周波数 | 三角山放送局 76.2MHz「トークinクローゼット」内コーナー |
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放送時間 | 毎週火曜日 AM 9:15~ |
札幌弁護士会広報委員会がお送りしている「札幌弁護士会の知恵袋」。
12月の月間テーマは「DVとセクシュアル・マイノリティ」です。
札幌弁護士会両性の平等に関する委員会の弁護士と,後半ではセクシュアル・マイノリティ当事者の方もお招きして,どういう問題があるのか,4週にわたって考えていきたいと思います。前半2回は「DV」と「セクシュアル・マイノリティ」についてのそれぞれ基礎知識をご説明した上,後半2回は当事者を交えて,より具体的なお話をする予定です。
第1回は,DV(ドメスティックバイオレンス)について,椎木仁美弁護士から法律や制度などについて基礎的なご説明をします。ぜひ,お聞きください。
放送日 | 2016年12月6日 |
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ゲスト | 椎木仁美弁護士 |
今週の放送 キーワード |
DV(ドメスティック・バイオレンス),家庭内暴力,DV防止法,精神的暴力,性的暴力,ほっとらいん・ぶ~け,特定分野弁護士紹介制度,保護命令 |
— はい、今週も「札幌弁護士会の知恵袋」の時間がやって参りました。
札幌弁護士会の法律相談によせられる皆様の質問に、弁護士がズバリ答えます。
毎週火曜日の午前9時15分から15分間、役立つ情報を月替わりのテーマで放送します。
12月の第1週目は、DV(ドメスティック・バイオレンス)について取り上げていきます。ゲストは、札幌弁護士会に所属の椎木仁美(しいき・ひとみ)さんです。
椎木:どうぞ、よろしくお願いします。
第1 DVとは
— 早速ですが、自己紹介をお願いします。
椎木:はい、私は札幌弁護士会の両性の平等に関する委員会の委員を務めています。今回は、委員会で取り組むテーマの一つでもあるDV(ドメスティック・バイオレンス)について、お話したいと思います。
— DV、ドメスティック・バイオレンスというと,そのまま日本語に訳すと,家庭内暴力ということですよね。最近は,一般の方でもDVと聞いて,何となくはイメージができるような気もしますが。
椎木:そうですね,日本でいわゆるDV防止法が施行されたのがもう15年以上前の平成13年になりますし,その前からDVという言葉自体はありましたので、今では皆さんにもだいぶ浸透してきた言葉だと思います。一番皆さんがイメージしやすいのが,夫が妻を殴ったり蹴ったりするいわゆる夫婦間の身体的な暴力ですが,現在の法律では,もっと広い範囲でDVが認められています。
— 例えば,他にどんな場合がDVにあたりますか。
椎木:まず、対象が夫婦には限られません。事実婚の方はもちろん、同居中の交際相手も含まれます。
— 同居していないとだめなんですね。
椎木:DV防止法の対象となるDVはそのようになっています。日常用語では同居していない交際相手についてもDVという言葉を使ってもちろん間違いではありませんし、そのようなことが許されないことは言うまでもないことではありますが。それでも、以前は、同居中であっても交際相手は対象ではなかったので、少しずつ、法律が変わってきて
いるんですよ。
あとは、被害者が男性、加害者が女性という場合もDV防止法の対象になります。
— 男性が被害者という例も実際あるんですか。
椎木:そうですね、例えば、警察庁の平成27年度の統計資料では、警察に相談のあったDV事件のうち、被害者の88%、およそ9割が女性、12%、およそ1割が男性というものもありますから、男性の被害者の方もいるのですね。もっとも、やはり、DV被害者の多くは女性ということになります。
それから、DVは殴ったり蹴ったりなど身体的な暴力には限られないんですよ。
— 最近は、言葉の暴力なんていう表現もありますよね。
椎木:そうですね、言葉の暴力は専門用語では精神的暴力と言われたりします。大声で怒鳴ったり、「誰のおかげで生活できると思ってるんだ」など相手の尊厳を傷つけるようなことを言ったりする場合などです。
他に、友人や実家の家族など身近な人とのつきあいを制限する、個人的な電話やメールの内容を細かくチェックする、無視をする、人の前で相手をバカにしたり命令するような口調でものを言ったりするなども精神的暴力にあたります。また、経済的なことで言えば、生活費を渡さない、外で働くなと言う、仕事を辞めさせるなどもあります。
