周波数 | 三角山放送局 76.2MHz「トークinクローゼット」内コーナー |
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放送時間 | 毎週火曜日 AM 9:15~ |
12月の月間テーマは「DVとセクシュアル・マイノリティ」です。
第3週は,「セクシュアル・マイノリティ当事者がDV被害にあった場合にどういう問題があるか?」という点について,実際に相談業務も担当されているNPO法人北海道レインボー・リソースセンターL-Portの代表理事,工藤久美子さんと,札幌弁護士会両性の平等に関する委員会の須田布美子弁護士から,ご紹介します。男女のカップルとは異なる事情をどうすればよいのか,ぜひ皆さんも一緒にお考え下さい。
放送日 | 2016年12月20日 |
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ゲスト | NPO法人北海道レインボー・リソースセンターL-Port工藤久美子さん,須田布美子弁護士 |
今週の放送 キーワード |
セクシュアル・マイノリティ,セクマイ,性的少数者,性的マイノリティ,レズビアン,ゲイ,トランスジェンダー,DV |
— はい,今週も「札幌弁護士会の知恵袋」の時間がやって参りました。
札幌弁護士会の法律相談によせられる皆様の質問に,弁護士がズバリ答えます。
毎週火曜日の午前9時15分から15分間,役立つ情報を月替わりのテーマで放送します。
12月は第2週目から3週連続で,セクシュアル・マイノリティについて取り上げていきます。今回はその2回目で,ゲストには, NPO法人北海道レインボー・リソースセンターL-Portの代表理事,工藤久美子さんと,札幌弁護士会所属の弁護士須田布美子さんにお越しいただいています。工藤さん,須田さん,よろしくお願いします。
工藤:はじめまして,工藤です。よろしくお願いします。
須田:弁護士の須田です。よろしくお願いします。
第1 LGBT支援団体の紹介
— 実は,このコーナーで弁護士以外の方に出演していただくのは初めてなんです。工藤さんはNPO法人北海道レインボー・リソースセンターL-Portの代表理事ということなんですが,こちらはどのような団体なんですか。
工藤:NPO法人北海道レインボー・リソースセンター L-Port は,長い団体名が正式名称ですが,普段は「エルポート」と呼ばれています。
私たちエルポートは,セクシュアル・マイノリティの人たちの支援団体で,相談事業を軸に活動しております。
— 前回の放送で,セクシュアル・マイノリティについて説明をしてもらったのですが,もう一度簡単に説明して頂けますか。
工藤:はい。セクシュアル・マイノリティというのは,最近よく使われるLGBTをはじめとする性自認や性的指向に関する少数者のことです。Lはレズビアン,Gはゲイ,Bはバイセクシュアル,Tはトランスジェンダーのそれぞれ頭文字をとってLGBTと言います。今は,それ以外にもセクシュアリティの種類はあるので,国際的にはSOGIとも呼びます。
— そのようなセクシュアル・マイノリティの方の支援をされているということですか。
工藤:そうですが,私自身もL,レズビアンの当事者として活動しています。
— 活動内容としては,具体的にどんなことをされているんですか。
工藤:具体的に言うと電話相談をしたり,学校からの要請で面談に行ったり「学生ステーション」といセクシュアル・マイノリティの学生向けの集まりや,職員研修などでLGBTの基礎的な知識の話をしに行ったりしています。
— 今回,工藤さんにお越し頂いたのは,須田さんのご紹介ということなんですが,どのような経緯だったんでしょうか。
須田:はい。そもそも私たち札幌弁護士会がLGBTをはじめとするセクシュアル・マイノリティの人権問題に取り組むようになったのは,L-Portさんとの関わりがきっかけなんです。工藤さんと知り合って,あまりにも私たち弁護士がこの問題に無知で無頓着だったことを知り,とりあえず勉強をしなくちゃ!ということになりまして,弁護士向けの勉強会に講師として来ていただいたんです。
その後は,弁護士会の活動にご協力いただいたり,L-Portさんからも会議に誘って頂いたりして,連携を図っています。
第2 同性カップル特有の問題
— なるほど。普段から協力し合っているご関係なんですね。
