周波数 | 三角山放送局 76.2MHz「トークinクローゼット」内コーナー |
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放送時間 | 毎週火曜日 AM 9:15~ |
札幌弁護士会広報委員会が昨年7月からお送りしている「札幌弁護士会の知恵袋」。
9月の月間テーマは「子どもの権利を守るために弁護士ができること」です。
札幌弁護士会「子どもの権利委員会」の精鋭4名が4週にわたり支援活動を説明していきます。
そして,9月の第3週目は,妙な経歴に裏打ちされた独特の語り口で初めて会う人を煙に巻くのを得意とする山口達哉弁護士です。
「付添人の活動」について,山口達哉弁護士が自身の経験を踏まえて,熱く,ときに暑苦しく,語り倒します。
ぜひ,お聞きください。
放送日 | 2016年9月20日 |
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ゲスト | 山口達哉弁護士 |
今週の放送 キーワード |
付添人,少年保護手続き,非行少年,観護措置,可塑性,保護処分 |
— はい,今週も「札幌弁護士会の知恵袋」の時間がやって参りました。
札幌弁護士会の法律相談によせられる皆様の質問に,弁護士がズバリ答えます。
毎週火曜日の午前9時15分から15分間,役立つ情報を月替わりのテーマで放送していきます。
9月は子供の権利について取り上げることになります。
今回のテーマは少年事件における少年付添人,ゲストは札幌弁護士会に所属の弁護士山口達哉(ヤマグチタツヤ)さんです。
第1 山口弁護士の経歴
山口:始めまして。札幌弁護士会子どもの権利委員会所属の山口達哉です。TOKIOには所属しておりません。最近離婚もしておりません。もとより独身です。どうぞよろしくお願いいたします。
— えーと,山口さんはちょっと変わった経歴をお持ちと伺ったのですが。
山口:高校卒業後,大学には行かずにバイクで全国をうろうろ回ったり軽くホームレスになったりしたあと,映像の専門学校に入ってすぐ中退して,その後は映像制作の仕事をしながら自主製作で映像作品を作ったりしていたんですが,ふと弁護士になろうと思い立って北大に入学し,司法試験にたまたま受かったので今こうしている,と言った感じです。
— いろいろとツッコミどころの多いご経歴ですが,今回ご出演いただくことになったのは,そうしたご経験を踏まえてのことなんでしょうか。
山口:今回のテーマである少年付添人を務めるにあたって,軽く社会のレールから外れてしまった経験は,っていうか,今もちゃんとレールに乗れているか自信はないのですが,そういう経験は,非行少年と接するときに役に立っているような気がしないでもありません。
第2 少年付添人とは?
— ということで,今回のテーマである少年事件にかかわる少年付添人についての話題が出たのですが,そもそも少年付添人とはいったい何なのでしょうか。
山口:平たく言えば,ドラマなんかでイメージがわくと思いますが,刑事事件における弁護人のような役割を,少年事件において果たすのが少年付添人です。ただし,刑事事件と少年事件とではその目的が異なりますので,付添人の役割も刑事弁護人とは違いが生じます。
— 具体的にはどういった違いがあるのでしょうか。
山口:刑事弁護人は,被疑者被告人の正当な権利利益を守る,おおざっぱに言ってしまえば,少しでも罪を軽くする,というのが第一目標になります。もちろん成人事件でも更生に向けた活動も大切なんですけどね。他方,少年付添人の場合,少年の正当な権利利益を守るという点は刑事弁護人と違いはないのですが,少年に立ち直ってもらうことが少年保護手続きの大きな目的になっていますので,付添人は必ずしも重い処分の回避することを第一の目的に活動するわけではありません。
第3 少年事件を起こす少年たちについて
— 少年事件を起こす少年たちというのは,いったいどういった感じの人たちなのでしょうか?マスコミで報道される少年事件を思い浮かべると,なにか特別な少年がひどい犯罪を犯してしまって,という風に思えてしまうのですが。
山口:何か特別な子たちが少年事件を起こす,とは一概には言えません。少なくとも私が付添人として携わった少年たち,少年法では非行少年といいますが,家庭環境に,自身の資質に,友人関係にといろんな問題を抱えてこそいましたが,少年自身は,その辺にいる普通の,街中を歩いている若者たちと何ら変わらない子たちばかりですよ。
— 普通の子たちが,そんなニュースになるような犯罪を犯す,というのは逆に怖いことのように思うのですが。
山口:成人であろうが少年であろうが,犯罪を犯す人の多くは,普通の人です。ただそれまでの偏った生き方や考え方の癖,環境によって強制されている無理が澱のようにたまっていって,ある時,法に触れる形で社会とぶつかってしまう。多くの刑事事件とは,そういった普通に暮らしていたはずの人が,ふと気づいたら一線を踏み越えてしまっていた,といった感じで起こるものです。それは普通の生活のすぐ隣にあるものであって別世界にあるものではありません。
少年事件の場合加害者である少年自身が,被害者でもある,という側面を持つ場合がほとんどです。親から虐待されていたり,学校や社会でつまはじきにされていたり。そうした子たちが,自覚的にか無自覚的にか犯罪に巻き込まれていってしまう。成人の刑事事件に比べると,自分ではどうにもできないような事情でその一線を踏み越えてしまうことが非常に多いように思います。
