周波数 | 三角山放送局 76.2MHz「トークinクローゼット」内コーナー |
---|---|
放送時間 | 毎週火曜日 AM 9:15~ |
4月の月間テーマは、「消費者被害・消費者トラブル」です。
消費者保護委員会の4名の弁護士に週替わりで、身近な生活の中に潜む落とし穴について分かりやすく説明いただきます。
第4週目の今回は、小林裕和弁護士をゲストに迎えて、消費者保護法制の改正の動向について解説いただきます。最新の消費者保護の法律の状況と直近の大きな法改正の重要なポイントを押さえましょう。
ぜひお聞きください。
放送日 | 2017年4月25日 |
---|---|
ゲスト | 小林裕和弁護士 |
今週の放送 キーワード |
悪質商法、消費者契約法、特定商取引法、過量販売、不実告知、不利益事実の不告知、次々販売 |
―はい、今週も「札幌弁護士会の知恵袋」の時間がやって参りました。
札幌弁護士会の法律相談に寄せられる皆様の質問に、弁護士がズバリ答えます。
毎週火曜日の午前9時15分から15分間、役立つ情報を週替わりのテーマで放送します。
4月のテーマは「消費者被害とその対応」。本日は、その第4回目で、ゲストは札幌弁護士会所属の小林裕和(こばやしひろかず)さんです。
小林:どうぞよろしくお願いします。
第1 消費者契約法と特定商取引法の改正
―では、自己紹介をお願いします。
小林:はい、私は札幌弁護士会の消費者保護委員会に所属しております、小林です。
好物はラーメンで、食べたラーメンをフェイスブックで紹介しているのですが、そのせいで知人からは私がラーメンしか食べないで生きていると思われているようです。
それはそうと、
今回は、平成29年に施行になる消費者契約法と特定商取引法の改正部分について焦点を当てて説明をしたいと思います。
法律はどの法律も社会情勢に合わせて変わっていくことが求められますが、消費者保護のための各種法令は、世の中に新たな悪質商法が誕生する度にこれを追いかける形で対応を求められますので、特に改正が多い分野と言えると思います。
―具体的にどのような部分が変わるのでしょうか。
小林:すべてあげてしまうと時間が足りなくなってしまうので、主要な部分として、2つの点を紹介したいと思っています。
―はい。
小林:一つ目は、消費者契約法では、契約を取り消すことができる場合がいくつか規定されているのですが、その範囲が拡大されました。
二つ目は消費者契約法にも特定商取引法にもかかる部分ですが過量販売の規制という話題についてです。過量販売という言葉自体、聞き慣れないと思うので、後で解説しますね。
第2 不実告知による取消権の拡大
―一つ目は、消費者契約法で取り消すことができる範囲が広くなったということですが、どのような部分で広くなったのでしょうか。
小林:はい。それを理解するために、二つのよく似た事例を紹介したと思います。
一つ名は、「シロアリ駆除によく聞く駆除剤ですよ。」と言って実際にはほとんど効能がない薬を売ったという事例です。これを事例①としましょう。
二つ目は、本当はシロアリなど全くいない家の消費者に、「あなたの家にはシロアリがいるのでこのままでは柱が折れて家が倒壊してしまう。」と言って、リフォーム契約を締結させたという事例です。これを事例②とします。
―確かにどちらもよく似ていますが、何か結論が変わるんですか。
小林:はい。従来の消費者契約法では、事例①の方は取り消しが可能であったのに対して、事例②の方については消費者契約法による取り消しは困難でした。
―えー、そうだったんですか。
私は、事例②の方が「欺し方」がひどい気がします。
なぜこのようなことが起きるのですか。
小林:消費者契約法では、不実告知や不利益事実の不告知の場合の取消権というものが定められています。
―難しい用語が出てきましたね・・・。
小林:はい。不実告知というのは、重要な事実について事実と異なることを告げること。
不利益事実の不告知というのは、重要事実について利益になることを告げたのに不利益になることを故意に告げないことです。
後者はちょっとわかりにくいかもしれませんが、都合のいいことはアピールしたのに、都合が悪いことはわざと言わなかったという場合です。例えば、マンションの購入を勧める際に景観が非常によいということは告げつつ、近い将来その景観を台無しにする高層マンションがすぐそばに立つ計画を知りながら告げないようなことです。
―なるほど。確かにどちらも消費者からすれば、後で契約を取り消したい気持ちになりますね。
小林:そうです。ですから、このような場合には消費者契約法に基づいて契約を取り消すことができるのですが、では、どんな些細な事情についての不実告知や不利益事実の不告知でも取り消せると言えばそうではないわけです。
あくまで、「重要事項」について、でなければならないわけですが、従来の法律における「重要事項」に当たるか否かが、先ほどの事例①と事例②の違いになってきます。
従来の法律では、商品自体の質や用途、内容に関することで契約するかどうかの判断に影響する事項と、値段やその他の取引条件で契約するかどうかの判断に影響する事項が重要事項だとされていました。
―今説明をいただいた部分が重要事項であることは確かにその通りだと思います。でも、それでは足りなかったのですか?