さて,本日は,セクシャル・マイノリティにおけるDV問題を中心に伺います。男女間のDV問題については,12月6日の放送分で詳しくお伺いしましたが,同性カップルに特有の問題があるのでしょうか。
須田:そうですね。男女のカップルでもDVの問題は解決が難しくて,とても深刻な問題なんですが,同性カップルについてはさらに難しい問題もありますね。例えば,ひどい暴力を受けて怪我をして,警察に通報しても,警察がカップルだと認識してくれないために,「嫌な友達ならルームシェアを止めて引っ越せばいいでしょう」と軽く言われてしまうこともあります。
— 暴力を振るうような友達なんて,同居しなきゃいいという感じですか。
須田:そうですね。DV特有の,恋愛感情や,お互いへの執着や依存の感情などがあることに全く気付かず,深刻さを理解してもらえないという問題があるんです。
また,逃げる場所としてのDVシェルターに受け入れてもらえなかったり,保護命令という裁判所の命令を出してもらえなかったり,問題はいろいろな場面でおこります。
第3 DV問題の現状
— 具体的にお伺いしたいのですが,例えば,工藤さんは実際にDVの被害者からのご相談も受けていらっしゃるんですよね。どういう相談がありましたか。
工藤:エルポートで受けた,同性間のDVの相談は長いお付き合いの方からの相談が多いという印象です。6年から10年以上というお付き合いの中で,同居をし,生活を共にしていく中でおこる交際相手からの身体的,精神的,経済的暴力があります。
— 付き合いが長くて,先ほど須田さんがおっしゃったようなお互いへの執着や依存の感情が高まってしまうということでしょうか。
工藤:そうですね。特に,関係性がいわゆるクローゼット,つまりカミングアウトしていない状態の方が多いので周りに気づかれにくく,友人や,職場の方も知らない間に暴力を受けていることが多いです。
夫婦間の暴力と同じで,ひどい場合は殺人になるような暴力もあります。
— 殺人ですか。そんなにひどいものもあるんですね。
工藤:そうなんです。比較的若い層ではデートDVが多く,友達と連絡を取らせてくれない,行動を制限される,などの社会的暴力が多いです。
時には,セクシュアリティをバラしてやるなどのアウティングで脅されて,誰にも話せないで悩んでいる人もいます。
— アウティングって何ですか。
工藤:自分からゲイです,レズビアンです,と告白することをカムアウトと言いますが,それは自分で決めることだから問題はありません。でも本当は知られたくない人に対し,あるいは知られたくない場面で,この人はゲイですよ,などと暴露することを「アウティング」といって,それは非常に問題のある人権侵害なんです。
— なるほど。つまり他の人にバラすぞと言うことで,相手を束縛しようとするのも,いわゆるDVの一類型なんですね。
工藤:はい。そして,共通しているのは,カップル間のカプセル型,つまりカップルで孤立していることが多く,相手を失ったら自分一人になってしまうと考えているので,別れることが難しい精神状態になっていることが多いです。
— なるほど。そういう場合の支援について,どういう点に困りましたか。
工藤:見た目の性別と,戸籍上の性別が違うことで対応してもらえなかったり,対応が手間取ったりして2次被害を受けてしまったり,同性間の暴力ということで,暴力の被害を受けているにも関わらず,保護してもらえなかったり,制度を使ってもらえなかったりすることに困ります。
第4 セクシュアルハラスメントマイノリティのDV問題の特殊性
— 具体的なケースで困ったことはありますか。
工藤:真冬に交際相手に家の中で包丁を持って追いかけられ,裸足で外に逃げた方に対しても交際相手が同性ということで,シェルターに一時保護を断られてしまったという相談もありました。
— ええ! そんなに危ない状況でも,シェルターにかくまってもらえないんですか。
工藤:そのときはそうだったんです。その後,相談に来た被害者の方と一緒に警察に行き,最終的には対応してもらいました。
須田弁護士に会うまでは,私たち自身も弁護士さんもセクシュアル・マイノリティのDVの相談に真剣になんてのってくれないと思っていました。
須田:シェルターについては,トランスジェンダーの方について問題があります。今は,DVシェルターはほとんど寮のような集団生活の形になっているので,戸籍上女性だけれども外見が男性の方とか,逆に見た目は女性そのものなのに戸籍が男性のままなので,女性用のシェルターに入れない方とかがいるんです。
