周波数 | 三角山放送局 76.2MHz「トークinクローゼット」内コーナー |
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放送時間 | 毎週火曜日 AM 9:15~ |
12月の月間テーマは「DVとセクシュアル・マイノリティ」です。
その2回目となる第2週では,「セクシュアル・マイノリティ」についての基礎知識を,両性の平等に関する委員会の多田絵理子弁護士からご説明します。
最近テレビやラジオでよく耳にする「LGBT」とは? わかっているようでなかなか理解しにくい部分も含めて,詳しくご紹介しますので,ぜひ,お聞きください。
放送日 | 2016年12月13日 |
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ゲスト | 多田絵理子弁護士 |
今週の放送 キーワード |
セクシュアル・マイノリティ、セクマイ、性的少数者、性的マイノリティ、レズビアン、ゲイ、トランスジェンダー、性同一性障害、性別違和、インターセックス、オネエ,電話相談、アライ、Ally |
— はい、今週も「札幌弁護士会の知恵袋」の時間がやって参りました。
札幌弁護士会の法律相談によせられる皆様の質問に、弁護士がズバリ答えます。
毎週火曜日の午前9時15分から15分間、役立つ情報を月替わりのテーマで放送します。
12月の第2週目からは3週連続で、セクシュアル・マイノリティについて取り上げていきます。今回は、その1回目で、ゲストは、札幌弁護士会所属の多田絵理子(ただ・えりこ)さんです。
多田:どうぞ、よろしくお願いします。
— 早速ですが、自己紹介をお願いします。
多田:はい、私は札幌弁護士会の両性の平等に関する委員会の委員を務めております。今回は、まず、セクシュアル・マイノリティとは何か、弁護士会がどんな取り組みをしているかということをお話したいと思います。
第1 セクシュアルマイノリティ・トランスジェンダーとは
— セクシュアル・マイノリティについては、最近、「オネエ」と呼ばれる方をよくテレビで観ますよね。
多田:そうですね、でも、「オネエ」とセクシュアル・マイノリティとは違います。
セクシュアル・マイノリティというのは、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーなどの方を言います。「性的少数者」とか、「性的マイノリティ」とか、アルファベットの頭文字をとって「LGBT」などと言います。
レズビアンとゲイは同性愛者の方です。
バイセクシュアルは、恋愛対象が性別によって決まらない方ですね。
— 最近、クイズ番組などによく出ているメイプル超合金のカズレーザーさんがバイセクシュアルですよね。
多田:そうですね。レズビアン、ゲイ、バイセクシュアルの方は恋愛の対象がそれぞれ同性だったり、性別を問わなかったりします。
それから、無性愛者の方もいます。他人に対して恋愛感情や性的欲求を持たない人です。
— そうなんですね。では、トランスジェンダーとはどういう人を言うのでしょう?
多田:トランスジェンダーは、生まれ持った体の性別と心の性別が一致しない方です。医学上は、「性同一性障害」と呼ばれてきましたが、今は「性別違和」と言います。違和感の「違和」ですね。
先ほどお話したレズビアン、ゲイ、バイセクシュアルは、体と心の性別は一致しているのでトランスジェンダーの方とは違います。
— トランスジェンダーは、性同一性障害ということですか?
多田:トランスジェンダーだからといって、性同一性障害とは限りません。
性同一性障害は、あくまで医学上の診断名です。ですから、医学的な対応が必要な方には性同一性障害の診断名がつきますが、そこまでではない方は、トランスジェンダーであっても性同一性障害の診断名はつきません。
— トランスジェンダーであっても性同一性障害の診断名がつかないのはどういう状態なのでしょう?なかなかイメージできないのですが…。
多田:例えば、心の性別が男性なのに、成長とともに女性らしくなっていくことに耐えられなくて、自殺まで考えるというのは性同一性障害の方に見られますが、そこまで深刻な状況ではない場合などです。
体の性別と心の性別に違和感は持っているけど、自分の体と反対の性別になりたいとか、反対の性別で扱われたいとまでは思わない方もいますし、自分の体とは反対の性別になりたい気持ちはあるが、手術を行って性別を変えたり、戸籍を変えたりすることまで望んでいない方もいます。
— じゃあ、人それぞれということですね。「トランスジェンダーだから性別を変えたいんでしょ」と決めつけてはいけないということですね。
多田:そうですね。
それから、トランスジェンダーで、同性愛者の方もいます。つまり、体は男性だけど、心は女性で、恋愛対象は女性ということです。この人が体の性別のとおり男性の恰好をしていると、傍からは、男性と女性のごく一般的なカップルに見えますけど。
— ほかにセクシュアル・マイノリティのことで何かありますか?
