周波数 | 三角山放送局 76.2MHz「トークinクローゼット」内コーナー |
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放送時間 | 毎週火曜日 AM 9:15~ |
5月の月間テーマは、「不倫問題」です。
番組プロデューサーを兼ねる北山祐記弁護士と初登場の栗田みち子弁護士が、不倫や不貞のもたらす結果等について、今週も不倫問題を分かりやすく説明していきます。
5週間にわたってお送りする「不倫問題」大特集。
今回は、第2週です。
ぜひお聞きください。
放送日 | 2017年5月9日 |
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ゲスト | 北山祐記弁護士、栗田みち子弁護士 |
今週の放送 キーワード |
不倫と不貞行為の意味の違い、離婚訴訟における不貞行為の意味、慰謝料請求局面での不倫・不貞行為の意味、何を壊すと慰謝料を請求されるのか、婚姻破綻の抗弁 |
―はい,今週も「札幌弁護士会の知恵袋」の時間がやって参りました。
札幌弁護士会の法律相談によせられる皆様の質問に,弁護士がズバリ答えます。
毎週火曜日の午前9時15分から15分間,役立つ情報を月替わりのテーマで放送します。
5月は5週連続で,不倫問題について取り上げています。
今回はその2回目で,引き続き、北山祐記(きたやま ゆうき)さんと栗田みち子(くりた みちこ)さんのダブルゲストにお話しいただきます。
栗田:よろしくお願いします。
第1 不倫と不貞って違うの?
北山:ゲス・ゲス・ゲス、すいません。風邪をこじらせてしまったみたいで。
―そう入ってきますか・・・。
最近は、ゲスっていう言葉が不倫の代名詞みたいになってしまっていますが、そもそも不倫と不貞行為という言葉は同じ意味なのでしょうか?
栗田:全く同じ意味ではないです。
不倫は一般用語で、不貞行為は法律用語と説明するのが簡単です。
また、不倫の方が道徳や一般常識に反する行為という意味ならば、不貞行為よりもカバーする範囲が広い意味でしょう。
道徳に反する行為よりも法律に反する行為の方が通常はハードルが高いわけですが、どこからが不倫か、どこまでいけば不貞行為か、という境目は非常に難しいお話しなんです。
―若い女性の女子会なんかでは、「どこからが彼氏の浮気になる?」という議論がありますが・・・。それと同じような議論でしょうか?
北山:類似したところがありますが、若い女性の「浮気」の線引きは男性陣に厳しいですよね。
合コンをやったとか、メルアドを交換したとか、すれ違った女性を振り返ったとか・・・・。
―はいはい。それは駄目ですね。
北山:田島さんも手厳しい(笑)。
ただ、私たち弁護士が扱うのは、法律問題、すなわち、①離婚事由に当たる不貞行為かどうか、②慰謝料請求権が発生する不倫又は不貞行為かどうか、ですから、メルアドを交換したという行為を咎め立てしたり、介入することはないです。
第2 離婚裁判で言う、不貞行為ってどういう意味?
―今、2つの場合分けがありましたが、まず、離婚事件で取り上げられる不貞行為について伺いましょうか。
栗田:先週の放送でも少し扱いましたが、 民法770条1項1号では「配偶者に不貞な行為があったとき」は離婚訴訟が提起できる、と書かれています。
―協議離婚や調停離婚と言われるものとは少し違うのですか?
栗田:そうですね。
離婚そのものは、不倫や不貞行為がなくとも、夫婦相互の合意や家庭裁判所における調停で条件が折り合えば、役所に届出をすることで可能なわけです。
これが協議離婚又は調停離婚と言われるものです。
しかし、不貞行為をしてしまった有責配偶者は、離婚調停で、本人が離婚は嫌です、といって、調停が不調になっても、離婚訴訟を起こされてしまった場合、裁判所から判決で離婚を命じられることになるわけです。
―不貞行為をしてしまうと厳しい結果になるのですね。
北山:そうですね。
一方、不貞行為をした側は逆に離婚を望んでいる場合も多いかと思いますが、今のお話しは不貞行為をされた側、つまり被害配偶者が離婚訴訟を起こした場合のお話しです。
―やはり、不貞行為をした有責配偶者が直ぐに離婚できるというように都合良くは出来ていないのですね。
北山:そうですね。
不貞行為を理由とした離婚判決の場合、有責配偶者は通常の財産分与に加えて、後でも出てくる慰謝料の支払も命じられるでしょうから、不倫は「高くつく」と肝に命じていただいた方がいいでしょう。
ただ、離婚を強制される理由となる「不貞行為」ですから、家庭裁判所に求められるレベルも高いというか、「うちの妻、もしくは、うちの夫が不倫しているんじゃない」くらいの話や証拠では物足りないということになるのです。
例えば、合コンをしょっちゅうやっているとか、夫がニュークラブによく通っている、妻がホストクラブによく通っているというお話しなどでは物足りないということです。
第3 クラブ通いは、不貞じゃないの?
