周波数 | 三角山放送局 76.2MHz「トークinクローゼット」内コーナー |
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放送時間 | 毎週火曜日 AM 9:15~ |
2月の月間テーマは「医療トラブル」です。
第2週は、原琢磨弁護士が、医療事故・医療過誤訴訟の流れと注意点について詳しくご紹介します。ぜひ、お聞きください。
放送日 | 2017年3月14日 |
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ゲスト | 原琢磨弁護士 |
今週の放送 キーワード |
医療事故、医療過誤、医療ミス、解剖、医療情報の開示、証拠保全、ADR・調停・訴訟、医療事故調査制度 |
— はい、今週も「札幌弁護士会の知恵袋」の時間がやって参りました。
札幌弁護士会の法律相談によせられる皆様の質問に、弁護士がズバリ答えます。
毎週火曜日の午前9時15分から15分間、役立つ情報を月替わりのテーマで放送します。
3月は第1週目から4週連続で、医療トラブルについて取り上げていきます。今回はその2回目で、ゲストは、弁護士の原琢磨さんに来ていただきました。原さん、自己紹介をお願いします。
原:はじめまして。原琢磨です。高校時代は演劇部だったのですが、滑舌が悪いままです。お聞き苦しいと思いますが、よろしくお願いいたします。
— いえいえ、全然、大丈夫ですよ。(笑)。こちらこそ、よろしくお願いします。
今日は、「医療事故、その後の流れ」という質問ですが・・・
原:医療事故をうまく解決する方法があるのなら、ぜひ教えてもらいたいです(笑)。
というのも、患者さんの病気、症状は患者さんおひとりおひとり違いますので、発生する医療事故、医療事件も1件として同じものはありません。また、医療事故は、大変専門性の高い分野である医療が問題となります。医師国家試験は司法試験より難しいです(笑)。同じ病気なのに、ある場合にはすぐに解決できても、別の場合には解決まで長い時間が必要になることもあります。
— そういうものなのですね。
原:そうなんです。今日お話しする内容は、私個人の経験をもとに、「大まかに言ってこのような流れ」というイメージをつかんでいただくためのものです。実際の医療事故、医療事件では全く別の流れがあることもご了承ください。
第1 医療事故かもしれない。その時どうする?
— わかりました。
例えばですが、家族が病院に入院していましたが突然亡くなりました、あれ変だな?医療事故かもしれない?と思ったら、どうしたらいいでしょうか。
原:入院中のお身内が亡くなられた、その直後は大変おつらいと思います。ただ、医療事故かもしれないな、と思われたら、すぐに病院に対して「医療事故調査」を求めてください。現在では、法律で、各医療機関は、医療事故調査制度という制度を完備していなければならないことになっています。
— 医療事故調査制度というのは第76回目(4週目)でお話いただく制度ですか?
原:そうです。「医療事故調査制度」については神村岡(かみむら こう)弁護士が詳しくご説明いたします。
医療事故調査の利用と並んで、もう一つ皆さんにお願いがあります。それは、ご遺体の解剖なんです。
— え?解剖ですか。
原:そうです。お葬式の前に、遺体を傷つけるということには、大変な抵抗感があるとは思います。ただ、患者さんが亡くなられた場合には、その死亡の原因、つまり死因を特定できるかどうかが、この後ご説明する医療事故、医療過誤訴訟の重要なポイントの一つです。死因が分からなければ、医療のミスと死亡との結果の因果関係が不明ということになり、敗訴する可能性があります。
何かトラブルがあった場合に、ご遺族に対して、医療機関の方から進んで「解剖をされますか」という説明してくれる病院もあります。しかし、多くの場合には解剖という制度があること自体、説明されません。
「病理解剖」というものがありまして、道内でも大きな病院に頼めば専門医がご遺体を解剖して、その死因を特定してくれます。ただし、病理解剖には健康保険はききませんので注意してください。病院によって病理解剖の金額が異なりますが、おおよそ30万円前後のところが多いと思います。
— 解剖を依頼できるのですね。解剖して葬儀をあげた後はどうなるのですか。
第2 医療記録を確保
原:弁護士にすぐに相談してください。弁護士がお話をうかがって、医療事故調査制度を活用するほか、医療記録の確保を行います。
— 医療記録の確保?
原:そうです。医療事故、医療事件では何といっても医療記録が鍵になります。医療記録というのは、その患者さんについて作られたカルテ、検査結果、看護師さんの付けた日誌などです。この医療記録をもとに、病院に過失がないか、などを検討することになります。
医療記録を確保する方法としては、裁判所に対して「証拠保全」という手続を申し立てる方法があります。それだけではなく、最近では、患者さんや家族ご自身で医療機関に対して開示を請求すると、比較的簡単な手続で医療記録を開示してもらえます。
— そうなんですか?
原:最近では、ご自分で医療記録の開示を受けて、カルテ等をお持ちになって法律相談に来られるという方も多いです。
医療記録の開示の注意点としては、まずコピー代などの実費がかかることです。画像データなどもあって、この実費が高額になることがあります。
また、医療記録の開示を医療機関に対して請求しても、全部を開示してくれるとは限らないんです。漏れがある場合も多くて、「あるはずの資料がない」ということで、追加で医療記録の開示を請求することもあります。
— 医療記録を確保できた後はどうするのですか。
第3 医療記録の精査と医療機関との交渉
原:弁護士が医療記録を調査、検討することになります。ただ、この調査、検討に時間を要します。調査、検討の結果、法律に照らして、医療機関に責任があるのではないか、つまりその医療機関で働いているお医者さんに過失があるのではないか、という場合、医療機関に対して法律に基づく損害賠償を請求します。
— 医療機関に請求すると、すぐに賠償金を払ってくれるのですか?