それから、性的暴力というのもあって、性行為を強要する、中絶を強要する、避妊に協力しないなどもあります。
— こういったDVも法律で禁止されているのですね。
椎木:身体的な暴力に比べると、すべてがDV防止法で認められるDVにあたるかは微妙なところもあるのですが、先ほど挙げたのは全て内閣府で紹介されているDVの例ですので、一般的な用語としてのDVにあたること、してはいけないことであることは間違いありません。個々の事案によっては、DV防止法の対象になるDVにあたる可能性がありますし、慰謝料の対象になることも考えられます。
第2 DVの事件数
— DVの事件は最近増えているのでしょうか。
椎木:内閣府や警察庁の統計だと、年々増加傾向にあります。配偶者暴力相談支援センターというところの相談件数は、平成14年度ではおよそ3万5000件なのに対し、平成27年度ではおよそ11万件と、十数年間で3倍近くになっています。警察での相談の受理件数は、平成14年度ではおよそ1万4000件なのに対し、平成27年度ではおよそ6万3000件となっていて、十数年間で4倍以上になっています。
— DV事件は年々増えているんですね。何だか怖いですね。
椎木:そうですね、ただそのようにも考えられますが、男女間のこういったトラブルは昔からあったと思うんですね。専門家の中でも、事件の数そのものが増えたのではなく、社会全体の意識が変化したことで、今まで被害者が泣き寝入りしていたような事件が表面化しているのではないかという意見もあって、私も、そういう面が大きいのではないかと思います。
— もともと被害者の方が泣き寝入りしていた事件が明るみに出たということであれば、かえって良いことですよね。
椎木:そうですね、DV事件の特徴でもありますが、自分のされていることがDVなのかわからない、自分が大げさに思っているだけかもしれない、自分にも悪いところがある、自分が我慢した方がうまくいくなどの意識が被害者の方にあることが多いです。また、基本的には、男女間のことですので、他の人に相談することに気後れをすることもあります。中には、どうせ逃げられないとか、人に相談されたことがばれて連れ戻されてもっとひどいことをされるなどと考える方もいます。
今、自分が被害を受けているかもしれないと思っている方は、少しずつ社会の意識や制度が変わってきているので、一人で悩まずに専門家に相談してみるなど,ぜひ勇気を出して一歩踏み出してみてもらいたいと思います。
第3 DV被害者の支援
— 支援ということですが、被害者の方はどのような支援が受けられるのですか。今、DVに悩んでいるという方や友だちからDVの相談を受けたというような場合にどうしたらいいのでしょうか。
椎木:1番はまず専門家に相談することです。今すぐにシェルターに逃げたいなど具体的な段階になっていなくても、DVかどうかわからないというくらいの段階でも、相談をすることは可能ですので、まずは躊躇せずに気軽な気持ちで相談をすることからだと思います。そうすれば、いろいろと気づかなかったことがわかると思いますし、知識も得られるので気持ち的にも少し落ち着くのではないかと思います。DVを受けている方の周りの方も,ぜひ本人に相談だけでもしてみるようお勧めいただきたいと思います。
— 専門家に相談ということですが、具体的にはどこに相談したらいいでしょう。
椎木:相談先ですが、警察の相談窓口、弁護士会の相談窓口、各地にある配偶者暴力相談支援センターなどが考えられます。
— 札幌弁護士会の相談窓口はどういうところになりますか。
椎木:札幌弁護士会には、法律相談センターがあり、無料の法律相談を受け付けています。地区によって電話番号が違いますので、札幌弁護士会のホームページなどをごらんください。
また、女性の方は、女性弁護士による女性相談者のための無料電話相談ほっとらいん・ぶ~けという相談窓口があります。電話番号は、050-3369-0550です。担当する弁護士は全て女性で、電話相談なので、気軽に利用できると思います。
— DVを受けている女性だと、男性が怖い、男性には話しにくいという方が多そうなので、相談する相手も女性だと安心できそうですね。
椎木:そうですね,このほっとらいん・ぶ~けは、今から4年くらい前にできたもので、担当する弁護士が全員女性、相談者も全員女性という法律相談窓口で常時利用できるものとしては、初の試みとして、全国の弁護士会に先駆けて札幌弁護士会が立ち上げたものなんですよ。
— 札幌弁護士会は先進的なことをされているんですね。
椎木:そうかもしれませんね。立ち上げのときには私がまだ新人弁護士だったのですが少し関与をしていたことがあって、このスタジオにもほっとらいん・ぶ~けの宣伝に来たことがありました。