―今、お話しにあったような「大人のクラブ活動」が原因で、家計が切迫しても、判決で離婚は認めてもらえないのでしょうか?
栗田:配偶者が家計を圧迫するような遊び方をしている場合は、不貞行為を理由に離婚を求めるのではなく、「極端な浪費」、つまり「婚姻を継続し難い重大な事由」(民法770条1項5号)という切り口で離婚を請求する方が、筋がいい主張なのだと思います。
クラブに通ってる頻度や使った金額にもよるのだと思いますが・・・・
北山:「浪費」を理由に離婚を求める場合、その配偶者の年収が本当に高くて、収入に見合った遊び方というか、家計に十分なお金を入れながら遊んでいたという場合は、離婚請求はちょっと厳しくなります。
その点、不貞行為が離婚請求の理由の場合は、家計に十分なお金を入れていても離婚が認められてしまうことになりますから、「不貞行為」がきっちり主張・立証できるかはやはり離婚訴訟では重要なのかもしれません。
ゲスっぽい話になりますが、夫がニュークラブではなく、ソープランドに通っているということになれば、不貞行為の土俵に登ってくるというイメージでしょうか・・・・。
第4 配偶者が不貞を認めている場合も、証拠が必要なの?
―有責配偶者の方が、不貞行為の存在を離婚訴訟で認めていた場合でも証拠がいるのでしょうか?
栗田:そうですね。
有責配偶者が不貞行為の事実を具体的に認めている場合には、離婚事由の立証すなわち証拠集めは不要です。
ただ、慰謝料の額の大きさが訴訟で争われることもありますし、有責配偶者を早く降参させるためにも、先週、説明させていただいたデジタル証拠はやはり重要だと思います。
第5 不倫や不貞をされたら、慰謝料を請求できるの?
―では、慰謝料請求権が発生する不倫又は不貞行為のお話しに変えていただきましょうか。
栗田:はい。
慰謝料請求は、基本的に民事事件ですから、地方裁判所等で請求することが可能です。
不倫発覚により、その夫婦か離婚するかどうかに関わりなく、妻又は夫が、有責配偶者と不倫相手に請求できます。
ただ、今「請求できます。」という言葉を使ったのは、「請求が裁判所に認められるか?」ということは別だという意味です。
さらに、仮に勝訴するとしても「望んでいた金額が得られるか?」は、事案によって様々です。
―不倫の証拠が足りないという場合があったり、慰謝料の相場が下がってきているということでしょうか?
栗田:そういう場合やそういう事情は、たしかにあると思います。
ただ、それ以外にも、様々な要因で請求が認められないという場合があるのです。
その部分の検証を、弁護士に相談して、請求する側、請求される側の双方が事前にシミュレーションしておく事が重要だと思います。
それと、請求された側の方に言っておきたいことですが、弁護士というフィルターを通して、慰謝料請求訴訟が提起された場合は何らかの証拠は持っているのだろうと考えていいと思いますよ。
もちろん、例外はありますが・・・。
―交通事故なんかでよくある示談という形にはならないのでしょうか?
栗田:多くの場合、当事者同士の示談、あるいは弁護士を介した示談でまとまっているケースが多いのではないでしょうか。
それでも、①弁護士からの示談の提案を完全に無視されたケース、②私たちは不倫をしていないと否認する、又は、否認すると推測されるケース、③不倫の事実そのものは認めているけれども金額で折り合えず、裁判所で金額を決めてもらいたいというケース等は慰謝料請求訴訟ということになるのだと思います。
北山:ちょっと脱線しますが、民事裁判は基本的に公開の法廷で進んでいきます。
今日、どんな裁判が行われているのか、札幌地方裁判所の1階に貼り出されているのですが、個人的な感覚でいうならば、一番多いのが交通事故で、その次に来るのが、過払金の請求事件か、不貞慰謝料の請求事件です。
―そんなに多いんですか?
北山:はい。
相対的に多いということは言えると思います。
裁判所に貼り出されている紙、「開廷表」と呼びますが・・・、そこに表示されている事件名だけでは、損害賠償請求事件とあるだけなので、交通事故や医療過誤事件等と区別がつかないのですが、原告と被告が同じ性別であるかどうか、どの弁護士が担当しているか、等を考慮すると、不貞慰謝料の請求事件かどうか、がある程度推測できるのです。
―先ほど、多くの場合、示談でまとまっているはずだというお話しもありましたが、そうすると、不倫事件の氷山の一角ともいえる、目に見える裁判だけで、そんなに多くの事件があるわけですか・・・・。
栗田:はい。
結婚するカップルの数が年々減ってきているので、離婚の数も少し減少傾向ですが、未だに離婚件数は年間20万件以上です。そのうち、1割から2割が「異性関係」つまり不倫が理由とされています。
まだ、配偶者にバレていない場合や、既にバレているのだけれど、被害配偶者が我慢している場合も含めれば、潜在的な不倫事件は相当な数があるのだと思います。
北山:我慢されている被害配偶者の方は、お子さんが未成熟というケースが多いですが、お子さんの成人を待って、満を持して離婚請求というケースもありますので、思い当たる方はご注意ください。
―家庭裁判所で離婚判決を得るための不貞行為の認定はかなり強い証拠が必要という話がありましたが、慰謝料を認めてもらうための不倫の証拠もかなり強力なものが求められるのでしょうか?