小林:従来の法律では、先ほどご説明したこと以外について重要事項ではないという解釈が可能でした。そして、先ほどの重要事項の範囲をよく見ると、実は穴があり、消費者を救済しにくい、又は、悪質業者を追い詰めにくいという現状があったわけです。
―それが、事例②の場合だということですか。
小林:その通りです。事例①では、商品であるシロアリ駆除剤の性能について事実とは異なることを言っています。この時点で、重要事実についての不実告知になり、取消可能です。
―事例②では、シロアリがいないのにいると言って契約を締結させていますね。
小林:はい。
これが何について事実と異なることを言っているかということなんです。締結しているのは、リフォーム工事に関する契約ですので、販売しているもの、つまりリフォームの質とか用途その他の内容について嘘を言っているわけではないですね。それに、値段やその他の取引条件にも該当しません。
―でも、そもそもシロアリがいると思ったからリフォーム工事をした訳なので、素人の感覚ではこれこそ重要な事項だと思うのですが、なんか納得がいきませんよね。
小林:そうなんです。
でも、従来の法律の定め方を見ると、このようなケースが重要事項から抜けているように見えてしまっていたわけです。
素人感覚ではこれこそが重要事項だとおっしゃいましたが、その感覚は非常に正しいと思います。
これはまさに従来の法律の穴であった部分だと思います。
―これが、どのように変わるんですか。
小林:重要事項の中に「消費者が当該消費者契約の締結を必要とする事情に関する事項」が追加されました。シロアリいると思ったという事情は、今回のリフォーム契約の締結を必要とする動機になった事情ですので、事例②も今回の改正で取消権を行使ができることに疑いがなくなりました。
第3 過量販売による取消権の拡大
―ありがとうございます。
では、今回の改正に関する二つ目の点、過量販売についての規制の部分についてご説明をお願いしたいのですが、そもそも過量販売とはどのようなものですか。
小林:「次々販売」とも呼ばれるタイプです。
「過量」というのは漢字で書くと「過ぎた量」となるわけで、つまり、日常生活において通常必要とされる分量を著しく超える量を売る場合です。
―どんなものが過量に販売されることが多いのですか。
小林:あらゆる物やサービスについて可能性はありますが、かつて社会問題化したのは、住宅リフォームの過量販売や、布団、宝石・呉服などの過量販売で、いずれも高齢者の方が被害にあわれています。
―宝石や呉服は分かりますが、住宅リフォームの過量販売というのはどんなものですか。
小林:10年以上前ですが、2002年から2005年頃にかけて、埼玉県で、80歳くらいの高齢の姉妹の自宅に対して、少なくとも16の訪問販売事業者が次々に訪問し、総額5000万円以上のリフォーム契約を結ばせたんです。
この姉妹には認知症もありました。姉妹が持っていた4000万円以上の預貯金はすべて引き出されていたということです。
―ちょっと許せないというか、非道い事案ですね。
小林:そうです。
このような事案がきっかけとなって、2008年(平成20年)の改正で過量販売解除権が、まずは、特定商取引法に取り入れられました。
しかし、当初は、訪問販売のみを対象にした規制でした。
―今回の改正ではその範囲が広がったということなんですね。
小林:その通りです。
まず、特定商取引法では、電話勧誘販売による過量販売も対象になりました。
つまり、いきなり電話がかかってきて勧誘されて、通常使用しないような量を買ってしまった場合が、取消しの対象になりました。
また、消費者契約法にも過量販売の取消権が導入されました。
第4 過量販売の判断基準
―なるほど。
では、そもそも、どこからが過量なのかという基準について次に教えていただいていいですか。
小林:ここがまさに大きな問題ですね。法律の条文には、「日常生活において通常必要とされる分量等を著しく超える場合」としか書かれておらず、具体的な判断は、解釈にゆだねられているわけです。
―何か目安になるものはないんでしょうか。
小林:日本訪問販売協会という業界団体が作成している通常過量に当たらないと考えられる分量の目安というものがあり、これによると、例えば健康器具であれば、原則1世帯に1台とか、着物や寝具であれば一人が使用する量として1セットなどかなり具体的に定められています。
これも裁判所が必ず従わなければならない基準ではありませんし、あくまで通常はこの程度だろうという基準ですから特別な状況があれば違う結果になることもあるかもしれません。
しかし、一つの参考にはなると思います。
―ありがとうございます。
今日は、消費者契約法と特定商取引法の改正について、重要事項の範囲の拡大の部分と、過量販売の規制範囲の拡大の部分に的を当てて解説をいただきました。
でも、改正内容はこれだけではないんですよね。
小林:はい。
時間の関係ですべては紹介できませんが、いずれも少しずつですが、消費者被害が救済される範囲が広くなる方向での改正がされています。
リスナーの皆様も、何かおかしいな、と思うことがあれば、ぜひ札幌弁護士会の無料法律相談のご予約をいただき、弁護士に相談してください!
―どうもありがとうございました。4回にわたって消費者被害とその対応について札幌弁護士会消費者保護委員会の方々にご説明いただきました。
札幌弁護士会の知恵袋は、札幌弁護士会のホームページで過去の放送分をテキストで見ることができます。また、音声でも聞くことができます。今日の放送で聞き漏らした部分があるという方はぜひチェックしてください。
進行は田島美穂(たしまみほ)でした。
制作・著作
<エグゼクティブプロデューサー>
弁護士坂口唯彦(札幌弁護士会)
<プロデューサー>
弁護士小田嶋真悟,弁護士北山祐記(札幌弁護士会)
杉澤洋輝(三角山放送局)
<脚本>
弁護士小林裕和(札幌弁護士会)
<出演>
番組MC田島美穂(三角山放送局)
ゲスト弁護士小林裕和(札幌弁護士会)
<監修>
弁護士上田絵里,弁護士山田敬純,弁護士佐藤敬治(札幌弁護士会)
<初回オンエア>
平成29年4月25日