多田:トランスジェンダーのように心と体の性別のこととは違って、インターセックスという体の性別による場合があります。生殖器の見た目や機能が一般的な男性、女性とは異なる状態です。「性分化疾患」と言いますが、昔は、「両性具有」とか言われていました。原因は、染色体の異常による場合が多いようです。
— なるほど。ただ、「オネエ」とゲイの違いがよくわからないのですが・・・
多田:「オネエ」というと、ゲイやトランスジェンダーの方を指している場合もありますが、ただ女装をしている男性も含んでいます。女装をしている男性でも、ゲイでもトランスジェンダーでもない方はたくさんいます。なので、「オネエ」とひとまとめにして呼ぶことは失礼だと思います。
第2 セクシャルマイノリティの問題の現状
— なるほど。じゃあ、知らずにとはいえ、失礼なことをしてしまっていましたね。
多田:そうですね。セクシュアル・マイノリティの当事者の皆さんは、カミングアウトできないだけで、身近にたくさんいるんですよ。
ある統計では、人口全体の約7%がセクシュアル・マイノリティという数字が出ています。ですから、20人いれば、一人か二人はセクシュアル・マイノリティの方がいるということです。
— 一クラスに一人か二人というところですよね。思ったより多く感じますね。
カミングアウトできないのはどうしてでしょう?
多田:日本では、同性愛者について、東京の世田谷区や渋谷区がパートナーシップ制度を作り話題になりました。性同一性障害は、テレビドラマで取り上げられたこともあって、法律が作られ、認知度も進んできました。
でも、まだまだセクシュアル・マイノリティに対する差別や偏見が強いですよね。
— そうかもしれませんね。少し前まで、物腰の柔らかい男性を見た時、「おかまだ」と言ったりする人は普通にいましたよね。
多田:そうですね、「おかま」という呼び方も差別的ですよね。レズビアンのことを「レズ」と呼ぶことがありますが、それも差別的に使われてきた言葉です。
大多数の異性愛者、男性と女性のカップルとは違うということで、おかしい、病気だという扱いがありましたよね。古くは、電気ショックを与えるという間違った施術もあったみたいです。
— ひどいですね。
多田:あと、ゲイだと知られると、身近な男性から「襲わないで…」と言われるとか。
— 「襲わないで」って、それは、何か違う気がします。
多田:そうなんですよね。女性を好きな男性でも、女性を見れば誰でも襲うのかというと、そんなわけないですよね。偏見ですよね。
しかし、最近でも、労働者へのアンケートで、職場にセクシュアル・マイノリティの人がいることは受け入れられないという結果が結構な割合で出ていました。
同性愛の人に対して、無理やり異性と性行為をするよう勧めたり、結婚しろと迫ったりすることはいまだにあるようですし、トランスジェンダーの、特に子どもたちには、無理やり服装や髪型を変えさせられたりということがあります。
でも、そんなことで変えられるものではないんですよね。
— たしかにそうですね。周りの理解が進んでいないということですね。
では、弁護士さんたちは、どのようにセクシュアル・マイノリティの問題にかかわっているのでしょうか?
多田:はい、先ほどお話したように、セクシュアル・マイノリティの方は、大なり小なり差別や偏見に晒されています。そこから起きるトラブルに法的解決が必要な場合が結構あります。
— 例えば、どんなことがあるのでしょう?
多田:例えば交際している人から殴られて怪我をしても、同性愛者であることを周りに隠しているので、誰にも相談できない人もいます。
性犯罪に遭う方もいて、警察へも、同性愛であることを根掘り葉掘り聞かれて変な目で見られるのではないかと怖くて、警察へ届け出ることができなかったりします。
ほかにも、出会い系サイトで、会った相手から同性愛者であることをばらすと脅されて、お金を要求されるケースもあります。
トランスジェンダーの方だと、職場や学校へ対応を求めたいこともあると思います。
第3 セクシャルマイノリティの方への弁護士による法律相談
— なるほど、そういった場合、弁護士さんは何をしてくれるのでしょう?
多田:被害者の方から依頼を受けて、内容証明郵便でやめるよう警告したり、別れられるように交渉したりします。警察へ一緒に行って、差別や偏見に晒されないようサポートすることもあります。
もちろん、いろいろなケースがありますし、法律の整備もまだまだ不十分ですので、いつも法律でスパっと解決とできるわけではありません。でも、当事者の方と一緒に、納得してもらえる解決を探っていきたいと思っています。
— どうやって弁護士さんに相談したらよいのでしょう?