少年事件を処理する少年保護手続きでは,そうした,「普通」の少年たちの問題をなんとか解決し,犯罪にかかわる要素から遠ざけ,立ち直らせることを目的としています。
第4 少年事件の手続きの流れ
— では,その少年事件の手続きはどのような流れで処理されていくのでしょうか。
山口:たとえば,少年がある犯罪を犯したとします。その事件が捜査の対象となると,全件家庭裁判所に送致され,家庭裁判所で判断が下されることになります。家庭裁判所では最終的な判断をする前に,その少年を更生させるために,社会から一旦切り離して詳しく調べる必要があるかないかを決めます。そして詳しく調べる必要がある,となれば,少年は鑑別所に送られることになります。これを観護措置といいます。
第5 少年鑑別所と少年鑑別所で過ごす少年達
— 鑑別所では,具体的にはどんなことが行われるのですか?
山口:家庭裁判所の判断に資するために,少年の素質,経歴,環境,人格などを通常3週間くらいかけて調査します。具体的には,身体検査や,知能検査,心理検査などを行うとともに,職員との面接の状況や,日常生活を観察します。
— その間,付添人はどういった活動を行うのですか。
山口:その少年と何度も面会しに行って,彼あるいは彼女に対して,自分の問題は何であるのか,そして,その問題を解決するにはどうしたらいいのかを考えてもらいます。また,環境に問題があるというのであれば,それを改善する手助けをします。例えば,学校にも行っていない,仕事もないというのであれば,仕事を探してくるであるとか,養育者が養育を放棄している場合であるならば,頼りになりそうな親族にアプローチして,新たな生活の根拠地を探してくる。そういったことをして,社会に戻って来た時に,健全な生活を送れるような環境づくりを,少年付添人は行います。
— 鑑別所では,子どもたちはどんな様子なのでしょうか?
山口:大抵の子は,へこんでます。こういう場に置かれて,自分が閉じ込められて,捕まってしまったんだということで,へこんでいますし,怒っていますし,悲しんでいます。大体,なんというか,荒んだ眼をしていますね。
— そういう子たちとコミュニケーションをとるのは難しくないですか。
山口:難しいです。大人を信用していない子たちばかりですから。
ただ,そういう子たちでも,何度か面会に行くと,段々と心を開いてきて,いろんなことを話してくれるようになってきます。私は,鑑別所で会う場合には,まず,真っ新なノートを差し入れることにしています。そのノートに,毎回テーマを設定して,面接をした後,次に来るまでの間に,そのテーマについて,いろいろ考えて,それをノートへ文章として書きこんでいってもらいます。それは例えば,「なぜこんなことになってしまったのか」とか,「被害者に対して,どういうふうに思っているのか」とか,あるいは,「友達との関係について,どう思っているのか」とか,テーマを1個2個設定して考えてもらいます。そして,次に会った時に,そのテーマについて,書いてきてもらったものを見ながら,一緒に,一つ一つ,これはそのとおりだね,じゃあこれについてはどうだろうか,これについてはおかしいんじゃないだろうか,といったことを話し合って,自身の問題に,自分自身で考えてもらうようにしています。
— すると,どうなっていくんでしょうか。
山口:鑑別所にいる子どもたちっていうのは,それまで,自分のことを真剣に見つめ直すといったことがなかった子が多いのですが,施設から早く出たい,元の生活に戻りたいという思いもあって,それしかやることがないとなると,一生懸命やってくれるんです。そうすると,自分の問題に自発的に気づいていって,例えば,被害者に対する考え方も,最初は「あいつが悪かったんだ」みたいなことを言っていたのが,自分の問題と繋げ併せた上で,こうこうこういう所が良くなかったんだなと,本当に被害者に対して,申し訳ないことをしたと書いてくるようになります。私なんかには絶対書けないような,よくできた謝罪文が出来上がったりすることもよくあります。
そうこうしている間に,初めは荒んでいた少年の眼がだんだんとキラキラしてくるんですね。その年齢に相応しい無邪気さも出てきたりして,どんどんと変わっていきます。これを専門用語で,少年の可塑性という言い方をするんですが,子供というのはどんどん形を,自分というものを,変えていけるんですね。
— 熱く語っている山口さんの目もキラキラしてきましたが。
山口:いい方向に変わっていく少年を見ることができるのは,少年付添人活動の醍醐味の一つで,非常にやりがいがあります。その分,悩みも多いわけですが。
第6 少年事件に携わる弁護士の悩み
— どういった悩みがあるのですか。
山口:先ほど子供には可塑性がある,といいましたが,悪い意味でも可塑性があるんですね。なので,苦労して環境調整をして,試験観察になり,社会に戻って様子を見ることになったのに,少年にはどうにもならない事情から,元の生活環境に戻されてしまったりすると,あっというまに少年自身も元の状態に戻ってしまったりします。気付けば髪の毛も真金金になっていて,鑑別所を出た時はキラキラしていた眼が,ほんの2週間ほどでどろんと澱んだ目になってしまったり。
第7 少年審判について
— そうした鑑別所での生活を経て,少年はどういった手続きに進むのでしょうか?