— そうだったんですね。
椎木:そうなんです、始める前は本当に多くの電話が来るだろうかと思って心配していたところもあったのですが、開始直後から4年経った今でも多くの女性相談者の方からの相談の電話があります。私も相談の担当をしていていつもたくさんの電話が来るので,それを実感しています。お気軽にお電話いただければと思います。
— ほかに、DVに悩んでいる人のための相談窓口というのもあるのですか。
椎木:特定分野弁護士紹介制度というものもあって、DVとストーカーの分野に積極的に取り組んでいる弁護士の紹介を受けることができます。電話番号は、011-251-7730です。初回相談が無料になっています。
第4 DV被害者のために弁護士ができること
— DVで警察や弁護士に相談するということですが、相談をしたり、弁護士に依頼をしたりすると,どのようなことをしてくれるのですか。
椎木:まず、相談者の方が抱える問題がDVにあたる可能性があるのかについてアドバイスを行うことができますし、必要でなおかつ相談者の方が希望する場合には、シェルターその他の関係機関と連携をして、相談者の方が加害者から離れて生活するための支援を行うことも可能です。逃げてくる際に、どういうところに注意をしたらいいか、何を持って出ればいいか、逃げた後の生活をどうしたらいいか、子供のことをどうしたらいいかなど、不安なこと全般について一緒に解決策を考えることができます。
— 夫などの加害者に知られてしまうことはないでしょうか。
椎木:まず、弁護士や警察などが進んで加害者に情報提供をすることはあり得ませんし、被害者の方の所在を知られないよう最大限の配慮や工夫をしています。シェルターなども一般に所在地が公表されてはいません。
— よくわかりました。弁護士に依頼をした場合に弁護士にできることとしては、他にどのようなことがありますか。
椎木:最も代表的なものとしては、被害者の代理人として被害者自身に代わって、夫などの相手方との離婚や関係の清算に向けた協議・調停・裁判などを行うことがあります。その他に、これらの離婚などの手続と並行して行うこともありますが、保護命令の申立てを行うこともあります。
第5 保護命令制度について
— 保護命令というのは、どういう手続きなのでしょうか。
椎木:保護命令は、裁判所に申し立てる手続きです。被害者が取るものも取らずに逃げてきたような場合に,加害者が居住している場所から2か月間退去をするよう求められる退去命令、それから被害者・被害者と同居する子供・被害者の親族などへの接近禁止命令などがあります。
— わかりました。そろそろお時間になりましたが、最後に何かあればお願いします。
椎木:はい、DVについては,一昔前と比べれば,警察が家庭内のことには不介入だなどと言わずに積極的に取り組むようになりましたし,我々弁護士に積極的に取り組んでおり,社会制度も充実しつつありますが,他方で,今も被害に苦しむ方はたくさんいらっしゃると思います。
加害者と距離を置く場合にその後の生活をどうしたらいいかなどいろいろと不安はあると思いますが,細かなことや経済的なことは後からでも意外と何とかなることも多いので,まずは,自分自身が冷静で自分らしくいられる環境を整えることが最も大切だと思います。実際にも,悩んだ末に,加害者のもとを逃げ出して加害者と距離を取ってみて,やっと,本当の自分らしさを取り戻すことができたということが多いように思います。以上です,今日はどうもありがとうございました。
— さて,本日の札幌弁護士会の知恵袋は以上になります。
今回は,両性の平等に関する委員会から椎木仁美(しいき・ひとみ)弁護士にDVについてお話しいただきましたが,次回から3週にわたっては,同じく両性の平等に関する委員会からセクシュアル・マイノリティについてお話をいただきたいと思います。
札幌弁護士会の知恵袋は、札幌弁護士会のホームページで過去の放送分をテキストで見ることができます。また、音声でも聞くことができます。今日の放送で聞き漏らした部分があるという方はぜひチェックしてください。
進行は田島美穂(タシマ ミホ)でした。
制作・著作
<エグゼクティブプロデューサー>
弁護士坂口唯彦(札幌弁護士会)
<プロデューサー>
弁護士須田布美子、弁護士北山祐記(札幌弁護士会)
杉澤洋輝(三角山放送局)
<脚本>
弁護士椎木仁美(札幌弁護士会)
<出演>
番組MC 田島美穂(三角山放送局)
ゲスト 弁護士椎木仁美(札幌弁護士会)
<監修>
弁護士上田絵里、弁護士山田敬純、弁護士佐藤敬治(札幌弁護士会)
<初回オンエア>
平成28年12月6日