— トランスジェンダーの方は,皆さん戸籍を変えているわけじゃないんですね。
工藤:そうです。戸籍上の性別とは違う性別で生きたいと思っても,名前と外見を変えれば十分と思う人もいれば,戸籍まで全部変えたい人もいて,考え方は様々です。
須田:それに戸籍を変えたいと思う人でも,変えることができない人もいます。現在,性別変更のための法律では,生殖機能を失うような大手術をしなければ戸籍を変えられないことになっているので,健康上の理由とか,経済的な理由などで,手術が受けられない人たちもいるんです。
第5 シェルター、保護命令について
— なるほど。そういう方たちが,「女性用」のシェルターに入れるかどうか,という問題があるんですね。あ,そもそも「男性用」のシェルターもあるんですか。
須田:男性用のDVシェルターという建物があるわけではないのですが,男性被害者のために,既存の福祉施設を利用して,シェルター代わりにする運用はあるようです。ですが,「男性用」の集団生活の場所に,見た目が女性の被害者を入れるわけにはいきませんよね。
— それはそうですね! そうすると,必ずしもシェルターで守られるかどうかわからないんですね…。
それから,先ほど,「裁判所の保護命令を出してもらえない」という話もありましたが,須田さん,そもそも保護命令というのはどういう制度でしょうか。
須田:はい。保護命令というのは,配偶者から暴力を受けた人が,このままではまた暴力を受けてしまうかもしれないような場合に,裁判所が,加害者に対し,被害者に近づいてはいけないという接近禁止命令などを出せる制度です。
— 今月の1回目の放送でも勉強しました。近づくと罰則もあるんですよね。
須田:そうです。その接近禁止は,以前は「配偶者」に対してしか出せませんでした。戸籍上は結婚していない内縁のカップルでもよいのですが,あくまでも「夫婦」の間の暴力にしか適用されなかったんです。でも,平成25年改正で,一緒に暮らしているけれど結婚はしていないカップルにも適用されるようになりました。そのため,私たちは,結婚の認められていない同性のカップルにも適用されるようになるだろうと思っていたんです。
— そうはならなかったんですか。
須田:実際には,同性カップルについて,発令された例はありません。むしろ,法改正前は事実婚状態だと認めてくれて同性カップルに適用された例が,少ないものの一応あったのですが,逆に法改正後は,最近の調査でも発令されたという報告はありませんでした。
— どうしてなんでしょうか。
須田:個別事案の事情については,実際にはよくわかりません。私個人としては,裁判所に偏見があるのでは…という気持ちもありますが,そもそも当事者や支援者側も差別をおそれて申し立てを躊躇することもあって,申立件数が少ないという事情もあります。でも,それでは,身の危険が迫っている人を守れないので,実際の事件を担当すると,本当に困るのです。
— そうですよね。工藤さん,そういう状況をどのように変えていけばよいでしょうか。
工藤:少しずつでもいいので,こういった事件があるという可視化が必要だと思います。
そして悩んでいる方には,須田弁護士のようなきちんと対応してくれる専門家の情報を伝え,そういった専門家の方や,機関,施設などでの社会的資源を掘り起こしていくことが状況を変えることにつながると考えています。
須田弁護士としても,なんとかしたいとは思っており,一部の有志の弁護士で少しずつ活動を始めています。シェルターの問題についても同様に,同性カップル間の暴力被害であっても,あるいは当事者がトランスジェンダーであっても,きちんと保護が受けられて,身の安全を確保できるようにしなくてはいけないと思っています。
— そうすると,当事者の問題というよりも,社会の側が変わらなくてはいけない問題なんですね。
今日はありがとうございました。
工藤・須田:ありがとうございました。
— 進行は田島美穂(タシマ ミホ)でした。
制作・著作
<エグゼクティブプロデューサー>
弁護士坂口唯彦(札幌弁護士会)
<プロデューサー>
弁護士須田布美子,弁護士北山祐記(札幌弁護士会)
杉澤洋輝(三角山放送局)
<脚本>
弁護士須田布美子(札幌弁護士会)
<出演>
番組MC 田島美穂(三角山放送局)
ゲスト 弁護士須田布美子(札幌弁護士会)
工藤久美子(NPO法人レインボーリソースセンターL-Port)
<監修>
弁護士上田絵里,弁護士山田敬純,弁護士佐藤敬治(札幌弁護士会)
<初回オンエア>
平成28年12月20日