周波数 | 三角山放送局 76.2MHz「トークinクローゼット」内コーナー |
---|---|
放送時間 | 毎週火曜日 AM 9:15~ |
6月の月間テーマは、「インターネット上のトラブル」です。
第3週の今週は,前回に引き続き大山洵弁護士が出演します。ラジオの収録にも慣れ,ちょっと調子づいてきた大山弁護士が,インターネットオークションにまつわるトラブルについて元気に説明をします。
4週間にわたってお送りする「インターネット上のトラブル」大特集。
第3週を、ぜひお聞きください。
放送日 | 2017年6月20日 |
---|---|
ゲスト | 大山洵 弁護士 |
今週の放送 キーワード |
インターネットオークションにまつわるトラブル,通信販売とオークションの違い,売買契約,瑕疵とは,瑕疵担保責任,基本性能に関わる不具合,ノークレーム・ノーリターン,入札する際の注意点,出品する際の注意点,補償規程 |
―はい,今週も「札幌弁護士会の知恵袋」の時間がやって参りました。札幌弁護士会の法律相談に寄せられる皆様の質問に,弁護士がズバリ答えます。
毎週火曜の午前9時15分から15分間,役立つ情報を週替わりのテーマで放送します。6月のテーマは「インターネット上のトラブル」。
本日は,その第3回目で,ゲストは前回に引き続き札幌弁護士会所属の大山洵(おおやまじゅん)さんです。
大山:よろしくお願いします。
―よろしくお願いします。
それでは,早速ですが,今回のテーマは何でしょうか。
大山:今回は「インターネットオークション」に関連したトラブルについてお話したいと思います。
第1 通販とオークションの違い
―インターネットを利用した通信販売は、宅配便業界の人手不足のニュースなどでも話題になっていますが、利用数が急増しているそうですよね。
通販とオークションの違いは、どのように理解したらいいでしょうか?
大山:そこは重要ですよね。
通販の場合は、多くの場合、新品が売られているわけですから、信頼できる会社から購入する限りでは、あまり大きな問題はおきません。
しかし、オークションは主に中古品が扱われるので問題がおきやすいわけです。
―インターネットオークションは、商品の現物をみて買えるわけでもないので、古着屋さんなどで古着を買うのとは、かなり違いがありますよね。
大山:商品の写真数点と説明文だけで購入するのですから、商品が届いた時に、イメージのギャップを感じる場合も多いでしょうね。
店頭で買い物をすることになれている上の年代の方は、慎重な性格といいますか、なかなかインターネットで買い物はしないのですけれど、若い世代の方は、インターネットで買い物をすることに積極的ですよね。
第2 オークションでのトラブル(瑕疵)
―リスナーの皆様もオークションを利用された経験のある方もいらっしゃいますよね。
具体的にはどんなトラブルがあるのですか。
大山:一番多いのが,落札して商品が届いたけれども,出品者の説明文にないキズや不具合があった,というものになるかと思います。
―なるほど。その場合に,落札した人は出品した人に対して何か請求できるものなのでしょうか。
大山:はい。法律的には色々考えられるのですが,民法570条に「瑕疵担保責任」という規程があって,これに基づいて一旦成立した取引を解除したり,出品者に損害賠償を請求するということが考えられます。もっとも,説明にないキズや不具合があれば常に瑕疵担保責任を追及できる,ということにはならないので注意が必要です。
―「瑕疵」という言葉は以前の消費者トラブルの回でも出てきましたが,説明をしてもらってもいいですか。
大山:はい。簡単に言うと,「瑕疵」とは,その物が通常持っているとされる性質や状態を持っていなかったこと,を言います。
そして,瑕疵担保責任を追及するためには,落札した人がその「瑕疵」の存在を知らなかったこと,つまり出品した人の説明文にその不具合について記載がなかったことが必要となります。
―具体的に言うと,どういう場合に「瑕疵」がある,と言えるのでしょうか。
大山:裁判例などからは,その物の基本性能に関わる不具合がある場合に,「瑕疵」があるとされる傾向にあるようです。
―基本性能に関わる不具合というと,具体的にはどういう場合でしょうか。
大山:はい。ここで,実際の裁判例を元にクイズ形式で答えてもらいたいと思います。
インターネットオークションで車も取引されたりすることもあるのですが,車で言えば,次の3つのうち,どれが基本性能に関する不具合にあたるでしょうか。1.タイヤの劣化,2.運転席のドアがきちんと閉まらない,3.ガソリンタンクのガソリン漏れ。さあどうでしょうか。
―この中で,一番危険そうなのはガソリンタンクのガソリン漏れだと思うので,3で。
大山:正解です。
実際の裁判例では3つの中で3のみが「瑕疵」とされています。この裁判例では「ガソリン漏れが生じている自動車では,引火の危険性などからして安全な走行それ自体が困難であることは明らかである」と判断されています。
―なるほど。でも2番の運転席のドアがきちんと閉まらない,というのもそれなりに危険な気もするのですが…。
大山:確かにそうですよね。
その時々の具体的な事情によって何が「瑕疵」に当たるのか,という判断も変わることになります。この裁判例の元となった事件では,通常の取引価格よりも極めて低い価格で車が落札された,という事実があったんですね。このことから,何が言えると思いますか。
―うーん,普通よりかなり安いのだから,そもそもある程度の傷や不具合があることは予想できたはずだ,ということでしょうか。
大山:そうですね。
一つ一つの傷や不具合の全てについて出品者の説明文に記載がなかったとしても,通常より極めて安い価格で落札しているのだから,落札者の方である程度の傷や不具合があることは予想できるはずだ,ということになります。
