしょうか?
横山:はい,札幌には,北海道唯一の子どもシェルターが存在します。
平成25年(2013年)12月にNPO法人子どもシェルターレラピリカが子どもシェルターを開設しています。
このNPO法人の中心的メンバーとなっているのが,札幌弁護士会子どもの権利委員会ということです。
— 弁護士の方は,どのような活動をしているのですか?
横山:弁護士は,チームを組み,シェルターの運営に伴い生じる様々な課題に取り組んでいます。シェルターのことを広く知ってもらおうと広報活動を行ったり,研修を行ったり,運営のために助成金に応募をしたり,様々な活動を行っております。
— 入所した子どもは,どのように生活を送るのでしょうか?
横山:私たちは,入所した子どもが安心して暮らせる環境を提供することを第一に考えております。
入所する子どもは,自宅から入所することもあれば,友人・知人宅を転々とした後に入所することもあります。虐待等を受けていた子どもが入所するので,どちらの場合にも,子どもたちはゆっくり休む場所がなかった状態からシェルターに入所しております。
そのため,まずは,安心して過ごしてもらうことを第一に考えているということです。
— 「シェルター」と聞くと,頑丈な建物をイメージしてしまうのですが,そういった特徴はあるのでしょうか?
第4 子どもシェルターの特徴
横山:子どもシェルターは,普通の一軒家です。「のんの」と名前が付けられていますが,入所した子どもたちはこの「のんの」で生活をすることになります。
子どもたちには,個室が与えられ,個室で寝起きをし,一人の時間を過ごすことができるようになっています。また,リビング・ダイニングでは,スタッフや他の入所者とともに,食事を摂ったり,テレビを見たりして過ごすことになります。
子どもたちが安心して暮らせるように,一人になる時間が確保できるよう配慮するとともに,誰かと話をしたいときに話をできるような配慮がなされています。
— 一人になりたいときもあれば,誰かと話したいときもありますよね。
シェルターは,「のんの」と呼ばれているようですが,どのような意味があるのですか?
横山:「のんの」は,アイヌ語で「花」という意味です。花には,様々な色や形があり,咲く時期や特徴もバラバラですが, 子どもたちも同じように一人一人様々な子がいるということで,名前が付けられています。大切に育てていくことで咲き誇ってもらいたいという願いが込められています。
— そうなのですね。「のんの」には,いつもスタッフが常駐しているのですか?
横山:NPO法人では,児童福祉の知識のあるスタッフにも勤務してもらっており,日常生活のサポートは,スタッフの皆さんに行ってもらっています。シフトを組み,ボランティアの方にも協力してもらい、常にスタッフがいる状態になっております。
スタッフが子どもたちと衣食住をともにし,日常の多くの時間を共有することで,子どもたちも徐々に心を開いていってくれて,過去の経験等を話してくれるということも多いです。
第5 子ども担当弁護士「コタン」
— 他の児童養護施設等と違う特徴はありますか?
横山:シェルターという性質上,場所が秘匿されているという特徴がありますが,子どもシェルターの最大の特徴は,入所した子どもに,「子ども担当弁護士」が付くという点だと思います。
— 施設に入所した子どもに弁護士がつくのですか?
横山:はい。「子ども担当弁護士」略して,「コタン」と私たちは呼んでいますが,入所した子ども一人一人にコタンがつき,入所から退所まで重要な役割を果たしております。
また,法人では,経験豊富な複数の弁護士が,運営方針等の決定を行う理事となっておりますが,理事の一人が「担当理事」となり,コタンのサポート役を行ってくれています。
— 具体的には,どのような活動を行っているのでしょうか?
横山:入所前の面談から立ち合い,家庭事情等の聞き取りを行い,入所が決定した場合には,スタッフへ情報を提供し,入所中の注意事項等を共有することになります。
入所後も,定期的にケース会議を開き,親との関係,退所に向けた取り組み,日常生活における問題点を協議したりします。また,子どもが体調に問題があるという場合には,病院に通えるような環境作りも行います。着の身着のままで入所する子もいますので,当然,健康保険証を持っていない場合もあります。その場合には,必要な手続を取った上で,病院を受診できるように手配することもあります。
そして,シェルターは,あくまで緊急避難先であるので,退所先である「出口」を探して行くことになります。
— どのような弁護士がコタンになるのですか?
