周波数 | 三角山放送局 76.2MHz「トークinクローゼット」内コーナー |
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放送時間 | 毎週火曜日 AM 9:15~ |
放送日 | 2017年7月4日 |
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ゲスト | 佐藤大蔵 弁護士 |
今週の放送 キーワード |
残業代・労働時間・時間の記録・残業代の計算方法・時効期間・裁判・労働審判 |
―はい、今週も「札幌弁護士会の知恵袋」の時間がやって参りました。
札幌弁護士会の法律相談によせられる皆様の質問に、弁護士がズバリ答えます。
今回から,会社で働く人にとって大切な,労働問題について、4週にわたってお話いただく予定です。
労働問題の第1回目の今回は,残業代についてお話いただきたいと思います。
今週のゲストは、札幌弁護士会に所属の佐藤大蔵(さとうたいぞう)弁護士です。
宜しくお願いいたします。
佐藤:はじめまして、今日はよろしくお願いいたします!
―佐藤先生は、札幌ご出身ではないということでしたね?
佐藤:はい、私は生まれは栃木出身ですが、生まれた場所には1か月程度しかおらず、父の仕事の都合で、これまで13回ほど引越しを経験しましたもので、札幌出身ではありません。けれども、札幌にも昔2年ほど住んだことがあって、札幌が好きで東京から札幌にやってきました。
―13回も引越しってすごいですね!
佐藤:大変でした。いろんな場所に住んだ中で、私は札幌がとても好きでした。ですので、今回の放送でも何か皆さんにとって有益な情報を、伝えることができればと思ってますよ。
―ぜひぜひ、宜しくお願いします。
今週のテーマ残業代についてと聞いています。
宅配便業界などで、人手不足などがニュースでも取り上げられていますが、人手不足ってどこの業界でも今問題になっていますよね。人手不足だと、残業も増えていきますよね。
佐藤:皆さんの周りでも、人手不足が深刻で、夜の帰りが毎日10時、11時などという人はいるのではないかと思います。働き方や業種も様々で、9時から夕方5時までと決められた時間で終わらない仕事もあるとは思いますが、皆さんが残業をしているということであれば、残業代は会社に請求する権利があるわけですから、今日お話しする内容は、頭の片隅にいれておいてもらえるとよいのではないかと思います。
どのような場合に残業代が請求できるのか?
―もしかしたら、仕事に追われて、残業はしていても、残業代に思い至る方は少ないかもしれません。
そもそもですが,残業代ってどんな時にもらえるものなんでしょうか?
佐藤:残業代については,労働基準法で支払うべき時が決められています。基本的には,1日8時間以上働いた場合,または,1週間に40時間以上働いた場合には,残業代がもらえることになっています。このことから、会社で決められた時間よりも長く働いたとしても、一日8時間、週で40時間を超えていない場合には、法的に残業代を請求できる残業にはならないということになります。
―なるほど、法律で決められた基本的な労働時間があるんですね。土日休みの職場でも急な仕事や残った仕事をするために、出社するなんて人もいますよね。
佐藤:そうですよね、土日働くことで、週40時間を超えていれば、週40時間を超えている時間の分の残業代を請求できます。それと、1週間に一度は法定休日という正式な休日を設定する必要があるのですが、その日に働くと休みの日の労働として、全ての勤務時間分の賃金を請求することもできます。
―週40時間が一つのルールというのは,知らなかったですけど、しっかり覚えておいたほうがよさそうですね。そういえば,残業代って普通より多めのお金がもらえるって聞いたことがあります。算定される金額は変わるんですか?
残業代は通常勤務時に比べ割増しになるのか?
佐藤:残業代の金額は,原則として1時間あたりの給料額を、1.25倍した金額に、残業時間をかけた金額になります。
―意外とシンプルに計算できるんですね。あれ,そうすると,会社に長くいればいるほどたくさん給料がもらえるということになるんですか?
佐藤:いえ,そうともいいきれません。会社にいればいいというものではなくて,ちゃんと働いている時間だけが残業時間になります。仕事が終わった後,会社で遊んでいても,残業代はでないということです。
労働者が指揮監督を受けているとされる状況とは?
―それはそうですよね。でも,ちゃんと働いている,ってどんな時なんでしょうか。
佐藤:これは,使用者側の「指揮監督命令」を受けているときが「労働時間」にあたり,残業代がもらえる時間とされています。
具体的にいうと,上司にこの仕事をするようにといわれた仕事をきちんとやっている時間が,残業代支払いの対象となります。
普通は仕事終わったらみなさんすぐに家に帰りますから,よっぽどのことが無い限りは,会社にいる時間が労働時間になると思います。
―もう少し具体的に待機していたり、何もしていない時間というのはどうなるんでしょうか。
佐藤:たとえば、こんなケースがあります。深夜のビルの管理業務での、仮眠時間についてですが、電話対応はしないといけないとされている時間は、労働時間にあたるという判決が出されています。労務から完全に開放されていないということを理由に、労働時間にあたるという判断です。
他にも、工場の作業員に関する裁判では、工場業務の作業服に着替える時間なども労働時間にあたるという判決が出ています。
時給の計算方法は?
―意外と労働時間にあたる時間って広い印象を持ちました。さっきのお話だと、残業代の金額は,1時間あたりの給料額を1.25倍した金額に残業時間をかけるってお話でしたよね?1時間あたりの給料って,どうやって計算すればいいんですか?
