周波数 | 三角山放送局 76.2MHz「トークinクローゼット」内コーナー |
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放送時間 | 毎週火曜日 AM 9:15~ |
第1週は,中小企業における企業の承継,すなわち中小企業において会社の経営者が交代する場面についての話題をお届けします。
経営者の方が,自分の家族や親族,従業員の方等に会社を引き継がせるときに何に注意すべきかについて,札幌弁護士会の辰野真也弁護士にお話しいただきます。
経営者の方々だけでなく,中小企業にお勤めの方々にも知っておいていただきたいお話だということですので,皆さんぜひお聞き下さい。
放送日 | 2017年1月10日 |
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ゲスト | 辰野真也弁護士 |
今週の放送 キーワード |
弁護士,法律相談,中小企業,事業承継,後継者 |
— 今週も「札幌弁護士会の知恵袋」の時間がやって参りました。
今回は,「中小企業における企業の承継について」というテーマで放送します。
ゲストは札幌弁護士会所属の辰野真也(たつのしんや)さんです。
辰野:よろしくお願いします。
— テーマに入る前に,まずは自己紹介をお願いします。
辰野:弁護士の辰野真也と申します。弁護士と一口に言っても,それぞれ得意分野や好きなジャンルというのが違っており,色々と個性があるのですが,私はこれまで,いわゆる企業法務と呼ばれる分野の事件を多く取り扱ってきており,私自身も好きな分野で,特に力を注いでいるものですので,本日のテーマを担当することになりました。
— 弁護士さんにも好きな分野というのがあるのですね。
辰野:そうですね。私自身,色々なジャンルの事件を幅広く手掛けていますけれども,取り扱い件数が多く,個人的にも好きな分野としては,企業法務があるということです。
第1 企業法務とは
— なるほど。ところで,その「企業法務」というのは,どういったものなのでしょうか。
辰野:はい。実は,企業法務が何かということは,はっきりした定義があるわけではありません。概ね,企業経営をする上で生じる法的なトラブルを防ぎ,解決する方法ということになるでしょうか。
— いわゆる個人の問題と,企業の問題というのは,大きく異なるのでしょうか。
辰野:もちろん同じようなトラブルもありますが,異なっている点も多いですね。ですので,今日を含め4回にわたり,企業法務に関するお話をお届けします。企業を経営されている方にお聞きいただきたいのはもちろんですが,経営者ではない方も,多くの方は何かしらの企業に就職して働かれていると思いますので,企業をめぐる法的問題にはどのようなものがあるのかや,その解決方法,気を付けるべきこと等を知っていただくのは,とても意味があることだと思っています。
第2 企業の承継とは
— 今日のテーマは「企業の承継について」ということですが,企業の承継というのは,どのようなものでしょうか。
辰野:とりあえずは,企業すなわち会社の経営者が替わることだというイメージをもっていただければと思います。
また,経営者の交代といっても様々なケースがあり,単純な代替わりで社長の子供さんが新たに社長になり,それまでの社長は一線を退くといったケースもあれば,従業員の中で優秀な人に会社を任せるケースもありますし,全く関わりのない第三者へ会社を渡すケースもあります。
本日は,社長が自分の子供や家族であったり,よく知っている従業員に会社を任せるというような,いわば身内に会社を継がせるケースを取り上げます。第三者へ会社を承継させる際のお話は,来週に回したいと思います。
— 社長さんが自分の子供に会社を任せるとか,優秀な従業員に会社を継がせるという場合は,特にトラブルになるようには思えないのですが。
辰野:そうですね。会社の承継が上手くいくケースもたくさんあり,経営者が変わって良くなる会社もたくさんあります。全てがトラブルになるわけではありません。ただ,今日はせっかくの機会ですので,あえて紛争になったケースの話をとりあげます。会社の承継に関して激しい争いになるケースは,それなりにあると言ってよいと思いますし,そのような紛争は起きないのが一番ですので,紛争を避けるためにも,お話したいと思います。
— 分かりました。実際は,どのような争いになるのでしょうか。
第3 経営権をめぐる争い