横山:これをしなければコタンになれないという厳密なルールまではないですが,基本的には,研修を受けることを前提としています。そして,研修を受けて,今後コタンとなることを予定する弁護士はコタン名簿に登録されることになります。
— 研修では,どのようなことを学ぶのですか?
横山:先ほど少しご説明したシェルターの成り立ちや,コタンの基本的な動き方,スタッフが日々どのような活動を行っているか,児童相談所がどのような活動を行っているのか等を学ぶことになります。
— 現在,何人くらいの人がコタン名簿に登録されているのですか?
横山:現在,19人の弁護士が登録しています。
— これまで何人くらいの子どもが入所しているのですか?
横山:現在までに60人の子どもが入所しております。
— そんなにいるのですね。
横山:そうですね。ただ,この数字は,児童相談所が主体として動くことができる18歳未満の子どもたちも含まれています。そして、児童相談所が 一時保護した子どもを一時的に預かるという一時保護委託の子どもたちも含まれています。
— 子どもシェルターが,本来対象として想定していた子ども以外の子どもも含まれているということですね?
第6 子どもシェルターが抱える課題と取り組み
横山:そうですね。
子どもシェルターが本来対象として想定している子どもたちに,必要な時に頼ってもらえるようにどのようにシェルターのことを知ってもらうかという点は,私たちが課題として取り組んでいる問題でもあります。
— 活動を続けているからこそ出てくる課題も多いのでしょうか?
横山:シェルターに滞在する期間は,2ヶ月前後ということが多いですが,その短期間,シェルターにいれば全て問題が解決するということは決してありません。
シェルターを退所してもまだ,未成年です。
退所する子どもの数が増える程,退所後に,順調に生活を送れている子もいれば,何らかのトラブルを抱えている子も存在して,そのような問題にどこまで関わっていくかという課題も出てきています。
— なるほど。運営を継続するからこそ出てくる悩みということですね。
子どもたちは,シェルターを退所後,どのように生活を送ることになるのですか?
横山:シェルターからの決まった退所先というものは,ございません。
退所後は,自立援助ホームに入所したり,生活保護を受給し一人暮らしを開始したり,親元に戻ったり,親戚の家に行ったりと様々です。
退所先を決定する際の難しさについては,次回詳しくご紹介する予定です。
— 新たな悩みや課題が出てきた場合には,どのように解決しているのでしょう?
横山:子どもシェルターでは,毎月1回,運営会議という会議を開いています。理事長をはじめ,シェルターの活動に携わっている多くの弁護士が出席する会議ですが,会議では,現在入所中の子どもに関する状況を共有し問題点等を協議する他,チームを組み活動している中で新たに出てきた課題について協議することにもなります。
また,先ほどご説明したように,子どもシェルターは全国各地に存在することから,年に1回,全国各地の子どもシェルターが一堂に会する全国会議が開かれます。東京の子どもシェルターのように活動年数の長い子どもシェルターも多く存在するので,中には,過去に我々と同じ悩みに直面し,解決してきた例も存在します。
全国各地の子どもシェルターが経験を共有することで,虐待等で苦しんでいる一人でも多くの子どもを救おうと日々努力しているところです。
— 今日の放送も一つのきっかけとなり,子どもシェルターを知ってくれる方が一人でも増えるといいですね。
横山:そうなることを願っています。
— そろそろ,お別れの時間がちかづいてきました。
次回は,子どもシェルターの活動における現場での悩み等についてのお話と伺っております。
それでは,次回もよろしくお願いいたします。
札幌弁護士会の知恵袋は,札幌弁護士会のホームページで過去の放送分をテキストで見ることができます。また,音声でも聞くことができます。今日の放送で聞き漏らした部分があるという方はぜひチェックしてください。
進行は田島美穂(タシマ ミホ)でした。
制作・著作
<エグゼクティブプロデューサー>
弁護士坂口唯彦(札幌弁護士会)
<プロデューサー>
弁護士北山祐記、弁護士髙橋健太(札幌弁護士会)
杉澤洋輝(三角山放送局)
<脚本>
弁護士横山尚幸(札幌弁護士会)
<出演>
番組MC 田島美穂(三角山放送局)
ゲスト 弁護士横山尚幸(札幌弁護士会)
<監修>
弁護士上田絵里,弁護士山田敬純,弁護士佐藤敬治(札幌弁護士会)
<初回オンエア>
平成28年9月6日