原:場合によりますね。医療機関はふつう、医療過誤に備えた特殊な保険に入っています。医療機関や保険会社が医療記録を検討して、「あ、これは賠償しなければいけないな。」ということになると、賠償金を受け取ることができます。ただし、医療機関や医師に過失があっても、法律に照らして具体的な損害額はいくらになるのか、という計算で折り合わないこともあります。折り合えることができれば、「和解」して賠償金を支払ってもらうことになります。
第4 医療機関との交渉がまとまらなかった場合と医療訴訟の流れ
— では医療機関さんが「自分たちには責任がない」として賠償金を払ってくれないときにはどうするのですか。
原:交渉してもだめなら、法的な手続しかありません。
手続としては次の3つです。1つ目は、弁護士会が行っている紛争解決手続、ADRと呼ばれているもの。2つ目は、簡易裁判所での民事調停手続。3つ目は、簡易裁判所または地方裁判所での民事訴訟手続です。
1つ目のADRと2つ目の民事調停は話し合いの手続きです。ですので、相手方が期日に出て来なければ、話し合いになりませんでしたね、ということで流れてしまいます。3つ目の民事訴訟はそのようなことはありません。訴えられて指定された期日に裁判所に出頭しなければ欠席判決です。そして、手続きも話し合いではなく、厳格な審理が行われます。
— 民事訴訟はどのような流れになるのですか?
原:訴えを起こした原告、医療過誤訴訟だと患者側、訴えを起こされた被告、医療過誤訴訟では医療機関側がそれぞれ主張や証拠を提出します。この主張や証拠を裁判所が整理をしながら、審理を進めます。主張や証拠が出尽くしたところで、医師やご家族に法廷で証言していただきます。
ただ、裁判官もお医者さんではありません。医学に関しては素人です。そこで、裁判官が、原告や被告に対して、だれか第三者のお医者さんの意見書を出してほしいということがあります。また、民事訴訟手続には「鑑定」といって、裁判所が独自に依頼した第三者のお医者さんに、いま問題となっている医学的な点について意見を述べてもらう、ということもあります。
このような審理の中で、裁判所が原告や被告に対して和解を勧めることもあります。和解ができない、ということになると、裁判官が判決を言い渡します。もちろん、原告や被告が裁判所の判決に不服があるという場合には、より上級の裁判所、例えば高等裁判所や最高裁判所に、上訴といって不服を申し立てることができます。
— なんだか、医療訴訟、大変そうですね。
原:そうかもしれませんね(笑)。確かに、医療訴訟は大変専門的です。私たちも四苦八苦しながら頑張っています。
ただ、誰かが声をあげないと医療事故、医療事件はなくなりません。医療は、患者さんの生命や体、健康に関わることです。当事者である患者さんが、医療に対する疑問や真実を知りたいという真相究明ができなくなってしまう世の中、社会では困りますよね。私たち弁護士も医療については素人ですが、素人だからこそ言えることがあると思いますし、素人が何も口をはさめないという医療に対しては、大切な家族の命を預けられなくなってしまうと思います。
— でも、お医者さんの立場からすると、医療訴訟をいつ起こされるかわからないということになると、萎縮して手術が出来なくなったりしませんか?
原:だからこそ,お医者さんの立場から見ても、しっかりとした医療訴訟が行われることは大切なんです。不測の事故が起きて責任を問われたとき、第三者の目から公平に、そして正確に、疑いを晴らしてもらえるような制度になっていないと、怖くて誰もお医者さんにはならないですよね。もしミスをしてしまったという場合にも、適切に責任の範囲を第三者が判断してくれる制度がなければ、みんなミスが怖がってしまって、難しい手術だけど患者さんの命を救うためにやってみようという勇気あるお医者さんがいなくなってしまいます。
私たち弁護士、特に患者さんの側で活動する弁護士は、しばしば誤解をされるのですが、医療過誤訴訟に関わることによって医療を崩壊させたいわけではないんですよ。
— 患者さんの側にとっても、お医者さんの側にとっても、公平な制度で、そして、真実が明らかになって、みんなが納得できる制度を求められているということでしょうか?
原:そうですね。
医療過誤訴訟を通じて、ご家族が求める真実を究明する。二度と同じ医療事故、医療事件がおきないよう医療機関と一緒に考えていく。そうして、あるべき医療を実現する。このような思いから、私は医療事故、医療事件に関わっています。
今日お話しした流れが医療事故、医療事件解決の唯一の方法ではありません。最近では、医療事故、事件が起きたときには、医療機関と患者の間で説明会を開催するケースもあります。今日はいわゆる民事のお話をしましたが、このほかにも警察が捜査する刑事事件もあります。あ、でも、もう時間ですね(笑)。
— はい、お時間が来たようです。今日は難しかったです(笑)。ありがとうございました。
原:申し訳ありませんでした。ありがとうございました。
— 札幌弁護士会の知恵袋は、札幌弁護士会のホームページで過去の放送分をテキストで見ることができます。また、音声でも聞くことができます。今日の放送で聞き漏らした部分があるという方はぜひチェックしてください。
進行は田島美穂(たしま みほ)でした。
制作・著作
<エグゼクティブプロデューサー>
弁護士坂口唯彦(札幌弁護士会)
<プロデューサー>
弁護士川島英雄、弁護士北山祐記(札幌弁護士会)
杉澤洋輝(三角山放送局)
<脚本>
弁護士原琢磨(札幌弁護士会)
<出演>
番組MC 田島美穂(三角山放送局)
ゲスト 弁護士原琢磨(札幌弁護士会)
<監修>
弁護士上田絵里、弁護士山田敬純、弁護士佐藤敬治(札幌弁護士会)
<初回オンエア>
平成29年3月14日