辰野:典型的なものは,経営権をめぐる争いです。少し具体的に言いますと,会社の後継者にすると言われて頑張っていた人が,いざ先代が亡くなった後で,社長から外されたり,思わぬ負担を強いられたりする,ということがあるのです。
— 先代の社長さんが,きちんと後継者を指名していたのに,なぜ争いになるのですか。
辰野:争いになる理由は,株式をどうするかを,ちゃんと決めていなかったから,というところにあります。
— どういうことなのでしょうか。
第4 社長を決めるのは株主
辰野:法律の仕組みでは,会社の社長を誰にするかは,先代の社長が決めることではありません。社長を決めるのは株主であり,その会社の株式の過半数の株を持つ人こそが,社長を誰にするかを決めることができるのです。
— 先代の社長さんは,過半数の株を持っていたから,後継者を指名したのですよね。
辰野:そうです。しかし,その社長さんが,株式を後継者に渡さないまま亡くなってしまい,かつ,株式をどうするのか遺言を残していなかった場合は,その後継者は,相続により新たに株式を保有する人によって,クビにされることだってあり得るのです。
— ややこしい話になってきましたね。株式を渡さないまま亡くなったり,遺言がなかったりすると,先代の社長さんが持っていた株式は相続されるのですか。
第5 株式は相続される
辰野:そうです。株式も遺産ですので相続されます。そして,遺言がなければ,法律に決められたとおりに分割して相続されます。具体的な例でいうと,奥さんと2人の息子がいる社長さんが,会社の株の全てを持っているとしましょう。それで,長男を後継者にして自分は引退し,実際に長男が新社長として頑張っていたとします。
— はい。
辰野:その後,社長が亡くなり,遺言がなければ,長男は新社長であるにも関わらず,株式は全体の25%しか相続できません。
— 奥さんと次男で残りの75%を持ててしまうのですか。
辰野:そうです。そうすると,奥さんと次男が結びついて,長男を会社から追い出そうとすれば,理屈の上の話としては,簡単にできてしまうことになります。
— しかし,新社長として頑張っていた長男を追い出すなんて,実際にあるのですか。
辰野:追い出そうとすることはあります。例えば,新社長である長男の方が,次男よりも多くの給料をもらっていたり,派手な生活をしていることがあります。実はその分,長男は会社経営のプレッシャーにさらされていたり,会社の借金の保証人になっているなど,相応のリスクを背負っていることが多いのですが,次男はそういうことには目を向けず,長男が稼いでいる,いい車に乗って広い家に住んでいる,そういったことを恨めしく思っていて,ただ父親が生きている内は,そういった不満を表に出さず生活している,ということがあるのです。
— それが,先代の社長が亡くなることで噴き出すのですね。
辰野:そうです。この次男の考えに母親も同調してしまうと,株の75%を持つ次男と母親が実質的には会社を好きにできてしまうのです。
— それで,長男を会社から追い出すこともできるのですか。
辰野:できます。また,単に長男を追い出すのではなく,長男に会社を経営させつつ,自分達は働かずに会社から利益を受け取るだけの形を取ろうとすることもあります。
— どういうことですか。
辰野:例えば,長男を社長にしつつ,その役員報酬を下げ,また,次男も母親も会社の役員になって役員報酬を支払わせる,というような形です。しかし実際には,次男も母親も働かないわけです。
— そんなことができるのですか。
辰野:できるできないで言えば,できます。もちろん望ましい形ではありませんが,できるのです。ただ,後になってそれが問題になることもありますので,決してお勧めできるものではありません。
— 残された家族の間で紛争が起こったなら,亡くなった先代の社長さんも悲しむでしょうね。
辰野:そう思います。ただ,次男や母親,つまり先代の奥さんですが,この方々にも言い分があるわけで,何が正しいのかを見極めるのは,なかなか難しいところでもあります。
いずれにしても,先代が株式についての手当てをしていないことで,テレビドラマ顔負けの骨肉の争いになるケースは,実際にたくさんあります。
— それを避けるためにも,先代の社長さんには,きちんと株のことを決めておいて欲しいですね。
第6 弁護士にご相談を
辰野:そうです。社長さんが,うちの子に限って争うわけがない,というように考えて何も株の手当てをしなかった結果,社長の死後大変な争いになるケースを,私自身幾つもみてきました。