そうすると,車の基本性能に関わらないキズがあったとしても,通常持っている性質を欠くものとは言えない,ということになります。
―なるほど。
そうすると,逆に言えば,いくら普通よりも安いからと言って,その物の基本性能に関わるような不具合について何の説明も無かった場合には,出品者に責任を問える可能性がある,ということですね。
大山:そうなりますね。
例えば家電製品などであれば,動作に関わらないキズなどについて説明が無かったとしても,出品者の責任を問うことはかなり難しいですが,動作それ自体に不具合があるのに何の説明もなかったような場合には,出品者の責任を問える可能性が出て来ることになりますね。
―インターネットオークションというと,洋服や装飾品を落札したことがある,という方が多いと思いますが,洋服や装飾品だとどういう風に考えればいいでしょうか。
大山:洋服や装飾品について考えると,何が「基本性能」といえるのかは難しいところがありますね。説明のないキズや汚れなどについて出品者の責任を問えるかどうかは,キズや汚れの付き方,その範囲などによって本当にケースバイケース,ということになってくるかと思います。
―確かに洋服などは車や家電等の機械とは違って,判断に迷いそうですね。
ところで,出品者の説明文に「ノークレーム,ノーリターンでお願いします。」というような文章があったりしますが,出品者としては,このような文章を記載しておくことで,瑕疵担保責任を免れることはできるのですか。
大山:確かにそのような文章はよく見かけますね。
これについては,経済産業省が見解を出していて,「出品物に瑕疵(例えば商品説明には記載されていなかったキズや汚れなど)があること等を自ら知っているにもかかわらず,これを入札者・落札者に告げないで取引した場合にまで,売主に免責を認めるものではない。」としています。
―結局,出品者は責任を免れることはできるのですか。
大山:出品者が知らない瑕疵があった場合には出品者は瑕疵担保責任を免れる可能性がありますが,出品者がキズや汚れの存在について知りながら,これを入札者に告げないで取引をした場合にまで責任を免れることはできない,ということになります。裁判などで争われる場合にも,この考え方に基づいて判断されるものと考えられますね。
第3 オークションでのトラブル(売買契約)
―なるほど。出品者としては,「ノークレーム,ノーリターンで」と書いておけば常に責任が免れるわけではない,ということになりますね。
あとは,ネットオークションといえば,入金を済ませたのに商品が送られて来ない,逆に,商品は送ったのに代金が支払われない,というようなトラブルがあるかと思いますが,このときは相手に対してどういう請求をすることができますか。
大山:はい,商品の落札をきっかけとして,出品者と落札者との間には売買契約が成立していることになります。
出品者としては,当然に代金の支払いを請求することができますし,落札者としては当然に商品の引き渡しを請求することができます。
―相手に,商品の引き渡しや代金を振り込むよう請求しても何も反応がないような場合はどうすればいいですか。
大山:その場合には,成立した売買契約を解除して,支払った代金または発送した商品を返還するように請求することもできます。
さらに,相手方に対する請求ではないのですが,個別のオークションサイトで,被害に遭った金額について,独自に補償をしている場合もありますね。ですので,取引をしたオークションサイトをまず確認された方がいいかと思います。場合によっては,相手方の行為が詐欺罪となることもあるので,警察に相談することも考えた方がいいかもしれませんね。
第4 オークションを利用する際の注意点
―なるほど。それでは,最後のまとめとして,インターネットオークションを利用する際の注意点について,入札する場合と,出品する場合のそれぞれの立場からいうとどういうことになりますか。
大山:入札する方としては,当たり前のことですが,出品物について気になる点があれば遠慮なく出品者に問い合わせてみることですね。質問に対する答えが無い場合や回答が明確でないような場合には,入札を控えた方がいいかもしれません。落札して届いた物に瑕疵があれば,法律的には出品者に損害賠償などを請求できる可能性がありますが,それ自体、金銭的な負担のかかる事ですし,事前にトラブルを防ぐに越したことはないですしね。
―では,出品者の立場からはどうでしょうか。
大山:これも当たり前のことではあるのですが,出品物についてキズや不具合がある場合には,その部分の画像を付けるなどして,詳細に説明することが大切です。落札者との後々のトラブルを防ぐことができますし,不具合について知りながら記載しないような場合には,損害賠償の支払いや返品の対応をしなければならないばかりか,場合によっては詐欺罪などの罪に問われることにもなりますからね。
―ありがとうございました。
札幌弁護士会の知恵袋は、札幌弁護士会のホームページで過去の放送分をテキストで見ることができます。また、音声でも聞くことができます。今日の放送で聞き漏らした部分があるという方はぜひチェックしてください。
進行は田島美穂(たしま みほ)でした。
制作・著作
<エグゼクティブプロデューサー>
弁護士坂口唯彦(札幌弁護士会)
<プロデューサー>
弁護士北山祐記、弁護士髙橋健太、弁護士村本耕大(札幌弁護士会)
杉澤洋輝(三角山放送局)
<脚本>
弁護士大山洵(札幌弁護士会)
<出演>
番組MC 田島美穂(三角山放送局)
ゲスト 弁護士大山洵(札幌弁護士会)
<監修>
弁護士上田絵里,弁護士山田敬純,弁護士佐藤敬治(札幌弁護士会)
<初回オンエア>
平成29年6月20日