山口:鑑別が終わると,そこで得られた資料を基に家庭裁判所で審判が開かれます。審判において,少年の処遇が最終的に決定することになります。
— 審判では,判断にあたり何が重視されるのでしょうか。
山口:少年審判の対象は,その犯罪があったかなかったか,と要保護性です。
要保護性とは,①非行を繰り返す危険性,②家庭裁判所が処遇として保護処分を選択する相当性,③矯正可能性の3つを合わせたものですが,要は再び非行に至る可能性のことです。
少年保護手続きは,非行少年の更生を目的とした手続きですから,非行事実の軽重よりも,要保護性の大小が重視されます。すなわち処遇決定にあたっては犯罪自体の重さよりも,どうすればこの子が立ち直れるか,が判断にあたって重く扱われることになります。もちろん犯罪の重さは無視されるわけではなく,要保護性の一要素として考慮されるのではありますが。
第8 少年審判で下される処分の内容
— では,審判で下される処分にはどういったものがあるんでしょうか。
山口:審判で下される保護処分は,保護観察所の保護観察に付すこと,児童自立支援施設または児童養護施設に送致すること,少年院に送致することなどがあります。後に申しあげた処分ほど重い処分となります。
— さきほど,少年にはよい意味でも悪い意味でも可塑性がある,といった話も出ておりましたが,こうした手続きを経た少年は実際に更生できているのでしょうか。
山口:家庭裁判所の手続きを経ることによって,社会環境を整え,本人たちの内省を深め,本人たちが考え方を改めていくことで少しでも犯罪から離れた生活に導いていく。自分の経験上,これには大きな効果があると私は感じています。
第9 終わりに
— では最後に,リスナーに向けてメッセージがあればどうぞ。
山口:一度は非行に走った少年たちが犯罪的な環境から脱し,犯罪を犯さなくなるということは,最終的には,この社会から,犯罪を減らすことにも繋がっていく,一見遠回りだけれども着実な道だと,私は考えています。
リスナーの皆様は,少年事件に関して考える機会なんてあまりないでしょうし,別世界のことだと考えられている方も多いでしょうけども,少年事件というものが,普通の社会と地続きの同じ世界で起こっている出来事であるということを知っておいていただきたい。もう一点,犯罪というものをなくすためには,どうしたらいいのか考えた時に,あんな奴らは悪人なんだ,重い罰を与えればいいんだ,と単純に考えるだけではなくて,罪を犯した少年たちを,どのような形で社会に復帰させるかと考えることが,社会全体から犯罪を減らすために非常に重要なことなのだということを知っていただければと思っております。
— そろそろ,お別れの時間がちかづいてきました。
次回は,少年法適用年齢引き下げ問題についてのお話と伺っております。
それでは,次回もよろしくお願いいたします。
札幌弁護士会の知恵袋は,札幌弁護士会のホームページで過去の放送分をテキストで見ることができます。また,音声でも聞くことができます。今日の放送で聞き漏らした部分があるという方はぜひチェックしてください。
進行は田島美穂(タシマ ミホ)でした。
制作・著作
<エグゼクティブプロデューサー>
弁護士坂口唯彦(札幌弁護士会)
<プロデューサー>
弁護士北山祐記、弁護士髙橋健太(札幌弁護士会)
杉澤洋輝(三角山放送局)
<脚本>
弁護士山口達哉(札幌弁護士会)
<出演>
番組MC 田島美穂(三角山放送局)
ゲスト 弁護士山口達哉(札幌弁護士会)
<監修>
弁護士上田絵里,弁護士山田敬純,弁護士佐藤敬治(札幌弁護士会)
<初回オンエア>
平成28年9月20日