私が声を大にして言いたいのは,いま会社を経営されている方は,うちは安心などと思わず,会社を誰にどう引き継がせるかについて,一度弁護士にご相談ください,ということです
— 相談できる弁護士さんがいない場合は,どうすればよいのでしょう。
辰野:知り合いの方や,銀行,税理士さん,何でもいいのでツテを頼って探すか,インターネットでも構わないと思います。日本弁護士連合会や札幌弁護士会にも,相談窓口があります。
また,私としては,早い段階で弁護士へ相談することは費用面でもメリットが大きいということを強調したいと思います。
— どういうことでしょうか。弁護士さんに相談すれば,それなりにお金がかかると思うのですが。
辰野:もちろん,そのとおりです。弁護士に企業の承継について相談して,スムーズに企業承継を行う作戦を立てた場合,それなりのお金がかかるかもしれません。しかし,それでも,後に紛争になったときの費用よりは安いということもあり得ると思います。
— そういうものなのですか。
辰野:はい。これは決して誇張しているわけではありません。私自身が経験したケースで,社長さんの死後,子供さんの間で経営権をめぐる争いになり,10年以上にわたり15件以上の訴訟が行われ,その弁護士費用だけでも合計で数千万円になったと思われるケースがありました。お互いが複数の弁護士を雇っていましたので,それぞれに弁護士費用が発生する結果,合計するとかなりの金額になるわけです。
— 10年以上ですか。
辰野:すごいですよね。おそらく,社長さんが生前にしっかりした企業承継の策を講じていれば,どんなに多く見積もっても数百万円の費用で済んだでしょうし,しかも,それは会社の経費として処理することができたかもしれません。しかし,社長の死後,お子さんの間で争いが起きた場合,その弁護士費用などは,基本的にはお子さんのポケットマネーで支払うことになります。単純な金額だけでも違う上,会社の経費にできたかもしれないという点からも,早期の相談は,経済的なメリットがあると言えると思います。
— これまでは,家族への企業の承継のお話でしたが,従業員の方へ会社を渡す場合も,同じような問題があるのでしょうか。
辰野:ほとんど同じです。先代の社長が持っていた株は,誰かが相続するわけです。その相続人が会社の後継者と揉めてしまうと,結局,先代が望んだのとは大きく違った形になり,最悪のケースでは会社自体が無くなってしまうこともあります。
— 会社を経営している人は,しっかり会社の承継のための準備をしておくべきなのですね。
辰野:そうです。また,会社の後継者になる人も,自分が本当に先代の死後も後継者でいられるのか,しっかりと確認し,そのための手段を講じなければなりません。今は争いになっていなくとも,将来争いに発展する可能性は十分にあるのです。自分達兄弟は仲がよいから関係ない,とか,我々の中にそんながめつい人間はいないし大丈夫,などと思わず,会社を預かる者の責任の1つであると考えていただいて,会社を円満に承継するための手段をしっかりと取るようにしていただきたいというのが,私の心からの願いです。
— なるほど,会社を経営されている方や,その後継者になる方は,しっかりと準備をしなければならない,ということですね。
辰野:弁護士である自分が,弁護士に相談した方が得ですよ,弁護士に相談するべきですよ,などというのは,我ながら胡散臭いとは思いますが,それでも言いたいと思います。会社を経営されている方,後継者になろうとしている方で,何か嫌な予感がするという方は,念のため,一度弁護士へご相談ください。
— 十分伝わったと思います。ありがとうございました。
さて,本日の札幌弁護士会の知恵袋は以上ですが,過去の放送内容については,札幌弁護士会のホームページで見ることができますし,音声でも聞くことができます。今日の放送で聞き漏らした部分があるという方はぜひチェックしてください。
進行は田島美穂(タシマ ミホ)でした。
制作・著作
<エグゼクティブプロデューサー>
弁護士坂口唯彦(札幌弁護士会)
<プロデューサー>
弁護士清水勝裕,弁護士北山祐記,弁護士村本耕大(札幌弁護士会)
杉澤洋輝(三角山放送局)
<脚本>
弁護士辰野真也(札幌弁護士会)
<出演>
番組MC 田島美穂(三角山放送局)
ゲスト 弁護士辰野真也(札幌弁護士会)
<監修>
弁護士上田絵里,弁護士山田敬純,弁護士佐藤敬治(札幌弁護士会)
<オンエア>
平成29年1月10日