北山:まず、民事訴訟で慰謝料を認めてもらうための第1の基準は、「平穏な家庭生活を破壊・侵害したか?」というものなので、必ずしも「ラブホテル等でエッチなことをした」という完全な証拠までは求められていないと思います。
そもそも、直接証拠と呼ばれる不貞行為の完全な録画映像がありました、なんて事件はまずないですから・・。
栗田:1人の夫と1人の妻、「一夫一妻制」という若干、語呂の悪い言葉ですが、この制度を崩壊させるに値する行為を有責配偶者と不倫相手がすれば、原則、慰謝料は発生すると思いますし、例のデジタル証拠があれば、通常は証明できると思います。
第6 慰謝料請求が認められないのは、どんな場合?
―例えば、慰謝料を請求しても認められない代表的なケースにはどんなケースがあるのでしょうか?
栗田:配偶者が、残業で家に帰ってくるのが遅い日が続いていただけで、結局、誰かと不倫をしているのではないか、ということが疑惑に留まる、あるいは、誤解だったというケースは、もちろん請求が棄却されてしまいます。
通常このような場合は、弁護士に相談した時点で、不倫の相手も不明、配偶者がどこで何をやったのかも不明ということで、弁護士が示談交渉や訴訟を受任しないとは思いますが・・・。
その他に、不貞相手が有責配偶者のことを「本当に独身だと信じていた場合」などは、被害配偶者の有責配偶者に対する慰謝料請求は認められますが、不貞相手への慰謝料請求は棄却されます。
北山:もっとも、「妻とはもう終わっている。」とか、「夫とは長く夫婦らしいことをしていない」等の恋人の言葉を信じていたという言い訳は不合理なので、普通は駄目です。
恋をした相手に妻や夫が存在することが、その言葉の中に含まれていて形式上結婚生活が存在していることは十分認識しているからです。
ただ、このような言い訳を、弁護士は不倫問題の相談を受けていて年に何回も聞くことになります。
―離婚は成立していないけれど、夫婦が別居して10年くらい経っている場合とかでも駄目なのでしょうか?
栗田:「婚姻破綻の抗弁」という不倫相手方の代表的な主張ですね。
夫婦のあり方が、それこそ昭和の時代と今では大きく変わってきているので、どのような状態が夫婦生活の破綻というべきか、については難しい判断なのだと思います。
ただ、子供の入学式に一緒に行っている等、夫婦間の音信が定期的にあったり、ましてや同居していて、それでも「家庭内別居だ。」みたいな主張がなされたとしても、婚姻破綻とは評価されないですね。
第7 裁判で、不倫や不貞をやめさせることができるの?
―今週の最後にお聞きしておきたいのですが、今後は不倫を止めて欲しい、夫と別れて欲しいという差し止めのような裁判をやることはできないのでしょうか?
北山:被害配偶者からの相談で、非常に多い要望ですね。
実際に差止を求めた裁判はあったのですが、認められませんでした。
ただ、現実には慰謝料請求の形で不倫相手にコンタクトをとり、その示談を行う中で、今後の接触を禁じる条項などを入れることで、同様のことは実現できると思います。
問題は、繰り返しになりますが、不倫も「恋」ですから、本人達が冷めてくれないと、つまり冷静になってくれないと、これを止めることは結構難しいということです。
―難しいですね。
まだまだ、話題は尽きないですが、それは来週以降にいたしましょう。
札幌弁護士会の知恵袋は、札幌弁護士会のホームページで過去の放送分をテキストで見ることができます。また、音声でも聞くことができます。今日の放送で聞き漏らした部分があるという方はぜひチェックしてください。
進行は田島美穂(たしま みほ)でした。
制作・著作
<エグゼクティブプロデューサー>
弁護士坂口唯彦(札幌弁護士会)
<プロデューサー>
弁護士北山祐記(札幌弁護士会)
杉澤洋輝(三角山放送局)
<脚本>
弁護士北山祐記、弁護士栗田みち子(札幌弁護士会)
<出演>
番組MC 田島美穂(三角山放送局)
ゲスト 弁護士北山祐記、弁護士栗田みち子(札幌弁護士会)
<監修>
弁護士上田絵里,弁護士山田敬純,弁護士佐藤敬治(札幌弁護士会)
<初回オンエア>
平成29年5月9日