多田:弁護士会では、毎年6月にセクシュアル・マイノリティの方のための電話相談を行っています。
これは、すでに2回実施しています。
また、女性が対象になりますが、弁護士会では、「ほっとらいん・ぶ~け」という女性のための女性弁護士による無料の電話相談もあります。トランスジェンダーで心が女性の方も利用していただけます。電話番号は、050-3369―0550です。
— セクシュアル・マイノリティの方の相談は多いのでしょうか?
多田:いえ、まだそれほど多くはありません。セクシュアル・マイノリティの方の電話相談は、数件といったところです。
ただ、セクシュアル・マイノリティの方は、法律で解決できることがあることや弁護士に相談できることを知らない方も多いです。
— 先ほどのお話だと、セクシュアル・マイノリティの方は、相談するにもいろいろ不安をお持ちなんですよね?
多田:はい。私たち弁護士は、法律上、守秘義務があります。ご相談者のお名前など個人情報や、ご相談の内容を他に漏らすことは法律上禁止されています。もし漏らした場合には懲戒処分を受けることがあります。ですからご相談について外に漏れる心配はありません。
それから、セクシュアル・マイノリティのための電話相談は、必要もないのに性別を確認したりはしませんし、ある程度知識を持った弁護士が担当しています。セクシュアル・マイノリティの方が一般的に使う言葉も逐一説明していただく必要はありません。ですので、比較的負担感は少ないかと思います。
— 知識を持った弁護士さんが対応するということですけど、どういった方たちなのでしょうか?
多田:はい。セクシュアル・マイノリティに関する問題に関心のある弁護士です。弁護士会で、セクシュアル・マイノリティの当事者の方や、日ごろから支援をしている弁護士や行政書士の方を講師にお招きして研修会を実施したり、自分たちで勉強会を催したりして、セクシュアル・マイノリティにフレンドリーな弁護士を養成しています。
— 弁護士の養成のほかに何か弁護士会でしていることはあるのでしょうか?
多田:弁護士会では、講演会などの後援をすることで応援しています。過去には例えば、性同一性障害に関する当事者と支援者の後援会「WithUs講演会2015GID、と法」や、在札幌米国領事館主催の「婚姻の自由~米国におけるLGBTの権利と世界の動向~」という講演会を応援してきました。
北海道弁護士会連合会では、今年、「性的マイノリティに対する差別と偏見をなくし、暮らしやすい地域を作るための制度を求める決議」を採択しています。
— 最後に何か一言ありますか?
多田:セクシュアル・マイノリティについてお話してきましたが、異性愛者か同性愛者かという「枠」に当てはめてしまうのは違うと思います。もちろん完全に異性しか恋愛対象になりません、という方もいるでしょうが、実際は切り離せるものではないと思います。異性愛から同性愛、あるいは無性愛のグラデーションがあって、誰でもそのどこかに当てはまると思います。異性愛者でも同性に性的関心をもつことはあるでしょうし、バイセクシュアルでもどちらかというと同性の方が恋愛対象になりやすいということもあるでしょう。恋愛対象や心と体の性別にかかわらず、誰でも、ありのままに受け入れられる状況がベストな社会なのではないかと思います。
セクシュアル・マイノリティの支援者を「アライ(Ally)」と言いますが、どんな方でも、ありのままにいられるよう応援できる、アライな弁護士を増やしていきたいと思っています。
— さて,本日の札幌弁護士会の知恵袋は以上になります。
今回は、セクシュアル・マイノリティについてお話をいただきましたが、次回は、須田布美子(スダ・フミコ)弁護士とセクシュアル・マイノリティの当事者の方を迎えて、もう少し踏み込んで「セクシュアル・マイノリティの方が実際に困っていること」についてご紹介したいと思います。
札幌弁護士会の知恵袋は、札幌弁護士会のホームページで過去の放送分をテキストで見ることができます。また、音声でも聞くことができます。今日の放送で聞き漏らした部分があるという方はぜひチェックしてください。
進行は田島美穂(タシマミホ)でした。
制作・著作
<エグゼクティブプロデューサー>
弁護士坂口唯彦(札幌弁護士会)
<プロデューサー>
弁護士須田布美子、弁護士北山祐記(札幌弁護士会)
杉澤洋輝(三角山放送局)
<脚本>
弁護士日笠倫子(札幌弁護士会)
<出演>
番組MC田島美穂(三角山放送局)
ゲスト弁護士多田絵理子(札幌弁護士会)
<監修>
弁護士上田絵理、弁護士山田敬純、弁護士佐藤敬治(札幌弁護士会)
<初回オンエア>
平成28年12月13日