佐藤:そうですね。原則は給与明細上の額面の金額を、毎月の労働時間で割って計算します。額面の金額ですから,税金や年金を引く前の金額ですね。ときどき,基本給だけを割って金額を出そうとする会社もありますが,それ以外にも固定的に支払われているものを含めた額面の金額を、時間単価で割って計算しなければなりません。
また,ここでいう毎月の労働時間というのは,残業以外の正規の労働時間の意味です。会社の規定にもよりますが,大抵のところでは173時間ほどで割ることになります。
時給制のところなどは,時給がそのまま単価になりますね。
―なるほど,ところで,話はかわりますが,残業代がもらえてるかどうかって,どうやったらわかるんでしょうか。
佐藤:最終的には,給与明細を見て,これまでお話してきた計算方法で計算できる残業代が記載されているかを確かめるしかありません。
―計算って結構大変ですよね。残業代が払われているのか、何か特徴とかってありませんかね??
タイムカードは重要な証拠
佐藤:正確にわかるわけではありませんが,これから教える3つの点は残業代が適切に払われているかの特徴、目印になると思います。
まず,第1に会社があなたが働いている時間を把握しているかどうかです。タイムカードなどが一切なく,日報の提出もない場合には,会社が残業時間を知るすべがありません。そうすると,当然に残業代が支払われていない可能性が高いと言えます。
あまりこういう例はないと思いますが,退勤のタイムカードを押してからもずっと働け!なーんて言われている場合には,サービス残業が明らかですから,残業代がちゃんと払われてないと判断できます。
―なるほど,まずはタイムカードなどの確認ですね。
佐藤:第2に1日8時間以上働いている方であれば,自分が会社からもらっている給与明細を見て,「時間外手当」という記載があるかです。一般的には残業代は給与明細に時間外手当という名前で記載されています。この費目がなければ,残業代が支払われていないことを疑うべきです。
もちろん,給与明細がもらえない,という場合も残業代が支払われていないことを疑う根拠になりますね。
―そんな会社あるんですか?
佐藤:残念ながら,そんな会社もときどきあるんですよね。
さて,第3は,給与明細の時間外手当がずーっと同じ金額になっている場合です。本来,残業時間が毎月違うので金額が変わるはずです。変わらないということは,なにか誤魔化されている可能性が高いといえます。
ただ,これは給与体系によっては問題ないこともありますので,最終的な判断は弁護士等に相談して確認してください。
―3つの特徴の確認なら素人でも、簡単に調べられそうですね。
残業代請求の消滅時効
佐藤:はい,そうしてもらえれば,少し判断がしやすいと思います。
あと,もうひとつ注意点があります。残業代については,今からさかのぼって2年分しか請求ができませんので気をつけてください。
―え、そうなんですか?2年というのは結構短い印象ですね。
佐藤:残業代については,時効が2年と決められているんです。会社に請求するのであれば、すぐに請求しないと、2年以上前の残業代はどんどんなくなって消滅していってしまいます。
―それは気をつけないとだめですね。他に気をつけるべきところはありますか?
佐藤:残業代の請求をする際には,自分が働いた時間を証明することができるかどうかが大事になります。
会社でタイムカードが使われているなら,タイムカードを写真で取っておくとか,メモでもいいので,いつからいつまで会社で働いたかを示すことのできる客観的な証拠が必要になりますね。
―やっぱり証拠が必要になるんですね。自分で書いたメモでもいいんですか?
佐藤:タイムカードに比べればだいぶ証拠としての価値は下がってしまうのですが,毎日日記形式で付けていれば,有力な証拠になります。帰るタイミングを奥さんにメールして保存しておくなどもよい方法かと思います。あとは、会社のパソコンのオンオフの切替の記録、取引先へのメールなども働いていたことの証拠になると思います。
時間について、何か説明できる証拠がないか、考えてみてください。
―証拠が必要ということは,やっぱり裁判になるんでしょうか。裁判というとかなり重いイメージがありますね。
佐藤:残業代についても,会社との交渉で終わることもあります。もっとも,会社が対応してくれないということであれば、裁判までしなければならないことも少なくありませんね。
裁判となると、残業代を受け取るまでに1年以上かかるケースもあります。
労働審判についての説明
―先生、もっと簡単な方法はないんですかね。
佐藤:労働問題については,労働審判という簡易な手続きが裁判所で用意されていますので、この方法によることも考えられます。労働審判は,原則,3回の期日で結論を出す制度ですので,労働審判で終わるのであれば,半年以内に終わることが一般的です。
労働審判は,裁判よりも最終的には話合いで、早期解決を模索する点に特徴がありますので、裁判よりも,もらえる金額が少なくなったりすることはあるかもしれません。これは場合によりけりです。
―裁判よりは手軽ということで、だいぶ使いやすそうな制度ですね。
佐藤:ええ,労働事件は,残業代の計算や証明する方法なども、特殊な部分もあります。このあたりについては,法律相談をしていただいて,確認していただきたいと思います。
さて,これで本日予定していた残業代についてのお話は終わりになります!基本的なことをお話させてもらいました,頭の片隅にとどめておいていただければと思います。
気になる部分があった方は,これから確認してみてください。
―本日は,どうもありがとうございました。
札幌弁護士会の知恵袋は、札幌弁護士会のホームページで過去の放送分をテキストで見ることができます。また、音声でも聞くことができます。今日の放送で聞き漏らした部分があるという方はぜひチェックしてください。
進行は田島美穂(たしまみほ)でした。
制作・著作
<エグゼクティブプロデューサー>
弁護士坂口唯彦(札幌弁護士会)
<プロデューサー>
弁護士北山祐記、弁護士髙橋健太、弁護士村本耕大(札幌弁護士会)
杉澤洋輝(三角山放送局)
<脚本>
弁護士佐藤大蔵(札幌弁護士会)
<出演>
番組MC 田島美穂(三角山放送局)
ゲスト 弁護士佐藤大蔵(札幌弁護士会)
<監修>
弁護士上田絵里、弁護士山田敬純、弁護士佐藤敬治(札幌弁護士会)
<初回オンエア>
平成29年7月4日